俺の本気の力がどう見てもリリィの劣化版な件について。
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「はぁー、大変だったけど、まぁ結構楽しかった、のかな?」
そう零す俺は今、都へ向かう馬車に揺られていた。
リリィはというと相変わらず俺の膝の上でくつろいでいる。
まぁ何はともあれ、俺たちは無事に魔族の国から出発することができた、というわけだ。
俺が魔王様に『娘さんをください』と発言したあと、それはもう大変だった。
まずパルフェクト姫が暴れだし、そして魔王様も床に手をつけ「とうとうこの時がきてしまったか……」とか呟いて、挙げ句の果てにはいつも無表情の魔王様の奥さんでさえも、口に手をやり、どこか嬉しそうに微笑んでいた。
当然どうしてそんなことになってしまうのか分からず慌てる俺に、魔王様の奥さんが俺が言った言葉の本当の意味を教えてくれたのだが……先に言っておくとそれは誤解だ。
俺はもちろんそんな意味を知らずに言っただけで他意なんかはない。
……本当だぞ?
まぁその後もいろいろと皆の誤解を解くために時間が掛かったが、どうにかこうにか誤解を解くことに成功した。
そしてしばらくの間、再び魔王様たちとの話しを進めた結果、どうにかリリィを連れていく許可をもらえたのだ。
条件としては、たまにリリィを連れて帰ってくる、という約束をしたくらいだったが、パルフェクト姫の目が血走っていたのでできるだけ連れて帰ってきたほうがいいかもしれない。
そして俺たちはエスイックも心配してくれているかもしれないからといって、魔王様たちに見送られながら、その日のうちに魔族の国を発ったのだった。
「あ、そういえばおばちゃんのせいで非道い目に遭ったんだった……?」
思い返しているうちに、そのことを思い出したので横に座って手綱をひいているおばちゃんをジト目で睨む。
「そうかいそうかい」
「……」
おばちゃんは俺の言葉を特に気にするようなこともなく、手綱を引き続けている。
「というか、どうしてあんなコトを思いついたのかが分からない……」
おばちゃんの言うとおりにしよう!と思いホイホイ言うことを聞いていた俺が馬鹿だったといえば仕方ないが、まさかあの言葉にそんな意味があるとは思うまい。
「あれはねぇ、私の旦那が結婚する時に言ってくれた言葉なんだよ」
「……えっ!?」
俺はおばちゃんのその言葉に驚く。
そのせいで膝の上でくつろいでいたリリィにまで驚かせてしまった。
「え、け、結婚してたんですか……?」
失礼かもしれないがまさか結婚しているとは思わなかった。
「あぁ、若気の至りさね」
どこか遠くの方を見ながら、懐かしそうにおばちゃんに、そんな過去があったんだなぁと、俺も感慨深く頷く。
「ち、因みに子供とかは……?」
俺は恐る恐る、少し気になっていたことを聞いてみた。
「いるよ、一人だけだけどね」
「おぉ……」
驚きすぎて思わず変な声を出してしまう。
しかしそれは驚かずにはいられない。
おばちゃんが結婚していただけでも驚きなのに、子供まで居たなんて……。
とてもじゃないが、宿屋でお酒飲みまくっている人だとは思えない。
「エスイックというんだがねぇ、知らないかい?」
「…………え」
今聞こえたらいけない人の名前が聞こえた気がするんだけれど、聞き間違い、かな?
も、もしそうだとしたらやっぱりおばちゃんも……。
「そ、それって国王様じゃ……?」
やはりどうしても気になってしまい、聞き返さずにはいられない。
「なんだ、知ってたのかい。まぁそういうことさ」
「……マジカヨ……」
……ほ、本当にそうだったとは。
「で、でもそれならどうしてこんなことしてるんですか?」
エスイックの親が御者なんて務める意味が分からない。
「息子に頼んだんさ。こういう時じゃないと外に出られないからね」
「……」
そんな理由で自分の親にこんなことを許すとは、エスイックらしいといえば、そうなのか……?
「というかそれなら余計俺にあんなことさせたらいけなかったんじゃ……?」
おばちゃんの立場なら、逆に俺を止めさせないと、エスイックとかにも迷惑がかかるはずだ。
「まぁ、そっちのほうがおもしろそうだったしね」
「ダメだろそれ!?」
もしかしてエスイックがあんな性格なのも、このおばちゃんの血を引いているからじゃないのだろうか。
というか多分絶対そうだ。
俺は隣で楽しそうに笑みを浮かべているおばちゃんをみながら、そんなことを思った―――。
「んぅーっ」
ちょうど馬を休ませるために、少しの休憩をとろうとした時、座り疲れたのか、俺の膝に座っているリリィが立ち上がる。
夜も明けてきて、今ではある程度は明るくなってきている。
「ネストーっ、あっち行ってみようーっ?」
リリィが俺の手を引きながら、何やら少し大きな岩があるところを指差している。
特にすることも無かったので、気晴らしもかねて俺はリリィに付いて行く。
「よし、じゃあやろう!」
そしてその岩のところまで着くと、リリィは突然その岩に手を置いた。
それは所謂、『腕相撲』の格好だった。
よくよく見れば確かにその岩は腕相撲にはもってこいの平坦な岩だった。
「い、いや俺は……っ!?」
慌てて逃げようとするも時すでに遅し。
岩においていない方の腕で俺の脚をがっちりと掴んでしまっている。
「やろっ?」
固まっている俺にリリィが満面の笑みを浮かべる。
俺は、どうすることもできず、岩を挟んでリリィの向かい側に座らされたのだった。
「あら、おもしろいことやってるわね」
「本当だ」
いつの間にか俺たちの周りには、アウラ、トルエまでもが集まってきている。
よく辺りを見回せば、おばちゃんもニヤリと笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
「はぁ……」
思わずため息をつく。
今にも試合開始の合図をしようとしているアウラ、期待するように俺たちを見ているトルエ。
そして目の前で俺と手を組んでいるリリィ。
俺は、みんなを見回しながら、まぁこんな感じも楽しい、のかな?と思わないことも無いかもしれない。
「はじめッッ!!」
そしてアウラの明るい声で、俺とリリィの試合開始の幕が切って落とされたのだった。
もう、結果なんて―――言わなくていいよね?
……あ、でもやっぱりこれだけ最後に言わせてくれ。
俺の本気の力がどう見てもリリィの劣化版な件について。
もうこれ魔族とか以上に、リリィの力が圧倒的な気がするのは俺だけだろうか。
空を仰ぎながら、俺は、人知れずそんなことを思った―――。
こんばんわですm(_ _)m
一応リリィ編(?)終わり、ですかね……
リリィ編はただ書くのが難しかったです……
政治的なことなど、色々ご指摘も受けたのでそこも直していけたらいいかな、と思っています。
これまで読んでくださって皆様ありがとうございます。
これからも続きますが、どうぞよろしくしていただけると幸いです。
次は、どんな話にしようかな……