こんなもんだ
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「大変お似合いですよ、ネスト様」
「そ、そうですかね……?」
採寸が終わった俺は、メイドさんたちが用意してくれた服に着替え、鏡の前に立っていた。
いわゆる正装という、生まれて初めての体験に少しだけ緊張する。
……どこか全体的に黒っぽい気がするけど、そういうのが普通なのだろうか。
それにしても、褒められる、ということに慣れていないからか、少々照れくさい。
もしかしたら、ただ単に女の人に褒められたからとか、はたまたメイドさんに褒められたからかもしれないが……。
「ネスト殿はいらっしゃるか」
準備も終わり、ゆっくりしていた俺の耳に、部屋の外から聞き覚えのある声が、聞こえてきた。
これはおそらく、国王様の声だ。
「いらっしゃいますよ。今あけますね」
俺よりも早く、控えていたメイドさんが扉を開けると、そこにはやはり国王様が立っていた。
「……ネスト殿に少し用があってな」
国王様が、以前に会った時よりも厳格そうな声で俺たちに言ってくる。
もしかしたらメイドさんたちがいるから少し無理をしているのかもしれない。
国王様に呼ばれた俺は、メイドさんたちに一言お礼を言い残し、前を歩く国王様についていった。
国王様に連れて行かれた場所は、城のとある一室。
結構歩いたから、もしかしたら国王様の自室とかかもしれない。
「では、入ってくれ」
国王様自身がその部屋の扉を開けて、俺を中に招き入れてくれる。
「……暗くないか?」
まず部屋に入った瞬間、俺はそう思った。
部屋の窓には、カーテンがされ、壁なんかにも、何やら黒い布っぽいものが掛かっているのだ。
「いや、こんなものではないだろうか?」
しかし、国王様はこの環境にはなれているのか、特に気にした様子もない。
「そ、そんなもんか?」
「こんなもんだ」
国王様がそういうのであれば、致し方ない。
俺もそのことには、もう気にしないことにした。
「それで、話っていうのは?」
この部屋まで来たのも、わざわざ国王様が俺のことを呼びにきてくれたからだ。
「……話の前に、少し自己紹介をさせてくれ。お主のは以前に教えてもらったが、そういえば私は名前も言ってなかったからな」
確かに、俺は未だに国王様の名前も知らないし、いつまでも国王様と呼ぶのも疲れてきたところだったので、その言葉に頷く。
「私の名前はエスイックだ。これからはそう呼んでくれ」
「了解、エスイック」
早速、名前を呼ばせてもらう。
そのことに、エスイックも嬉しそうに微笑んでいる。
「……それで、自己紹介も終わったし、本題なのだが……」
「ん、何だ?」
何か気まずそうに、俺に告げようとしてくるエスイックが、気になった。
「実は、お主が連れている、リリィ、という娘のことなのじゃが……」
「リリィが何かあったか?」
もしかして、この前の髪を引っ張ったりしたことを、根に持っているのだろうか。
いや、でもあの時は、別に気にしないと言っていたし……。
「……あの娘は、魔族、ではないか?」
―――――――――は?
今、なんていった……?リリィが魔族……?
田舎者の俺でもさすがに魔族のことは知っている。
というか、偶に村にもやってきて、食料を買ったり売ったりしていた。
でも、リリィが魔族っていうのはどういうことだ。
いきなりすぎて、意味が分からない。
「実は、魔族の姫が、自分の妹がさらわれてしまったらしく、その妹の名前が『リリィ』というらしい。情報によると、リリィという娘は、さらわれているときに、毒を飲まされてしまったらしく、弱っている、とのことだ。本来であれば、魔族には人間の回復魔法は効きづらいらしいのだが、お主ならば治療することも、恐らくは容易であろう。それに容姿などの情報はお主のとこにおったリリィと一致しているのだ」
「……」
言われてみれば、確かにリリィは俺と初めてあったとき、体調は芳しくなかった。
それに、もし本当に、リリィが魔族だったならば、あのリリィの力のことも納得できる。
「そ、それで、もしリリィが本当にその、魔族で、魔族の姫の妹だったら……?」
俺は、恐る恐るエスイックに聞く。
ただ、俺が予想している応えではないことを期待して――。
「リリィは、連れていかれる、であろうな……」
エスイックからの応えは、無慈悲にも、俺が予想した通りの答えだった。
「……まぁ、仕方ない、よな」
「……すまんな」
落胆する俺に対し、自ら頭を下げてくるエスイック。
「い、いや、エスイックが悪いってわけじゃないし……」
そうは言いつつも、俺は、自分の気分がどんどんと沈んでいくのが、嫌でも理解できた――。
「もしかしたら、パーティーの最中に、魔族側から何らかの接触があるかもしれんから、気をつけておいてくれ」
「あぁ……」
エスイックの用というのは、そのことだったらしく、話が終わったので、俺は先ほどまでの部屋に帰ることにする。
……それにしても、リリィが魔族、かもしれないなんて。
もちろん今はまだ、その可能性があるということなのは分かっているのだが……。
「あ、そういえば……」
そんなことを考えながら、部屋を出ていこうとする俺に、エスイックが声をかけてきた。
「私があげた、あの黒マントは使ってくれただろうか……?」
エスイックは俺に期待のまなざしを向けながらそう聞いてくる。
……捨ててしまったなんて、言えない。
そんなことを言えば、本気で落ち込んでしまうかもしれない。
だから俺は、冷静にこう言ってやった――。
「……あ、あぁ、あれね。う、うん。もう何回も、つ、使ってるよ?うんホント」