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聖女の回復魔法がどう見ても俺の劣化版な件について。  作者: きなこ軍曹/半透めい
第二章  俺の本気の力がどう見てもリリィの劣化版な件について。
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私の勘違いだったようです。

ブクマ評価感謝します。


 「……」


 俺はできるだけ音をたてないようにして扉をあけると、ついに魔王城への侵入に成功した。


 「……だれも、いない?」


 中に入ってみると、そこにはどういう訳か誰もいない。


 しかし、それならば俺にとっては逆に好都合だ。


 俺は早速魔王様がいるはずの部屋を見つけるために、魔王城の中を探索することにした。





 「……はぁっ、はぁっ……ヒールっ……!」


 魔王様を探すの意外と楽かも、とか思ってた時期が俺にもありました。


 俺は今、何人もの警備と思わしき魔族に追いかけられていた。


 ある者は自分の足で走り、またある者は背中に生えている翼でその体を浮かしながら俺を追いかけてきている。


 必死に逃げながらも、俺はひたすら魔王様の部屋っぽいところを探していた。


 「そこの賊、止まれッッ!!」


 後ろからは怒鳴り声が聞こえ、さらに何やら武器のようなものを俺に投げつけてくる。


 言わずもがな、既に漆黒だった黒マントには、数箇所の穴があき、そこには暗い赤色の血が滲んでいる。


 怪我をしたら回復をする。


 俺は、後ろから追いかけてくる魔族たちに追いつかれないよう、ただ無心にヒールをかけながら走り続けたのだった。





 「……はぁ、撒いたか……?」


 俺は回復魔法で息を整えながら、誰もいなくなった後ろの方を振り返ってみる。


 回復魔法を使い、ひたすら走った甲斐あってか、俺の視線の先には長く続いている廊下があるだけだ。


 しかし魔族側に見つかってしまったのも事実。


 きっと今頃は魔王城全体に俺の情報が行き渡っているかもしれない。


 ということは、やはり一刻も早く魔王様を見つけなければいけないといわけだ。


 「……でも、やっぱり見つからん」


 回復魔法を使いながら走り続け、かつ魔王様の部屋っぽいところは探しているのだが、どこにあるのも平凡そうな扉ばかりで、中々それっぽい部屋を見つけることができない。


 「……ん?」


 ふと変わらない扉がある中で、一つだけ少し装飾のされている部屋を見つけた。


 まさかこれが魔王様の部屋なはずがない、とは思いつつも、念のために確認してみようと扉に近づく。


 『ガチャリ』


 「ッ!?」


 しかし、俺が扉に手をかけようとしたその瞬間、まだ触れていないはずの扉が部屋の中から誰かに開けられた。


 俺は咄嗟に後ずさり、部屋から出てくる相手に構える。


 「あ……」


 部屋から出てきたのは、俺が魔王城から出て行く時に玄関まで案内してくれたメイドさんだった。


 「……あなたは――アネスト様ですか?」


 メイドさんは俺に気がつくと、一瞬目を細めたが、すぐにいつもの無表情に戻り、あろうことか『漆黒の救世主』である俺の正体を言い当ててしまった。


 「……」


 俺は何と言えば良いのかわからないのと、いきなり正体がバレたことに気がつかれたことに呆気にとられ、その場で固まってしまう。


 「……いえ、どうやらやはり私の勘違いだったようです。失礼しました」


 するとメイドさんはどういう訳か、いきなりそんなことを言うと、軽く頭を下げた。


 俺にはメイドさんがどうしてそんなことをしているのか分からず、ただ困惑していた。


 「魔王様の部屋はあちらです。少し入り組んだところにありますが、行ってしまえばお分かりになると思います」


 「……え?」


 『ガタン』


 メイドさんは俺が何かを言おうとする前に、再びその部屋の中に戻り、ご丁寧に扉まで閉めていった。


 「……」


 今のは、どういうことだったんだろう。


 多分だけどメイドさんは俺が俺だってことに気がついている。


 それなのに何をするでもなく、ただ俺に魔王様の部屋の場所を教えてくれた。


 「……ありがとうございます」


 俺は部屋の中に聞こえるか聞こえないか、できれば聞こえていて欲しいくらいの小さな声で、一言お礼を残し、再び魔王様の部屋を探しはじめることにした。





 探し始めたといっても、既に場所はメイドさんから教えて貰っているので、大した苦ではない。


 メイドさんの言うとおりに進むと、確かに入り組んだ場所ではあったものの、明らかにほかの部屋の扉とは違ったソレがあった。


 「……えっと、ヒール」


 別にどこか疲れているとかではないのだが、一応、回復魔法をかけておく。


 「よし、じゃあ行こう……」


 俺はそう決意すると、その大きな扉に手を掛ける。


 扉に触れているところから、扉の冷たさが伝わってくる。


 それが俺の高ぶった気持ちを、少しだけでも冷やしてくれているなら嬉しい。


 「……まぁ、頑張るしか、ないよな……」


 そして俺は腕に力をこめ、その重たい扉をゆっくりと開け放った。


 全てはリリィを連れて帰るために――。


 


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