娘さんを僕にください
ブクマ評価感謝ですm(_ _)m
色々と誤字報告をいただいておりますが、時間のある土日に纏めてなおしますのでご了承くださいm(_ _)m
扉を持ち上げてくれたのは、リリィだった。
俺がこれだけ抜け出せずに必死になっていた扉を、軽々と持ち上げるリリィと目が合う。
「……ネスト?」
それは俺が知っているリリィの、無邪気なソレとは違って、まるでどこか遠慮でもしているかのようなか細い声だった。
「……あぁ」
そんなふうにさせてしまっているのも自分だという事実が、どうしても気まずく感じてしまう。
「……ごめんなさい」
俺が一人、そう感じていると、リリィがポツリと呟いた。
「……リリィ、いらないこじゃなくなるように、がんばる、っから……だから――」
――おいていかないで。
リリィは大粒の涙を流しながら、俺に手を伸ばしてくる。
けれどその手は短く、俺にはまだ届かない。
しかしリリィはそれ以上は近づいて来ようとせず、未だにその小さな手は一人虚空を彷徨っている。
「……ごめん」
手を伸ばしながら顔を下げているリリィに、俺はただ謝る。
「俺、リリィのことをちゃんと考えて無かった」
誰かに教えてもらわなければ、気付くことさえも出来ない。
「それに、考えてみても分からないことの方が多かった」
リリィの気持ちをどれだけ考えてみても、俺には分からないことの方が多い。
「こんな、こんなダメダメな俺でよかったら――」
俺は目を瞑り、腕を伸ばす。
ゆっくりと、少しずつ腕を伸ばしていく。
「……っ……」
微かに指先に何かが触れる感触がした。
そして俺は、それを包むように握り締める。
それは、抵抗することなく俺に握られている。
瞑っていた目をゆっくりと開けながら、俺は顔を上げた。
そこには俺と同じように、顔をあげたリリィがこちらを見つめている。
俺はリリィの目を見返しながら、続きの言葉を紡いだ。
「一緒にいてやってください、これからもずっと、ずっと――」
その言葉と同時に、俺にできる精一杯の力を込めて、リリィの手を握りしめる。
リリィは、そんな俺の手を軽く握り返し、涙を笑顔で塗りつぶす。
「―――うんッ!!」
そう頷くリリィの顔は多分、今までで一番の、無邪気な笑顔に彩られていた。
「―――それで、これからの話だけれど」
「はい」
俺は今、魔王様たちと話を始めようとしていた。
「……んぅ……」
因みにリリィはといえば、以前と同じように俺に抱きつきながら頭を俺に擦りつけてきている。
「ぐっ……!!」
どういうわけか、その様子を恨めしそうにパルフェクト姫が見てきているが、今は無視させてもらおう。
「アネスト君は、これから具体的にどうするんだい?」
そんな俺たちに若干の苦笑いを浮かべながら、魔王様が俺に聞いてくる。
「……都に、帰ろうと思ってます」
既に予定よりも少し遅れてしまっているので、エスイックたちが心配しているかもしれない。
宿屋ではアウラたちも待たせているし、急いだほうがいいかもしれない。
「ふむ、それは良いのだけれど、リリィのことはどうするつもりなんだい?」
魔王様は自分の顎に手をやりながら、リリィに目を向ける。
「んっ!!」
魔王様と目があったらしいリリィは、すぐに俺の身体を使ってその視線から逃れる。
「……」
いやだからって、魔王様までそんな視線を俺に向けないでください……。
「さて、冗談はさておき、アネストさん、あなたはリリィを連れて行くのでしょうか?」
そんな時、魔王様の奥さんが核心をつくような質問をこちらにしてくる。
「……」
これは何と答えれば良いのだろうか。
もちろんリリィは一緒に連れて行くつもりで、リリィもそうしたいということだったのだけれど、それを魔王様たちが許してくれるというわけではない。
出来るだけ言葉を慎重に選ぶ必要がある。
「……ん……」
いきなり黙り込んでしまったことを心配したのか、抱きしめてくる力が強くなったリリィと目が合った。
泣いた跡が少しだけ残ってしまっているけれど、それ以外は以前のリリィそのものだ。
そのことに俺は思わず頬が緩まずにはいられなかった。
……あ、そういえばこんな時に言うことを御者のおばちゃんから教わったんだった。
俺なんかが考えた言葉より、年配者であるおばちゃんの言うことの方が正しいに決まっている。
宿屋でおばちゃんに言われたことを頭の中から呼び起こす。
そうだ、おばちゃんが言っていたのは、確か―――
「おとうさんッ!娘さんを僕にください―――ッッ!!」