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Dead Heat Zone  作者: 中村英雄
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ホームセンター

「すまん! オレはてっきり、あんた等がガキ共に見えてるっつう亡霊ゴーストなんだと勘違いしちまったんだよ。許してくれ!」


 アカリとアキラの父親――君塚きみつか円治えんじは真理と拓未に謝罪の言葉を述べる。

 子供たちと無事の再会を果たした円治は、真理と拓未のことを亡霊だと勘違いし慌てふためいてしまった。

 拓未が詳しく事のあらましを説明しようとしたが、冷静さを失った円治は聞く耳を持たず。

 すぐさま仲間達に呼び掛け、あっという間に二人を取り囲み危害を加えようとまでした。

 だが、そうはなっていない。

 双子が拓未達のことを庇ったからだ。

 拙い言葉で二人に助けられたことを説明しようとする姿に、円治とその仲間はようやく勘違いに気付かされるのだった。


「ガキ共の恩人にヒデェ事しちまった。だから、礼をさせてくれ!」

「いや、わかってくれれば別に……」


 拓未は特に気にしていない。

 荒事にはならず、怪我もしていない。

 未然に防がれたのだから、結果オーライというやつだ。

 だから、謝礼なんて求めていない。

 その旨を伝えてみるが、


「いや、それじゃオレの気がすまねえ!」


 と、頑なに譲らぬ円治。

 拓未に対しどんな謝礼がいいかを尋ねていく。


「あんた等、食糧は足りてるか!?」

「まぁ、備蓄はそれなりにある」


 日持ちする保存食ばかりだが現在の手持ちだけで、相当な量があった。

 しかも、雑居ビルに帰れば年単位に換算できる備蓄が拓未にはある。


「だったら、食糧以外の生活物資はどうだ?」

「十分に足りてるな」


 拓未が住む雑居ビルの一階層はまるまるが物資の貯蔵庫である。

 そこから今回の旅の必要品も用意した。

 日用品だけでなく、様々な品が溢れているので生活に困ることはない。

 何かしら貰っておいても良かったろうが、不必要に荷物を増やすのは躊躇われた。


「だ、だったら、住む場所に困っちゃいないか? あんた等さえ良けりゃ此処に……」

「生憎、もう住み慣れた拠点があるんでね」


 拓未はすでに衣食住すべてが満たされた家がある。

 円治に提供できる謝礼の品は、もうすべて拓未は手にしているのだ。


「……それじゃあ、オレはどうすりゃ」


 拓未に全ての提案を突っぱねられ、円治は落ち込んでしまう。


「……あー、そろそろ日没になるか」

「ん? あぁ、そうだな」


 まだまだ明るいが一時間もしないで夜になる時間である。


「ここでひと悶着あったせいで、仮の拠点には間に合いそうもないなー」


 ひと悶着といっても、勘違いされ、取り囲まれて、双子が庇って、誤解が解けてという一連の騒動は五分と掛かっていない。

 どちらかといえば、その後に設けた屍体に襲われてた双子を助けた流れの説明に時間を喰われていた。

 拓未と真理の詳細な目的までを説明する気はなかったので、探し物の旅に出てる最中だと誤魔化してある。


「……どこかで一晩泊めて貰えれば有り難いが」

「っ!」


 そのわざとらしい言葉に、円治は食いついた。


「あんた等、今晩の宿に困ってんのか?」

「あぁ、すげえ困ってるよ」

「……そうか」


 気を使われた。

 それは円治も気づいていた。

 拓未自身も気遣いがバレてないなんて思ってない。

 お互いが納得できる妥協点として、提示したにすぎない。

 もともと、双子に家へとお呼ばれしていたが、それは隠しておく。

 双子を救った報酬として望んだ一夜の宿であり。

 子供を救ってくれたことへの謝礼として提供する一夜の宿だ。

 こうすることで、旗から見れば円治の面子は保たれる。


「それじゃあ、あんた等。ガキ共を救ってくれた礼だ。泊まってってくれ!」

「有り難い。その言葉に甘えさせてもらう」

「よっしゃ。そうと決まれば、いつまでも壁の外になんかいるもんじゃねえな。お客さん連れて、中に帰るぞ!」


 円治の言葉を受けゾロゾロと仲間たちが壁の内側へと入っていく。


「まりちゃん、まりちゃん。わたしが、あんないしてあげる!」

「……うん。あんないしてあげる」


 真理も双子に手を引かれて、壁の内側に消えていった。

 拓未もその後を追う。


「待った。とりあえず、今回はあんたに預けておくぜ」

「は?」


 円治に呼び止められ拓未は振り返った。


「一夜の宿なんかじゃ、デケー恩を返しきれねえっつってんの。オレは」

「……あぁ、そういう」


 拓未としてはこれで終わらせたかっただけに、話題をぶり返されて煩わしさを感じる。


「あんた等、探し物してるんだろ?」

「ん、まあ」

「それ、オレに手伝えることあったら言ってくれよ」

「え?」

「この近辺のことなら、少しくらい知ってるんだ。なにか力になれるかもだろ。それくらいさせてくれ」


 そう言い切ると、拓未を早足で抜いていく円治。


「あと、一晩なんて言わず探し物の拠点として好きに使ってくれよ。木場の旦那」


 円治も壁の内側へと消えていった。


「……言い逃げかよ、あの野郎」


 有無を言わさずとは、この事かと拓未はため息を吐く。


「木場の旦那。ここからは自分が案内しますんで、よろしくっス」


 気づけば、拓未の隣には年若い男が立っていた。


「きみ、誰?」

「自分は、マサキっス。円治さんに言われて旦那を案内しますっス」

「ところで、年は?」

「十六歳っス」

「……もしかして、マサキくんにも子供はいたりするのかな?」

「はい。一人いますよ」

「……うわ」


 拓未はショックを隠せない。

 円治が二児の父親というのにも驚かされたが、このマサキの年齢にも驚かされた。

 干支で言えば、一周近く若い少年だ。

 それが子持ち。

 怖い時代であると拓未は震えた。

 思い返せば、円治の仲間も少年ばかりであった。

 拓未の印象としては、どこの愚連隊だお前ら。とツッコミたい風貌の集団。

 拓未の案内役を仰せつかったというマサキもご多分に漏れぬ容姿だ。


「じゃあ、旦那。着いてきてくださいっス」


 マサキが拓未を先導していく。

 円治が開いた壁を抜けて内側に入る二人。

 マサキと拓未が入ったのを見届けて、壁の内側にいた少年数人が壁を閉じた。


「じゃ、行きましょう」


 壁が閉じられ、安全が確保されたことを確認しマサキは拓未を案内していく。


「ここが、俺達の家っス」


 マサキが建物を指差した。

 高く厚い壁に阻まれ、全容は見れなかったがそれは拓未の予想していた通りの場所だった。


「……ホームセンター跡か」


 駐車場の入り口に掠れた文字の看板があったので、拓未はホームセンターだと分かっていた。


 ホームセンター。

 一九九九年の当時、多くの人間が全国各地で逃げ込んだと思われる場所だ。

 自宅や避難所などに立て籠っていた人間が最後に行きつく場所とも言える。


 非常時、真っ先に略奪の被害にあったのはコンビニエンスストアやスーパーマーケット。

 理由は食糧だ。

 物を食わねば人は死ぬ。

 生鮮食品から保存食まで根こそぎ奪われた。

 それを糧にし耐え忍ぶ人間が大勢いた。

 しかし、それも時間と共に尽きていく。

 その頃には、生活物資のほとんども底を尽き始め生命の危機に瀕する。

 もう近隣で食糧や生活物資を得られる場もない。


 残された選択肢は、その場での死か無謀な探索となる。

 ホームセンターに行きつく人間はその探索を選んだ人間だ。

 ホームセンターは取り扱う品物の数と性質上、ある程度広い土地が必要なため賃料の安い郊外や市街地の外れに建設される。

 食糧や生活物資も無くなるほどに困窮した人間も街の外を目指していく。

 困窮するほどに経過してしまった時間で、人が多く集まる街の中心部がどうなっているかなど予想が着いているからだ。

 そんなときに発見するホームセンター。

 多くの人間が集まったはずだ。

 食糧は多くなくとも、建材から、園芸用品、農機具などが一通り揃う。

 長い期間がかかるが、人の生活を続けられる全てがあったのだから。


「ここ、いまは何人くらいの人間がいるんだ?」


 当然の疑問を拓未は尋ねてみた。

 このホームセンターは市街地の外れにあるとはいえ、街の中心部までそこまで遠くはない。

 高く厚い壁を築いていても、過去に何度か悲劇はあったはず。

 生き残っている数は多くないと予想しての質問だ。


「そうっスね。二百人くらいっス」

「二百人!?」


 マサキの言葉に拓未は声を裏返らせた。

 異常な数字だったからだ。


 こんな壊れた世界である。

 毎日が極限の状況下である。

 そんな日々を生きる人間の共同体コミュニティだ。

 外的要因の不死者アンデッドによる被害だけでなく、なんらかの内的要因によっても人は死ぬ。

 せいぜい二桁前半を予想していた拓未としては、予想を裏切られ驚愕である。


「じゃあ、旦那。これから、いろいろ案内しますっス」

「待った!」


 拓未は移動をしようとするマサキを止めた。


「どうしたんスか?」


 マサキは首を傾げた。

 拓未としてもこの場所に興味が湧いてきて、いろいろと知りたくなっていた。

 だが、その前に解決すべき問題にあたる。


「その、旦那呼び。やめてくんない?」


 言われるたびに背中がむず痒くなっていた拓未であった。

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