こういう時は年配者だな
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「では、健闘を祈るっ」
「あぁ、いってくる」
俺は今、エスイックに見送られながら、城を出発しようとしていた。
あのあと、色々とエスイックが準備してくれたらしく、早いうちに出発することができることになったのだ。
「ふふーっん」
魔族の国への使者として、エスイックが用意してくれた馬車に乗って向かうのだが、広い馬車の中でリリィが脚を振りながら楽しそうに鼻歌を奏でている。
因みに馬車の中にいるのは俺とリリィの二人だけで、他には誰にもいない。
エスイックから出来るだけ少ない人数で行くように頼まれたので、もともと行く予定だった俺たちと、御者を務めてもらう一人だけだ。
「では、出発しますぞぉ」
御者をつとめてくれるのは、見た目のままの喋り方のおばちゃん。
「あ、おねがいします」
「おねがいしますーっ!」
俺に続いて、リリィが大きな声で、御者のおばちゃんにそうお願いする。
「あいよぉー」
その低い声で、御者のおばちゃんはそう言うと、馬車を進めさせた。
「そういえば、リリィってお姫様だったんだな」
馬車の中で、リリィと話している時に、ふと思い出したので聞いてみた。
「んぅー、すごいのー?」
「あぁ、すごいぞー」
小さいからか、自分の立場をよく分かっていないようで、逆に聞き返したので、少しだけ教えてやる。
「あのなぁ、お姫様っていうのは、皆のあこがれなんだぞ。お姫様はみんなきれいだからなー」
「リリィがおひめさまだったら、ネストもあこがれるのー?」
「あぁ、めっちゃ憧れるな」
「ふーん」
俺の言葉に、若干嬉しそうな声色をあげると、リリィは俺の膝に自分の頭をおいてきた。
誰かから聞いたか忘れたけど、こういうのを『膝枕』というらしい。
あ、それと『膝枕』は男がしてもらうのが普通、ってのも聞いた気がするけど、まぁそれは別にいいだろう。
「魔族の国、ってどんなだろうなぁー」
今も俺の膝の上に頭をあずけてきているリリィに、聞いてみる。
俺がまだ、自分の村にいたときには、何度か魔族を見ることがあったが、正直あまり俺たちとの違いもなかったはずだ。
もしかしたら、魔族の国もそんな変わらないのかもしれない。
「んにゅー、えっとねーたのしいよぉー?」
しばらく考えるような素振りを見せたリリィだったが、結局教えてくれたのはちょっとだけ、いやかなり曖昧なモノだった。
「そ、そうか……」
これは、やっぱり一回直接見てみないと、ダメみたいだな……。
「……そういえば、あんたたちはどういう理由で送られてきた使者なんだい?」
休憩中に、御者のおばちゃんが俺たちに話しかけてきた。
えっと、これは別に言ってもいいよな……?
「あぁ、俺たちは元々は街からパーティーに参加したんだけど、連れが人違いで魔族の国に連れて行かれちゃったみたいで、今回はその迎えに行きたいってエスイ、国王様に頼んだんです」
その人違いの原因が、今俺にもたれかかりながら寝ているリリィなんだけど、別にそれは言う必要はないだろう。
「へぇ、それは災難だったねぇ」
俺の言葉に、驚きながらそう口にするおばちゃん。
「ま、まぁ一応?じ、自分の大事な人、なんで……」
……ぅぅ、普段こんなことを言わないから恥ずかしい。
相手が年配者ということもあってか、どうしてか言う必要がないようなことも言ってしまった。
「へぇ、やるねぇ」
すると、おばちゃんはなにを勘違いしたのか、そのシワだらけの顔に、面白いものでも見つけたかのような笑みを浮かべて俺を見てくる。
「ち、ちがいますって、そんなんじゃないんでっ」
一体なにが違って、なにがそんなんじゃないのかは分からないが、俺は言い訳がましく弁解した。
「……その、ただなんていうか……。……ぅぁあーっ!」
何か言わなければいけないと思ったけど、結局何も思いつかず、変な声を上げてしまった。
「くくくっ」
おばちゃんは、笑いをこらえようとしているが、正直全然堪えられていない。
「はぁ……」
やっぱり、こういう時は年配者だな……。
自分の村でも、年配者を敵に回した子供が、数日後くらいにえらく年配者に従順になっていたのを思い出しながら、俺はそう思った。
「まぁがんばるといいよ」
「はい、ありがとうございます」
応援してくれたおばちゃんに、俺はお礼をいうのを忘れない。
「じゃあ、いくよぉ…」
俺との話が終わると、おばちゃんは自らの御者の仕事に戻り、再び馬車は動き出したのだった。