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聖女の回復魔法がどう見ても俺の劣化版な件について。  作者: きなこ軍曹/半透めい
第二章  俺の本気の力がどう見てもリリィの劣化版な件について。
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ぜんぜんたのしくない

ブクマ評価感謝ですm(_ _)m

 「ぶぎゃっっ!!」


 俺は前から物凄い勢いで飛んでくるその扉に、何か出来る訳もなくそのまま直撃した。


 俺にぶつかった扉はその勢いを殺すことなく、依然として吹き飛んでいる。


 つまりは俺も一緒に飛ばされてしまっているというわけだ。


 「ぐぼはっっ!!」


 少しの間、扉とともに空中を吹き飛ばされていると、背中のほうになにか硬いものが当たったかと思うと、とてつもない圧迫感に襲われた。


 働かない頭で何とか周りを確認しようと試みた結果、どうやら俺は扉と壁に挟まれてしまったらしい。


 しかも勢いが凄まじかったせいだろう、俺の身体は壁にめり込んでいる。


 「……ひ……ひぃ、る……」


 俺は軋む身体に鞭を打ち、なんとか自分を治療することに成功した。


 しかし依然として俺の身体は壁にめり込んだままだ。


 「……」


 きっと待っておけば魔王様たちが出るのを手伝ってくれるハズだし、無理に出る必要もない。


 それに今この部屋に何かがいるかもしれないのだから、そっちのほうが好都合だろう。


 「……」


 俺はそう思い、息を潜めている。


 「……ぅそ、っき」


 ふと、部屋の中に小さな、とても小さな声が響いた。


 「―――ぇ」


 今のは、一体誰の声だったのだろうか……。


 「……ぅそつき」


 その声はまるで、俺の耳が聞き慣れているかのように、すんなりと頭に入ってくる。


 「……っ……」


 扉越しに、声の主がすすり泣いているのが分かる。


 この声は、わざわざ確かめたりすることもなく―――


 「……うそつきッッ!!」


 ―――リリィの声だ。


 どうやら、今この部屋にはリリィがやってきているらしい。


 となるともしかして、この扉をリリィが飛ばしてきたことになるのだけれど、まぁそこは気にしたらダメか。


 そんなことより、リリィが言ったことは、どういう意味なのだろうか。


 『うそつき』。それが一体誰に向けられたものだったのかは、まだ分からない。


 俺はこの状況から抜け出そうと、手足を動かしてみるが、一向に抜け出せそうにもないので、今は大人しく皆の会話を聞くことにした。


 「……えっと、どうしたんだいリリィ?」


 恐らく緊迫した空気の中で、魔王様がリリィを宥めようとしているのが分かる。


 きっと魔王様もどうしてこんなことになっているのか分からない上で困惑しているだろう。


 事の真相を知っていそうなメイドさん、じゃなくて魔王様の奥さんは特に何をしているわけでもなさそうだ。


 パルフェクト姫の声も聞こえないことから、恐らくどうしてこんな事になっているのかを、やはり知っているのかもしれない。


 「いやッッ!!」


 そんなことを考えていると、リリィの一際大きな声が聞こえてきた。


 「……え……」


 あ、多分今少し聞こえてきたのは魔王様か。


 きっと宥めることは出来ずに、リリィからは逃げられたりしたのだろう。


 シュンとしている魔王様が目に浮かぶ。


 しかしそんなことをしている間にも事は進んでいく。


 「……おねえちゃんのうそつきッ!!」


 どうやらリリィがさっきから言っている『うそつき』とはパルフェクト姫のことだったらしい。


 だから、顔を青くしたりしていたのかもしれない。


 「たのしいっていってたのに、ぜんぜんたのしくないッッ!!」


 「……」


 リリィの発言に対し、誰も何も言わない。


 俺も扉と壁に挟まれて出るに出られないのだ。


 「それに、ネストもかえしちゃうなんてなにやってるのっ!?」


 突然、俺の名前が出たために軽く驚いてしまう。


 どうやら話を聞いていると、リリィがパルフェクト姫に怒っているのは、楽しくないのに加えて、俺を城から追い出したから、ということらしい。


 「……ってあれ……?」


 でもリリィは自分の意思でパルフェクト姫のところへ行ったんじゃなかったか……?


 それなのにどうして今更俺のことを気にしている意味が分からない。


 「……うそ……っ……つき…っ!」


 俺がリリィの言葉に困惑していると、リリィが再び『うそつき』と呟いた。


 しかも、さっきはすすり泣きだったソレも、どういう訳か今は泣きじゃくりながら、嗚咽をこぼしている。


 ……これも恐らくパルフェクト姫に対して言っているのだろうか。


 俺は扉と壁の間で、息を潜めながらリリィの続きの言葉を待った。


 「……っ……ぅぅ……っ……!」


 リリィは涙をこらえようとしているのかもしれないが、逆にそれが、俺の耳に伝わってくる。


 「……っ」


 その途中でその嗚咽が少しだけ止んだ。


 きっと今から一体誰が『うそつき』なのかを告げようとしているのだろう。


 俺は扉と壁の間で、軽く拳を握る。


 「――――――の、うそつきぃぃッッッ!!!!」


 「え……」


 リリィがそう叫んだ瞬間、俺は自分の身体が変に跳ねたのが分かった。


 そう、リリィの言葉によって。


 リリィはこう言ったのだ。


 ネストの嘘つき―――――と。


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