男の夢、だと思います
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「ヒール……ヒール……」
俺は今、都へと向けてただひたすら回復魔法をかけながら走り続けている。
どうしてこんなことになっているかというと、国王様からパーティーの招待状をもらったのだ。
何でもこの前のお礼だそうで、服なども全て向こうで用意してくれるらしい。
ただ、アウラやトルエが奴隷というのは内密に頼む、ということだった。
リリィは一応のところは俺の奴隷じゃないので関係ないのだが、確かに国王様たちが来るようなパーティーには平民などは入れないだろう。
ましては奴隷であれば、然りである。
……では、都に行くのだから別に何か荷馬車でも借りれば良いだろう、と思うかもしれないが、実は荷馬車は借りている。
ただ、この前のリリィの件でお怒りのアウラが、俺を乗せてくれなかった。
何でも、自分の妹を変態に近づけられない、ということだった。
「……ヒール…………ヒール」
そういう訳で、俺は今も回復魔法をかけながら、前をゆっくりと進んでいる荷馬車を追いかけ続けた――。
「はぁ、疲れた……」
肉体的には回復魔法があるので疲れてはいないのだが、精神的に疲れてしまった。
因みに今は馬を休憩させるために、俺たちも一休みしている。
「変態のくせにだらしないわね、これくらいで音をあげるなんて」
なんとも理不尽なことを言ってくるアウラ。
だがしかし、ここで言い返したりはしない。
そんなことをすれば、さらにひどい仕打ちを受けるのはわかりきっているからだ。
「たいへんだったねぇー」
アウラが離れていって少し安心していた俺にリリィが励ましの言葉をかけてくれる。
「リリィは優しいなぁ……」
傍に寄ってきたリリィの頭を撫でながらそう呟く。
アウラもいないので目一杯に撫で回してあげた。
「じゃあリリィはもどるねぇーっ!」
満足したのか、リリィが荷馬車の中へと戻っていく。
若干の名残惜しさを覚えながらも、俺は一人、暇を潰すために散歩をすることにした。
「ヒール……ッヒールッ!!」
俺は今、ドラゴンに追いかけられている。
そのドラゴンというのはもちろん俺が以前に遭遇した真っ赤なドラゴンだ。
「……ッ……ヒ、ヒールッ!!」
回復魔法で疲れを取りながら逃げているのだが、このままアウラたちのところへ戻るわけにもいかないだろう。
どうにかしてこのドラゴンを撒かなければいけない。
だが、どうすればいいのか知っているわけでもないので、ただ今はひたすら逃げているという状況だ。
「……っ!?」
前の方を見てみると、なんとそこには国王様と同じくらいの年齢だろうおじさんが立っていた。
「っおじさん!!ドラゴンが追いかけてきてるから逃げろッッ!!」
しかし、おじさんは一向に逃げる素振りを見せず、あろうことかこちらへと歩いてきてしまった。
「……ッ!?」
俺は、慌てて方向転換をして、ドラゴンをおじさんから遠ざけようとするが、既に時遅し。
ドラゴンは、おじさんに気がつき、俺よりそちらのほうが捉えやすいとでも思ったのか、その大きな口を開きながらおじさんに向けて突進していった。
「………う……ぃ」
おじさんはその場で立ち止まると、何やら呟いている。
「グギャァァァアアアアアア……ァアァ……ァ」
次の瞬間、ドラゴンの咆哮が聞こえてきたかと思うと、そのままドラゴンはおじさんの前で倒れてしまった。
「……」
えっと、今のはなんだったのだろうか。
もしかして、お腹が空きすぎて死んでしまった、とかじゃないよな……?
一番可能性があるのは、おじさんが何かをした、ということ。
「……君は」
「ッ!?」
気づいたらおじさんは俺の目の前まで移動してきており、慌てて身構える。
「君は、女子をどう思う」
「……はい?」
目の前のおじさんをよく見ると、何やら黒い服装で、顔は威厳のありそうな人だった。
そんな人が、いきなり俺に女の子について質問してきた。
しかし、恐らく命の恩人に対し無視をするわけにもいかないので、必死に考える。
「……お、男の夢、だと思います…」
なんか痛いことを言ってしまった気がするが、それくらいしか思いつかなかったのだからどうしようもない。
「ほう、『夢』とな。これはまた珍妙な答えであるな」
おじさんは自らの顎に手をやり、物思いするような格好になった。
「……では」
しばらくそのままだったのだが、ついに顎から手を話し、俺に声をかけてきた。
「小さき女子は、どう思う」
「……ち、小さき女子、ですか……?」
「あぁ、俗に言う幼女であるな」
よ、幼女についての質問だと……?
最近何かとそういう関係の出来事が多い気がするのは気のせいだろうか。
……まぁ今はそんなことよりも幼女のことを考えなければならない。
「……」
俺の中での幼女、といえば『トルエ』『リリィ』の二人だろう。
『トルエ』は、歳の割にしっかりしてるし、頭も良い。ただ料理だけは苦手。
『リリィ』は、歳相応の性格をしてるが、料理がうまい。あと馬鹿力。
なら、俺の中での『幼女』は―――
「『自分の娘』、ですかね……」
――多分、これだな。
「『自分の娘』っていうのは、えっと、なんて言えばいいのかな…。あー、要するに何が出てくるか分からないから気をつけないといけないけど、ちゃんと独り立ちできるまで見守っていろよ、っていう意味ですかね」
俺の答えに不思議そうな顔をしてくるおじさん。
俺だって自分が何を言っているかなんて分からないけど、頭に浮かんだのがこれだった。
トルエやリリィが自分の娘じゃないことくらい、俺にだって分かってる。
でもそういうのじゃなくて、ただそういう気持ちでいろよ、っていうことだと思う。
「『自分の娘』、か……」
「ダメ、でしたかね……?」
俺の答えを、おじさんが静かに呟く。
咄嗟に思いついた言葉を言ってしまっただけなので、それが良いのか悪いのかなんて分からない。
「……いや、君の答えは良かった。良い答えが聞けて嬉しかったよ」
「そ、そうですか」
どうやらおじさんの気に召したようで一安心だ。
「ネストー!!」
遠くからアウラの俺を呼ぶ声が聞こえる。
「あ、ヤバっ!!」
かなり時間をくってしまった。多分怒られる……。
「えっと、ドラゴン倒してくれて有難うございました。助かりました」
最後におじさんにお礼を言う。
真偽は分からないけど、恐らくこのおじさんがドラゴンを倒してくれたはずだ。
「いや、全然構わないよ。あ、最後にこの出逢いに感謝して君に良いものをあげよう」
そう言っておじさんが何やら黒い玉のようなモノをくれた。
「あの、これは……?」
それが何なのか分からずおじさんに聞く。
「それは一回きりしか使えない。君が絶体絶命の時に使えばいい。ただ、この黒い玉は本当に使うべきときにだけ飲み込みなさい。いいか、使うときは本当に今使うべきなのか考えなさい……」
「は、はい……」
聞く限りだと何やらすごいものをくれたらしい。
……それにしても使うべきとき、というのはどんな時なんだろうか?
「ネストーー?」
だんだんとアウラの声が近づいてきている。
「あ、すみません。俺はこれで失礼します。えっと、色々ありがとうございました」
俺は最後にそう言って、アウラの声のする方向へと走り出した。
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「フフフ……」
探しモノをしていたら、久しぶりに面白い人間にあった。
女子を『男の夢』、幼女を『自分の娘』とのたまうソイツは自分の仲間の方へと帰っていってしまった。
もっと色々と聞きたかったのだが残念だ。
だが、あの人間なら安心できる。
まぁ、渡した玉をいつ使うかは分からんが、恐らくは大丈夫だろう。
「フハハハハ……ッ!!」
あぁ、こんなに笑うのは何時ぶりだろうか。
そういえば、名前を聞くのを忘れていた……。
「だが、大丈夫だろう」
恐らくまた何時かに会うことができる。
遥か下にある大地を見下ろしながら、私はその何時かに頬が緩まずには居られなかった―――。