俺はどんどん増えていく
ブクマ評価感謝ですm(_ _)m
あと、今回すこし短いです。
明日のと一緒に見たほうがよろしいかもしれません。
本当すみませんm(_ _)m
「は、初めましてっ!私シルシエウと言います!お、お見知りおきくださいっ!」
「わたくしはウイトエウと申します!ぜ、ぜひ今度お食事でもっ!」
「……は、はぁ」
メイドさんの治療を終えて、リリィと二人、隅っこの方へと戻った俺たちだったが、どういうわけか今、貴族のご令嬢たちに囲まれていた。
さっきまでは、見向きもされなかったのに、いきなり手を裏返したかのような反応に、正直戸惑っている。
「ネストぉー。あついー」
未だに俺にしがみついているリリィは、その巻き添えをくらって、離れるに離れられなくなっていた。
「本当、いきなりどうしたんだ……?」
俺はどんどん増えていくご令嬢たちを見回しながら、人知れず、そう呟いた。
「はぁ……っ、疲れたぁ……」
それからもしばらく、ご令嬢たちにもみくちゃにされていたが、ようやく俺は解放された。
「良かったわね、可愛い子たちから言い寄られて」
「あれって、言い寄られてた、のか……?」
俺は、後ろから声をかけてきた、アウラを振り返りながら、そう零す。
振り返ってみて分かったのだが、アウラはなにか気に食わないのか、不機嫌そうな顔をしていた。
「皆の前で回復魔法なんて使ったら、それだけで回復魔法を覚えられるだけの資金を持っている、って思われるのよ。そしてそんな身でも、メイドを治療したから、人柄も良いとかって思われたんじゃないかしら」
「はぁ、そういうことだったのか……」
あれくらいの傷の治療だったら、別に異常な回復魔法を持ってるとも思われないから、大丈夫だと油断していたけど、そんな落とし穴があったとは……。
「……これからは気をつけなさいよね」
やはりどこか不機嫌さを残すそんな口調で、俺にそう言い残すと、アウラは再びさっきまでいたところへと帰っていった。
「……?」
アウラが不機嫌な理由がよく分からずに、その場で首をかしげる。
「なにかあったのかな、っていない……」
こういう時は、リリィに聞いてみようと思ったのだが、先程の囲まれているのがそんなに嫌だったのか、いつの間にかいなくなっていた。
「では、そろそろ踊りましょうか」
いつの間に来ていたのか、聖女のルナが、そのよく通る声でそう告げた。
「……少し、外にでも行って時間潰すか」
俺は咄嗟に会場から抜け出した。
どうしてかと聞かれれば、俺が踊りの経験がないからだ。
恥をかくことがわかっているものに、自分から行くのはさすがに無理だ。
城の中を歩き回り、その内に中庭のようなところへとたどり着いた。
「……こんなところあったのか」
以前に城に忍び込んだとき、色々と走り回ったのだが、ここは初めて来る場所だ。
足元に生えている芝生は、どこも綺麗に切り揃えられており、とても整っていた。
「はぁ……」
その芝生をつぶしてしまうようで申し訳ないが、俺はそこにそっと横になる。
その中庭らしき場所には、天井がなく、空を仰ぎ見ることができた。
空は暗闇に支配され、終わることなく、永遠と広がっているような感じがする。
「……綺麗、だな……」
今いる中庭が、人の多い都には感じられず、どこか誰もいない、世界の果てのような気がしてくる。
芝生は心地のよいやわらかさで、これまた夜空のおかげか、ひんやりとしていて気持ちがいい。
『ジャリ……』
だから、そんな小さな足音でも、容易に聞こえることができた。
「……だれかいるのか?」
もしかしたら、自分と同じでパーティーから抜け出してきたのかもしれない。
「……」
少しの沈黙のあと、ゆっくりと暗闇の中から影がその正体を現した。
「……リリィ、だよー?」
そこにいたのは、メイドさんに用意してもらったドレスを着ていて、さっき、いつの間にかいなくなっていた、リリィだった――。