負けるが勝ち
恭介の本質は、狡猾で執念深いサイコです。
恭介の復讐は、とてもシンプルで分かりやすく、それでいて、狡猾なものだった。
いわゆるパワハラである。トイレ掃除、汚物処理、手間のかかる利用者を押し付けて、サービス残業をしなければならない状況に追い込む。
しかし、晃一が、社長である恭介の母親に、勤務実態を訴えたところ、あっさりと事実を認めた。
「昔、ちょっとケンカで負けた事があったからよ。つい、腹いせをしちまった。申し訳ない。サービス残業の分の給料は、きっちり計算して、自分の給料から補償するよ。今後は、こんな事はしない。勘弁してくれ。」
真摯に頭を下げて謝罪する息子に感動した社長は、「私からも息子の不始末をお詫びします。何卒、お許しください。」
そう言うと、恭介の隣に立って頭を下げた。
しかし、晃一は、社長が頭を下げた瞬間に、恭介の口の端が僅かに上がったのを見逃さなかった。
「申し訳ありませんが、少し前から介護とは別の道を進もうと考えていました。今回の件は、良いきっかけになりました。今月で退社させて頂きます。」
晃一としては、最善の一手のつもりだったが、恭介の方が上手だった。
その場で土下座をしたのだ。
結局、社長を巻き込んでの説得によって逃げ道を塞がれた晃一は、恭介の指導者としての立場と給与のベースアップで、引き止められた。
しかし、晃一の心中は「やられた」と暗澹たる想いで一杯だった。
こうして、晃一と恭介の闘いのゴングは鳴った。
さらに、恭介の攻撃は続きます。もちろん、攻撃を受ける晃一にしか分からない方法で。