愛の前では関係ありません
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「…………」
俺は今、ただ一人でその長い廊下を歩いている。
重たい荷物を片手に歩く廊下は、前に通った時よりも、長く、そして暗いような気がした。
「……はぁ……」
一体これで何回ため息を吐いただろうか。
別に最初から数えていた訳ではないが、それでも両手で数えられる程度ではないはずだ。
けど、今ため息を吐かないで、じゃあいつため息を吐けばいいのだろうか、という話でもある。
「俺のせい、だよな……」
誰がどう見ても、俺が勝手にリリィの気持ちを決め付けていたために、結局はこういう事態になってしまっている。
もし、俺がもうちょっとリリィに気を配りながら行動していたら、今がもっと素晴らしいものになっていた可能性だってあったはずだ。
「…………はぁ……」
やはり俺は、ため息を吐かずには居られなかった――。
『……わいいっ?……』
俺が未だに廊下を歩いていると、唐突にそんな声が聞こえてきた。
聞き間違えるはずもない、これはリリィの声だ。
「……」
俺はゆっくりと、声がした方へと歩き出す。
『……えねえ、これかわいいーっ?……』
『はい、可愛いですよリリィ様』
聞こえてくる声から察するに、どうやら服か何かを着ているのだろう。
「……」
俺はとうとう、リリィがいるだろう部屋の前にまでやって来た。
『ふふふーっ!』
部屋から聞こえてくる声は、かなり鮮明になり、今ではほとんど全て聞こえるようにまでなっている。
「……」
俺は最期に一度だけでも、リリィに会って、そしてリリィに謝りたくて、その扉に手を掛けた。
「……」
……でも、今更あったところで、一体俺に何ができるというのだろうか。
リリィは、自分の意思で魔族側に帰っていったのだ。
それなのに最後に会いたいとか、謝りたいとか、そんなの唯の自己満足じゃないか。
今回だって、俺の勝手な行動のせいで、皆に迷惑をかけたのに、またそれを繰り返すっていうのか……?
「……いい加減、それくらい学べよ……」
俺は自嘲的に、そう小声で呟くと、後ろ髪をひかれるような心地がしながらも、再び城の出口へと向かい始めた。
「……迷った」
リリィの声が聞こえる方へと、行ったりしていたせいか、俺は今道に迷っていた。
「アネスト様」
これはどうしたものかと悩んでいると、ふと後ろから声をかけられた。
誰かと思い振り返ってみるとそこにはメイドさんが立っている。
「アネスト様、こちらでございます」
「……あ、すみません」
どうやらメイドさんは道に迷った俺を、出口まで連れて行ってくれるようだ。
「……」
やはりというべきか、俺とメイドさんの間は沈黙で支配されている。
元々俺は、メイドさんからしてみれば、自分の主の娘を匿っていた張本人なのだから、俺とは話などしたいはずがない。
今案内してくれているのも、一刻も早く俺を城から追い出したいからなのだろう。
「……アネスト様は、リリィ様をどうなさるおつもりだったのですか……?」
そんな風に俺が考えていたとき、いきなりメイドさんが俺に聞いてきた。
「え、えっと、どうとは一体……?」
てっきり話しかけてくることもないだろうと思っていた俺は、メイドさんのいきなりの質問に俺は驚いてしまい、意味もわからなかったので思わず聞き返す。
「ですので、リリィ様を匿い通せたら、具体的にどうするおつもりだったのですか?ということです」
「……」
リリィを匿い通せたら、どうしていたか。
俺はメイドさんのその質問に、応えられずにいた。
そこでようやく俺はリリィを匿い通せたとき、リリィと具体的に何がしたかったのか、自分でもよくわかっていなかったことに気がついたのだ。
リリィと一緒に生活する、と応えようとも思っていたが、それではあまりにも漠然としすぎているだろう。
「結婚、とかですか?」
「……は、はぁっ!?」
俺が無言で応えを考えていると、メイドさんはいきなりとんでもないことをいってきた。
「け、結婚ってまだリリィは子供ですよ!?」
俺は、思わず声の大きさを落とすこともわすれて、叫んでしまう。
「そんなの愛の前では関係ありません」
だがしかし、メイドさんは俺の言葉をあっさりと切り捨てる。
「……うぅ……」
冗談でそんなことを言っているのかは分からないが、俺にはそういうのは無理だと言うことがわかった。
「結婚でないならば、一体何を目的に匿ってなさっていたのですか?」
しかし、メイドさんはその質問をやめてくれることはなく、再び俺に聞いてきた。
「……」
俺は、必死に考えた。
どうしてリリィを匿っていたのか。
どうしてリリィと一緒にいたかったのか。
そして、どうしてリリィの気持ちさえ聞くのを忘れ、自分勝手な行動をとってしまったのか。
「……わかりません」
しばらく経ってから、俺はようやくメイドさんの質問に応えた。
「……そうですか」
俺の応えに、どこか落胆してしまったような声色で、メイドさんは言う。
「……はい、すみませんが俺には、どうして俺があそこまでしてリリィを匿っていたのか、具体的なことはわかりません」
「それはもう聞きま――」
「それでも、どこか漠然としてしまっていても良いと言ってくれるなら、俺がリリィを匿っていたわけは――――――」
繰り返し同じことを言う俺に、少し面倒そうにメイドさんが告げる言葉を遮り、自分自身の本当の応えを言う。
「―――リリィを手放したくなかったからです」
きっと、これがリリィを匿っていた、本当の理由。