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Dead Heat Zone  作者: 中村英雄
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 木場拓未が住む雑居ビルはこの荒廃した世界においては貴重な安全圏と呼べる場所だ。

 周囲に不死者アンデッドはおらず、近寄ってくることも滅多にない。

 屋上には貯水槽もあり大量の水を溜められ使用できる。

 その水を利用し、作物を育て収穫し自給自足の暮らしを実現できていた。

 そして、立地も悪くない。

 雑居ビルの屋上という高所にプレハブ小屋を建てて暮らしているので、視界を遠く広くに取れる。

 危険を察知しやすく対処もしやすいわけだ。

 生活面と防衛面、その両方が満たされることで初めて人間は生きることが可能になる。


「……これは、なかなか」


 そんな安全圏に住んでいた拓未も驚かされる光景が目に飛び込んできた。


「ただいまー!」

「……うん。ただいま」


 アカリとアキラ、双子達が元気良く『家』へと走っていく。


 そこは要塞と表現するのが相応しい建物だった。


 二人に続き広い駐車場へと入っていくと出迎えたのは、車の迷路。

 本来は整然と並べられているべき車が、縦に横にと無茶苦茶な並べ方をされている。


「まりちゃん、おじさん。ついてこないと、まよっちゃうよ?」

「……うん。まよっちゃうよ?」


 双子は車両で出来た迷路の道を慣れた様子で進んでいった。

 それに従い、真理と拓未も後を追う。


「……うわ、おっきな壁」

「それと、あれは見張り台か?」


 車両の迷路を抜けて真理が見たのは、自身の身長の二倍はあろうかという壁だった。

 鉄板にトタン板、積み上げられたタイヤやドラム缶。

 いろいろな材料を用いて築き上げられたバリケードだ。

 それが奥にある建物への侵入を阻んでいる。

 そして、壁の両端に一つずつ六メートル程の見張り台を拓未は見つけた。

 侵入者対策の監視役を置いているのだろうが、見張り台の上に人影は見えない。 


「……うーん、アキラどうしよっか?」

「……うん。アカリどうしようか?」

「二人とも、どうかしたの?」


 ここまで、するすると進んでいた双子達が壁の前で悩みこんでしまう。

 真理はどうしたのかと尋ねてみる。


「あのね、わたしたちだけなら、はいれるんだけどね。まりちゃんとおじさんはだめかもしれなくて」

「……うん。だめかもしれない」

「駄目って、なにが?」


 双子達が同時に壁を指差した。


「…………?」


 そこには雑多な材料で造られた壁があるだけだ。

 双子達の指差した方向はそこで合っている。

 真理はもう一度良く観察してみた。


「あ!」


 僅かだが隙間があるのを真理は見つけた。

 大人には小さすぎるが、幼児ならばギリギリ入れる程度の隙間。

 確かに、拓未と真理ではその隙間を通ることはできない。

 小さすぎて半身をねじ込むのも難しいことだろう。


「木場さん、どうしましょうか?」

「……どうするって言われても」


 拓未にはどうすることも出来ない。

 まさか、壁を壊す訳にもいくまいし。

 初めて着た場所なので、対処しようにも情報が無さすぎた。


「ここは、双子達に任せるしかな――」


「アカリ! アキラ!!」


 拓未の言葉が突然響いた男の声に遮られた。


「な、なんだ?」


 大きな声のした方向に顔を向けてみる拓未と真理。


「「パパっ!!」」


 一足先にその声に反応していたアカリとアキラの二人が同時に叫んだ。

 拓未達がいる場所より、数メートル離れた壁が内側から開かれていた。

 そして、一人の男の姿があった。

 まだ年若い焦げ茶色の髪をした青年だ。


「アカリ! アキラ!!」


 青年は凄い勢いで拓未達の方へと走ってくる。


「「パパーっ!!」」


 それとは逆に双子達は青年目指して走っていく。


「……親子の再会、ですね」


 その光景に真理はすこし涙ぐむ。


「アカリぃ! アキラぁ!!」

「「パパぁー!!」」


 もう親子はあと数秒後には接触する距離に近づいた。

 真理はこのあとに待ち受けるであろう、親子の熱い抱擁を想像し視界が滲む。

 そして、ついに――


「なに、また脱け出してんだこの悪ガキ共がぁ!?」


 振り下ろされる拳骨二発。

 互いの勢いも加算された強烈な一撃が双子の脳天に炸裂した。


「……へ?」


 真理は滲んだ視界に映る光景に間の抜けた声を漏らしたのだった。

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