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Dead Heat Zone  作者: 中村英雄
27/83

一冊のノート

「……木場さん」

「またか?」

「はい。知らない人です」


 床に転がる死体を指差し真理は言った。


 現在、三人は地下施設を下降している。

 見取り図と真理の情報によれば、拓未たちが最初に足を踏み入れた場所はこの地下施設唯一の出入り口であった階層らしい。

 拓未達の入った扉以外にも、幾つか外へと通じると思しき扉を発見出来た。

 しかし、そのどれもが内側から溶接され出入り不能。

 この階層にはそういった扉はあれど、部屋の類いは発見出来なかった。

 真理も逃げる際に初めて知った階層ということなので、これ以上の調査は一端やめて下の階層を目指すことに。


 エレベーターはさすがに動いていなかった。

 電機系統は完全に死んでいる様子。

 カテナの魔法により、照明が確保されていなければ何も見えていなかったのが良い証拠だ。

 空調も働いておらず、火災によって充満していた一酸化炭素等の有毒ガスもカテナがいなければどう処理していたことか。

 拓未は改めてカテナに感謝し、発見していた階段を使い下へと降りていく。


 その際にも、死体を幾つか発見する。

 安全だと言われても、円治はやはり警戒を怠れず慎重に進んだ。

 真理は死体を見つけては顔を確認していき、見知らぬ顔を発見しては拓未に報告した。


「……また、真理の知らない人間か」


 単純に真理が知らないだけで、普通に施設内で暮らしていた人間と考えると一応筋が通る。

 真理は同じ紅瞳レッドアイズの子供たちと生活を共にしていた。

 その生活拠点は、拓未達が入ってきた階層を一階とした場合、二階、三階となる。

 食事を摂るのも、眠るのも、遊ぶのも、大抵はその階のみで日々を過ごした。

 拓未の発見した階段は普段は立ち入り出来ぬよう封鎖されていたらしく、子供たちも近寄らなかった。

 そのため一階には立ち入ったこともなく、真理は存在も知らなかったのだ。

 エレベーター自体、使うには大人の同伴と鍵が必要だっため無理もない。


 真理が訪れたことがあり知っていた階層は全部で四つ。

 子供たちが遊戯や娯楽を楽しめるように設計された二階。

 子供たちの居住区として、幾つもの部屋と大勢でくつろげる団欒スペースがあった三階。

 父親である日下雅人が働いていた仕事場のある四階のみだ。


 これなら、出入り口である一階を除いた六つの階層にいた人間の顔を知らなくても当然といえる。


「……情報が足りないな」


 全てはそれを手にしてからでないと始まらなかった。

 この地下施設はなんなのか、どんな人間がどれくらいいたのか、日下雅人とは何者だったのか、何故この施設は崩壊したのか。

 それらを紐解くにも、情報が必要だった。


「せめて、日誌なんかでも見つかれば……」


 今現在、拓未たち三人は三階まで降りて調査をしていた。

 二階も三階も、元は真理が暮らしていた場所だ。

 しかし、そこは子供たちが日々を楽しく暮らしていたとは到底思えないほどに酷い有り様だった。

 真理もショックを隠せないようで、息も荒く周囲をくまなく調べていた。


「いったい、ここで何があったんすかね旦那?」

「わからん。それを知るためにも色々探してるんだ。さっきの階もここも荒れ方が酷い。次に期待するしかない」


 拓未の目当ては次の四階にこそある。

 順に調べてきた二階と三階。ここは子供たちが暮らしていた場所ということで、あまり期待はしてなかった。

 あるのは真理が向き合わなくてはならない現実であり、拓未にはどうしようもできない。

 慰めたところで気休めにもならないだろう。

 それよりも、この施設がどうしてこうなったかを知る手掛かりを見つけた方が手向けになるはずだった。

 拓未は四階へと足を進める。


「……当たりだ」


 拓未はその光景に胸を高鳴らせる。


「旦那。これって、研究室ですか?」


 それは紛れもない研究室跡だった。

 割れているものもあったがガラス張りの部屋が複数並んでいる。

 ガラス張りの室内には紙が散乱していたり、パソコンがあったり、実験器具のようなものもある。

 荒れてこそいるが、これなら充分に情報を入手出来る。

 拓未は床に落ちている一枚の紙を拾い上げた。


「……解らん」


 その紙にはびっしりと数式が書かれていて拓未には解読不能。

 最終学歴は中学校崩壊という拓未なので仕方ないことだ。

 それでも日本語と漢字は読めるので、理解できそうな資料を探すことにする。


「えー、このなかで漢字と日本語の読み書き出来るのは?」


 この問いに真理はピンと手を伸ばした。

 知識は本や映像で蓄えてきた真理だ。大概の漢字は読めるし書けるのである。

 そんな真理とは対照的に、円治は低く手を上げていた。


「円治はどれくらいなら読み書き出来るんだ?」

「オレは読む専門です。ハイ……」


 円治の場合、幼少の時点で世界は今の状況となっていた。

 そのため、日常のなかで学ぶ暇など存在しない。

 瀬田による、読み書きの教室もあったが円治はそれもサボり、身についているのは漫画を読む程度の力だけだ。


「それでも読めるなら充分だ。なんでもいいから日本語の資料を探すぞ」


 望ましいのは日誌などの、日々の活動を記録している媒体だ。


「とりあえず、幾つか部屋もあるし分かれて探そう」


 三人は、それぞれ別々の部屋へと分かれ探索を開始した。

 効率を考え、資料は日本語であれば内容に関わらず確保という流れで収集。

 一時間もしないうちに、山積みの紙の束が出来上がってしまうのだった。


「……まだ、半分も部屋を調べてないのにこれか。やり方間違ったな」

「木場さん、とりあえず書類整理しましょう。これとか、ただの殴り書きのメモみたいですし」

「そうだな。良く見りゃ日本語ってだけで、要らないものも多い」


 集められるだけ集めてしまったために、無駄な作業が増えてしまった。


「……旦那、俺も手伝った方がいいですかね」


 はっきり言って、円治はこういった仕事が苦手だった。


「いや、それよりも見てない部屋を調べてくれ。ここにあるのは書類ばかりだし、それ以外の個人的な日記や手帳なんかを中心に探してくれ」

「わかりました!」


 書類の整理は二人で手が足りていたので、拓未は円治に別の仕事を与える。

 円治が行ったのを確認し、拓未は書類整理に熱を入れるのだった。


「さて、ここにするか」


 円治は適当な部屋へと足を踏み入れた。

 この部屋も他の部屋同様に、かなり荒れていて酷い有り様だ。


「えーと、書類はいらないからっと」


 円治は床や机に散乱する紙をどかしながら周辺を物色した。


「ん?」


 そして、一冊のノートを発見する。

 紙束の奥に隠れていたボロボロの一冊だ。

 円治はそれを開いて確認した。

 中身が読めなければ、見つけても意味がない。

 中身が読めたとしても、内容に価値がなければ仕方ないからだ。


「……こ、れ」


 途中から開いていたページを閉じ、最初から円治は読み進めた。

 腰を落とし、真剣な眼差しで食い入るように。


「…………」


 ただただ、それを読み進めた。


「円治、どこだ?」


 拓未の声に円治はハッと意識を取り戻す。

 ノートを読み進めるのに集中しすぎてしまった。

 立ち上がり、キョロキョロと辺りを見回す円治。

 離れたところで書類整理をしていたはずの拓未が何故か帰り支度をしているのを発見する。


「あれ、旦那? なんで帰り支度なんか」

「いや、だいたいの取捨選択が終わったからだよ。お前のほうは何か見つかったか?」


 その言葉に、自分が時間を忘れて読み耽っていたことをようやく円治は自覚した。


「……す、すみません」


 円治は謝罪する。

 きっと自分が読み耽っていた時間に拓未と真理の二人は地道な作業を頑張っていたはず。

 そう思っての謝罪。


 そして、

 

「……何も見つ(・・・・)かりませ(・・・・)んでした(・・・・)


 いま自分がついた嘘への謝罪。

 円治は懐にそのノートを隠し、帰路の列に加わるのだった。

 

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