三途の川クルーズ
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目が覚めたのは、何が有るでもない謎の場所。
しかし、立ち上がり、地を踏みしめて考える。
(どうやら少なくとも、自分という物理的な存在と、踏みしめる事のできる地面は有るらしいな···)
本来ならば、考える必要も無いだろうと一蹴するその思考は、最後に覚えている光景が目に焼き付いているからに他ならない。
まずは、自分の服装をチェックする。
ジャージ、上下同じ色のジャージに小学5年からブリーフが嫌いになり、履きはじめたトランクスタイプのパンツ。
「他に何か持ち物は・・・?・・・!」
ポケットの中を漁ると小銭入れが出てきた。そう言えば水分補給用に、スポーツドリンクを買おうと思って少しだけ入れて置いたんだっけ。
「えーと、確か120円くらい入れてたはずだけど・・・」
中を確認して見ると、確かにぴったり120円入っている。
しかし、辺りを見渡してみて分かったが、自販機はおろかコンビニもスーパーも、と言うか建物が何一つとして無い。
此れは明らかに異常だ。もしかしてこれがあの世とかいう場所なのだろうか。
そう思うと、否応なしに先程体験した信じがたい経験が、笑えない夢等ではなく、れっきとした事実であることが頭の中に浸透し始める。
数分かけて理解を終えると、何故か涙が溢れた。
止めどなく延々と流れ出る涙は、地面に流れ落ち、広がって行く。だが。
数十秒数えたかどうかというタイミングでソレは現れた。
ゴゴゴゴ・・・というものものしい音と共に目の前に、事務机と椅子。
そしてそれに腰掛けた髭もじゃのオッサンが現れた。
・・・数秒のフリーズの後、涙はすっかり止まっており、寧ろ目の前の未確認生命体にその興味は以降していた。
僕が長いことオッサンを眺め続けていると、オッサンは急に喋りだした。
「えーと、君が奇観月 明君・・・であってるかな?」
「キエェェェェアアアアアアァァァシャベッタァアァァァァァァ!?」
こ、こいつ、喋って・・・っていうかオッサンなんだし、喋るか。何を驚いてるんだ。
しかし、オッサンはそんな僕の失礼な態度には軽く顔をしかめただけで、つらつらと言葉を並べていく。
「ふむ、君は私を知らんようだな。宜しい、ならば教えよう。私は三途の川の渡しを勤めている寝府丹利他和という。一度限りの船旅をより良い物にするための、三途の川クルーズの窓口だ」