目を開けるとそこは
拓未はカテナに渡された手帳の内容を全て読み終えた。
そこに記されていたのは日下雅人の軌跡。
「……感染者の治療、だと」
そんなことが本当に可能なのかと拓未は考える。
感染者は、他の不死者とは違う。
肉体的に死亡している訳でなく、彼等の生命活動は継続している。
ただヒトという枠組みから外れてしまった存在だ。
それをヒトの枠組みへと戻す。
日下雅人が関わっていたのはそんな研究であると手帳は物語っていた。
そして、その研究が間違っていたとも語っている。
「感染者の治療をしてはならない、か」
手帳の記述を見る限り、治療薬は完成し日下雅人は感染者の治療にあたった。
しかし、それは間違いだったと述べている。
その理由までは書かれておらず、拓未は自身で考える他なかった。
「……その治療が、この施設の崩壊を招いたってことなのか?」
「十中八九、そうであろうな」
拓未が手帳を読み終えるのを黙って待っていたカテナが口を開く。
「あれもそれも治療とやらを受けた者達であろうよ」
カテナが指し示したのは床に転がる死体だった。
これにより、謎が一つ解けた。
真理が言ってた『見知らぬ顔』それらはこの地下施設の深部に収用されていた感染者だったのだ。
「……だったら、治療は失敗してたってことか」
感染者の治療は失敗し、何らかの理由で感染者が暴走。
暴走した感染者が地下施設崩壊の原因となった。
拓未はそう想像した。
「違うな。治療は成功しているぞ駄犬」
「成功しているだって?」
「あぁ。ここにいる者は全てが人間だ」
施設内にある死体の全てが人間のものであり、感染者の死体は一つとしてない。
「治療薬は完成し感染者は人間へと戻った。そして、この場は崩壊したのだよ駄犬」
「…………」
カテナの言葉を拓未は己の内で反芻する。
その言葉が本当なら何故この施設は崩壊することになった。
拓未はその理由に至るため思考を加速させる。
しかし、答えは浮かび上がらなかった。
「……物分かりの悪い駄犬め。仕方ないから、ヒントを出してやろう」
「ヒント?」
「そこに転がる元感染者。良く調べてみろ」
カテナは適当な死体を指し示した。
拓未はその言葉に従い死体を調べる。
性別は男で年齢は分からない。火に焼かれたことで顔が爛れていたからだ。
「これは……」
拓未はそれに気づく。
「……そういう、ことか」
拓未はようやく解った。
感染者を治療してはならないという日下雅人の言葉の意味を。
「カテナ、俺は地上に戻る。お前は……」
拓未は真理のことが心配になっていた。
分かれて別々の事を済ませてしまおうとしたのは間違いだったと拓未は思う。
仮の拠点にしているホームセンター。
この数日が安全だったためにすっかり危機管理が甘くなっていた。
真理を一人にしておくのは危険だ。
感染者が真理を狙っていたのは、本能による自衛の為だった。
真理は感染者にとっての天敵になりうる。
それを本能的に察知した感染者が初めて会った夜に真理を襲ってきたのだ。
それと同じことが、いつ起こるとも分からない。
拓未は今すぐにでも真理の元に駆けつけたかった。
「……私はまだ行かない――いや、行けない。というのが正しいか」
「そう、だよな。まだ、陽がある時間帯か」
拓未の体内時計からして現在は夕刻。
日没までにはまだ時間があった。
「俺は先に行く。お前も後から来てくれ」
拓未はカテナにそう言い残し、地上に向けて階段を駆け上がっていくのだった。
◆◆◆
「…………ん」
真理は微睡む意識のなか目を開いた。
「……え」
そこは知らない場所であった。




