はい、あーん
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俺たちが、会場へと戻ってきたとき、そこにはアウラとトルエが居なかった。
「……っ……」
だけどまだ、希望がないわけではない。
もしかしたら、踊りに疲れた二人が、俺たちと同じように城の中を歩き回っているだけなのかもしれないのだ。
「……っヒール…………ヒール……」
俺は、幾度となく、自分に対し回復魔法をかけて、二人を探し回る。
……二人が城の中にいるのは可能性が低いことくらい分かってる。
なぜなら、会場にいたメイドさんが、俺に気まずそうな視線を送ってきていたのだ。
その視線の意味は恐らく……。
だけど、俺はそんな一縷の望みに賭けるしかなかった。
「…………ヒール……っ……」
誰もいない廊下、聞こえるのは自分の足音。
「ヒールッッ!!」
そして、俺の焦りか何かがのっている、そんな怒鳴り声だけが、長い廊下に反響していった――。
「……」
どれだけの間、走り続けていたのだろうか。
回復魔法を使い続けて城の中を走り回ってから、ついに最初にいた、会場にまで戻ってきてしまった。
「……」
俺は、どうしてか覚束無い足取りで、会場にいた男に近寄っていく。
「……ここで、何があったんだ……?」
最初からこうやって、誰かに聞いていればよかったのは、俺にだって分かっていたが、結局はこうして最後になるまで聞けずにいた。
「え、あぁ、実は人がさらわれてしまって……」
やっぱり……。
俺は思わず舌打ちをしてしまいたい衝動に駆られるが、我慢して続きを聞く。
「確か、赤い髪のこと、茶色の髪の子、だった気がするな……。いきなりだったから誰も止められなかったんだ……」
……悔しいことに、髪の色まで一致している。
「……あ、確か匂いがどうとか、って言ってたかな……?」
それは恐らく、リリィの匂いのことだろう。
昨日も途中からは一緒に寝ていたから、二人ともにリリィの匂いがついていたはずだ。
「……ありがとう」
自分の中で、どんどんと負の感情が大きくなっていくのが、どうしてもわかってしまう。
「おぉ、ここにおったか」
「……?」
ふと、そんなとき後ろから声をかけられた。
振り向くと、そこにはどういうわけか国王であるエスイックが立っていた。
「ハッ、国王様!?」
俺と話していた貴族の人が、いきなり頭を下げるが、俺は今それどころではない。
「……何か……?」
「いや、先ほど魔族の使い魔がやってきて、人を攫っていったのは、すでに知っておるか?」
「あぁ、知ってる」
魔族の使い魔、ってところは初耳だが、そんなとこは今重要じゃない。
「……言いにくいが――」
エスイックが、そこで俺の目を見つめてくる。
きっと、俺はひどい顔をしているのだろう。
エスイックの瞳に移る、俺の顔は見えない。
でも、分かる。俺には分かってしまう。
エスイックの次に言おうとしている言葉が。
そしてそれを聞きたくない自分がいることが。
「――お主の連れじゃ」
……………………
………………
…………
……
それから先のことは、覚えていない。
気がついたら、俺はどこかの部屋のベッドに横になっていて、布団を握りしめていた。
「……ぁぁ」
目のあたりが、どこか湿っている気がする。
そして声がかすれてしまうほど、喉がおかしくなっている気がする。
「……ひ…ぃる」
かすれ声のまま回復魔法を唱え、治療をする。
「……はぁ……」
きっとエスイックたちには迷惑をかけたのかもしれない。
悪いことをしたなぁ……。
だけど、何時までたってもこうして居られるわけじゃない。
俺は布団を脱ぎ捨て、部屋を出るために扉へと近づく。
「ネストー、おきたぁー?」
ちょうどその時、リリィが何やら食事を手に、扉をあけて部屋の中へと入ってきた。
「あ、ネストおきたんだぁー!」
「あ、あぁ……」
俺がエスイックの話を聞いてから何があったのか分からないので、何を話したらいいのか分からない。
「ネストのためにつくってきたから、たべてー」
リリィに一度ベッドに戻るように促され、俺はそれに従う。
「ふーふー」
リリィは、持ってきた料理に息を吹きかけている。
「はい、あーん」
そして、そのまま俺に食べさせようとしてきた。
「あ、あーん」
……あ、おいしい。やっぱりリリィが作ってくれる料理は皆美味しいものばかりだ。
「ってちっがーーっっう!!」
俺は一体何をしているんだ!?
よく今の状況を考えてみれば、アウラたちが連れ去られたんだぞ!?
今はこんなことをしている暇なんかないっ!!
もっと他にしなけらばいけないことがあるのだ!!
それは――
「なぁ、リリィ」
「な、なにー?」
突然の俺の叫び声に驚いたのか、少し戸惑いがちに返事をしてくる。
「あのさ、リリィってさ――」
さっきも一度聞いたこと。
だけどあの時は色々騒ぎが起こったために結局聞けずじまいだった。
「――魔族、だよな……?」
今度は、さっきとは少し違って、『魔族なのか?』ではなく、ほとんど確証をもって、ついにリリィに本当のことを聞いたのだった。




