服を着ているのが恥ずかしい
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「……意外と遠くないか?」
例の女の子についていってからどれくらい経ったのだろうか。
俺たちは先ほどまでの通りよりも少しばかり人が多く歩いている通りまで連れてこられていた。
宿屋まで案内してくれると教えてもらったのだが、一向に着く気配がない。
「もうちょっとで着くよー」
軽くこちらを振り返りながら女の子が言ってくる。
つい先程から同じようなことばかり聞いている気がするんだが……。
「アウラたちは疲れてないか?」
結構な距離を歩いてきたので、おそらく疲れれているはずだ。
俺には回復魔法があるから、疲労をとることなんて簡単にできる。
「だいじょうぶーっ!!」
しかし、俺の心配をよそにリリィが元気な声で手を伸ばしていた。
アウラたちの方もまだ余裕そうで、息も乱れてない。
「……ってあれ……?」
みんなの疲れ具合も確認できた俺は、再び女の子へと視線を戻したのだが、人が多いせいか見当たらない。
「……見つからない」
それからも皆で探したのだが、結局その女の子が見つかることはなかった。
「……で?気づいたら財布が無くなっていた、と?」
「……はい」
俺は今、絶賛アウラにお説教を受けていた。
どうしてかというと、どうやら俺は先程の女の子に自分の財布をとられてしまっていたようなのだ。
財布は何時でも取り出せるようにと、ポケットに入れていたのが仇になってしまった。
「もっととられにくい所に入れておきなさいよ!」
「ご、ごもっともです……」
何時とられてしまったのかと聞かれれば、おそらく俺が後ろを振り返っていたあの時だろう。
財布には少ないとは言っても、最近はある程度稼がせてもらっている身なので、普通の人からしてみたらかなりの大金だ。
それが一瞬にしてなくなってしまうとは……
いくら都が治安が良いといっても、油断してはいけないと身をもって知ることができた。
自分たちを心配した時にとられただろうことをアウラも理解しているのか、今回はあまり怒られずに済んだ。
運がいいことに、俺は前もってトルエにもお金を持たせていたので宿屋に困ることはない。
話が終わった俺たちは、自力で早々のうちに宿屋を見つけた。
お金をもっているとはいっても、あまり無駄遣いはできないので俺たちは皆で一部屋だけを借りることにする。
一部屋しか借りていないといっても、さすがにベッドは二つあるとこにしたのだが……
「……はぁ、やっとゆっくりできる……」
部屋に着いた俺は、そのままベッドに転がり込む。
アウラやトルエももうひとつのベッドに倒れ込んでいる。
ただ、リリィだけは未だに疲れていないのか、平気そうな顔をしてこちらを見ていた。
そして何を思ったのかその顔がまるで面白いことでも思いついたかのような笑みに包まれる。
「とりゃぁぁああっっ!!」
「……っ!?」
なんとその場からこちらに向かって飛びかかってきた。
慌てて身体をおこし、飛んでくるリリィを受け止めるべく両手を広げる。
「……うぐっ」
多少の衝撃はあったもののなんとかリリィの受け止めに成功し、ベッドに腰掛けさせる。
「あははっ!!たのしぃーーっ!!」
その綺麗で細い脚を目一杯にジタバタさせながら、「楽しかった」と俺に笑いかけてくれるリリィが可愛い。
べ、別に他意はないんだけどね?
いやホント。
「あ、そういえば渡すのがあったんだ」
順番にお風呂にも入り終わったアウラたちに、そう話しかける。
「これなんだけど……」
そう言いながら手渡すのは、以前に服屋で買った女性用の服。
忌々しき水着なんかを売っていたところで買ったやつだ。
「えっと、これは……?」
おずおずとトルエが聞いてくる。
「いや、国王様たちが服を準備してくれるとは言ってたけど、城に行くまでにもちゃんとした服は必要かなーっておもって」
「あ、ありがとうございます……っ!」
トルエが目をうるうるさせながらお礼をいってくる。
「あ、ありがと……」
アウラも満更でもなさそうな顔をしながら小さい声でそう言ってきた。
「やったぁーっ!!」
リリィは、いつもとかわらず元気いっぱいで、服を振り回しながら俺の周りを回っている。
「じ、じゃあちょっと一回着てみようかしら……」
そういうと、アウラはリリィとトルエを連れて、脱衣所の方まで向かった。
その間、俺はずっと待っている。
「き、着てみたわよ」
「お、おぅ……」
最初に脱衣所からでてきたアウラは、もちろんだが俺が買った服に身を包んでいる。
その服はなんというか、アウラの可愛さを際立たせている気がする。
自分で言うのもなんだが、服を見る目があるのかもしれない。
「に、似合ってるよ」
普段はそんなこと言わないから、やっぱり恥ずかしい。
「そ、そう?ま、まぁ確かに可愛い服だしね……」
アウラも新しい服を着ているのが恥ずかしいのか、顔を赤くしている。
「……けど、どうしてこんなに大きさがピッタリなのかしら……?」
しかしそれも束の間、アウラがジトっとした目で俺を見つめてくる。
「……」
どうしてと言われても一目見たときにそれを買おうとおもったので答えようがない。
「えーっと……」
どうにかそのことを上手く伝えられたらいいのだが、どうしたらいいのかが分からない。
「……変態」
自分の二本の腕で、その身体を隠すように抱きしめながら、アウラは脱衣所まで帰っていった。
……次からはちょっと大きさの違うやつを、買おう。
俺は心に誓った―――。