しないといけないこと
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俺たちは、御者のおばちゃんが待っているはずの宿屋の前にまでやって来ていた。
「えっと、じゃあ入ろうか」
何時までも宿屋の前にたっていても迷惑にしかならないだろうし、俺は二人を連れて、早速宿屋のなかに入ることにした。
「いらっしゃい!」
宿屋に入ると、中から威勢のよい声が聞こえてくる。
そしてさらにはたくさんの喧騒が聞こえる。
「食事か宿泊、どっちにする?」
宿屋のおばちゃんが後ろで食事をとっている人達を見ながら俺にそう聞いてくる。
「えっと、あ、いた」
俺は御者のおばちゃんが食堂にいるのを見つけたので、宿屋のおばちゃんには食事でよろしくお願いします、と頼むとアウラたちの手を引きながら、御者のおばちゃんの下へと向かった。
「こんな昼間からこんなに飲んで大丈夫なんですか……?」
俺たちがおばちゃんのところへとついたとき、まず酒のひどい匂いに顔を歪めた。
おばちゃんが座っている机を見ると、そこには何本もの酒瓶が転がっており、おばちゃんもかなり酔っているようだった。
「あんだーい……っ……?」
俺の声が聞こえているかも怪しく、俺たちはひとまず同じ机に座る。
「えっと、都に帰るのは何時くらいなら大丈夫ですかー?」
おばちゃんにも聞こえるように、俺はおばちゃんの耳元で大きな声で聞いてみた。
「あぁっ?あにいってんだい!!まだ飲むにきみゃってんだろぉぅ!?」
「えぇ……?」
おばちゃんはそう叫ぶと、再び酒瓶に入っている残りの酒を飲み始める。
俺はてっきり、すぐにおばちゃんの御者のもとで都にまで帰ることができると思っていたので、どうするか悩まなければいけなくなった。
「だいたいあんた、新しい子はちゅれてかえってきたみたいだけど、あのかわうぃい子は一体どうしちゃんだい?」
俺が頭を悩ませていると、ふとおばちゃんがそう聞いてきた。
その質問にアウラとトルエは顔を暗くし、俺も応えに詰まってしまう。
「……どうしたんだい……?」
おばちゃんの方もその微妙な空気を察したのか、酔っぱらいの顔から真剣な顔になった。
「い、いや実はリリィは魔族のお姫様で、魔王城に帰っちゃいました……」
俺は落ち込んでいたせいもあってか、隠すことも忘れておばちゃんに教える。
「……」
俺の一言でその場はなんとも言えない雰囲気に包まれてしまった。
真剣な顔をしていたおばちゃんも眉を潜めている。
「……あんたはそれを止めたのかい……?」
おばちゃんが低い声で俺に聞く。
その声には若干の怒りをも含んでいるように感じれた。
「実は、リリィが魔族だってことは都にいるときからわかってました」
国王様にそのことを言われたときは疑ったこと。
そしてリリィ本人からそのことを聞いたときは驚いたこと。
そしてそれが分かったときには、リリィを魔族側から匿おうと思ったこと。
でも結局は、リリィ自ら魔王城へと帰っていってしまったこと。
「そして俺は、リリィを匿っていたという理由で、魔王様に謁見する前にこうやって返されたんです。一応アウラたちは無事だったんですけど……」
「……」
俺は結局おばちゃんにここまで来るに至った出来事をほとんど話した。
「そういう訳で、ここにリリィはいません……」
最後辺りは俺も自分の足元に視線をやっていた。
そうしないと、俺の情けない顔を見られてしまうと思ったからだ。
知らぬ間に、俺は自分の拳を強く握りしめていた。
既にその拳からは、自分の血がにじみ出ているのが分かる。
「……それで?」
そのとき、おばちゃんがそんなことを言ってきた。
俺は思わず下げていた視線を再びおばちゃんに向けた。
「それで、というのは?」
俺はおばちゃんの言いたいことが分からず聞き返す。
「だから、それであんたはどうするのかを聞いてるんだ」
「……?」
どうするも何も、もう都に帰るしかないじゃないか。
こんなことを聞くなんて、やっぱりまだ酔っ払っているのか……?
「……もしかして、このまま帰る、なんて言わないだろうねぇ……?」
「……え」
他になにかすることがあるのか?
……買い物?
……酒?
「えっと、俺は何をすれば……?」
結局分からずに、俺は直接おばちゃんに話をきくことにした。
「そうだねぇ。あんたが今、しないといけないことは―――」
そこでおばちゃんは答えをもったいぶって、ニヤリと笑みを浮かべる。
「早く教えてくださいよ」
俺はいつまでもその先をいわないおばちゃんにしびれを切らし、早く教えるよう急かす。
そして、ついにおばちゃんはその口を、開いた。
「―――酒を飲むことだよ」