どぉーんッッ!!
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「はぁ?腕相撲王者決定戦ぅ?」
俺は例の一件の後、もちろんのごとく引きこもったのだが、なんとアスハさんがわざわざ家まで俺を呼びに来てくれたので行かないわけにはいかなかった。
アスハさんに連れられてむかったギルドでは、入口にデカデカとそう書かれた看板が立っていた。
「はい、実はギルド主催で行うことになりまして、連戦の方のためにネストさんを連れてくるように言われたのです」
「……」
まぁ、さ?分かってたよ、それくらい。
アスハさんが俺なんかのためにわざわざ家まで迎えに来てくれるなんておかしいって。
「ネストさん?」
「い、いやっ、実は俺もこれにでようかなぁ……なんて」
無言の俺に顔を近づけてくるアスハさんに思ってもみないことが口からポロリと出てしまった。
「それはいいですね!私応援してます!」
慌てて冗談だと言おうとしたとき、アスハさんが珍しく少し興奮したように拳を握りしめている。
……うん、出るしか、ないよなこれ。
「さぁ、続いての挑戦者はぁ!!こいつだぁぁああ!!」
訳も分からない内にどんどんと話が進み、俺の出場が決定してしまった。
俺の出番は今の挑戦者の次。
これは、前回の腕相撲王者に挑戦者が挑戦し、挑戦者が勝ったら王者になれるのだが、もちろんそれだけじゃ終わらない。
決められた制限時間内であれば、今度はその新しい王者に挑戦することができるのだ。
勝ったらまた王者交代。
これが時間が一杯になるまで繰り返される。
しかし、王者になった人は連戦することが前提なので、試合ごとに回復魔法で回復しなければいけない。
それが俺の役目でもあるのだ。
因みに今の王者は前王者のままだ。
圧倒的な力で、相手をねじ伏せており、未だ誰も王者になることができていない。
「終了ぉぉぉおおおお!!!」
今の試合の結果は、やはり前王者が圧勝した。
次はもちろん俺の番だ。
「ヒール」
相手に治療をし終え、俺は王者を机にはさんだところにある席にすわった。
「ネストさーん、頑張ってくださーい!」
「ッ!!」
後ろから、アスハさんの応援の声が、聞こえてしまった。
……これは勝つしかない――ッ!!
なし崩しにここまで来た俺だが、作戦を考えていないわけではない。
俺の、俺による、俺のための作戦が、きちんと用意されている。
「っへ、幼女趣味の変態さんなんかには負けないぜぇ?」
……ふふふ、おまえはもう負けている。
「では、よぉぉぉおおおい!!」
審判役の人か誰かが合図をとり始める。
「始めっっ!!!」
その瞬間、俺たちの試合が始まった。
「……ヒールヒールヒール……ヒール……ヒール」
俺は開始からずっと誰にも聞こえないほどの声で自分に回復魔法をかけている。
そうすることによって常に万全の体制で戦える、というわけだ。
「……クッ……!」
だが、それだけでは俺も厳しいだろう。いくら万全の体制であったとしても元々の違いがある。
ではどうするか。そんなの簡単だ。
今まで実は王者には回復魔法をかけていない。
かけるとみせかけて実は全て俺自身にかけていたのだ。
「……ぐぁぁっ!!!」
そして、長い戦いの末、俺は見事勝利を掴んだ。
「……す、すげぇ、あいつ倒しちまったぜ……」
「……幼女趣味の変態……見直したぜ……」
後ろでなにやらざわついているが、俺は満足だ。これで少しは俺のひどい噂もとどまってくれるかもしれないし、なによりアスハさんにいいところを見せることができた。
「新王者ァァ!!ネストォォォォォオオオ!!!」
「うぉぉおぉおおおおおおおおおおおっっ!!」
審判が俺の名前を大声で叫ぶと、ギルドは冒険者たちの歓声であふれかった。
「さて、次の挑戦者だがぁ……?実はまだ決まっていない!!」
ギルドの中の声が静まってきた頃、審判がトンデモ発言をしてきた。
このまま誰もでてこなければ、俺が新王者ということになるのだが、終了の時間まではあと少ししか無かったはずだ。
「ふふふ……」
つい口から笑いが出てしまった。
だけど、これはもうほとんど決まったようなものだろう。
「リリィもやりたぁーいっ!!!」
俺がそんなことを考えていたとき、観衆のなかからそんな声が聞こえてきた。
そしてそのまま俺の前へと連れてこられたのは、なんとリリィ本人。
「えーっと……、時間を見る限りだとこれが最後の試合になりそうだぁぁ……」
審判もこの小さな挑戦者にどう盛り上げたらいいかわからないようだ。
俺も驚いたが、これはこれで良い。
なぜなら俺の勝ちがもう決まったからだ。
リリィには悪いが、勝たせてもらう。さすがにリリィ相手だったら余裕だろうし。
……ふふふ――。
「で、では、用意ぃぃ!!始めッ!!」
ついに、その試合が始まった。
すぐに終わらせるのもアレだし、最初は軽くやってあげよう。
「ネストぉー?これってあいてのうでをたおしたら、かち?」
「そうだよー」
どうやらやり方すら知らなかったらしいリリィに教えてあげる。
じゃあ、そろそろ決めようか―――。
「どぉーんッッ!!」
そしてその声が聞こえた次の瞬間、決着がついた。
「……え?」
試合を行っていた机は見事に真っ二つに割れ、俺はそのまま地面へと叩きつけられた。
そう、俺は負けた―――
その小さな身体のどこに秘めているのか分からないリリィのありえない力によって―――。
「幼女趣味だからって、そこまで……」
「……自分で叩きつけて机をわるなんて……」
俺の耳にその小さなつぶやきが入る。
「し、勝者はなんとリリィィイイイイイ!!今回の腕相撲王者はリリィに決まったぁああああ!!」
「「「「うぉぉおおおおおおおおおお!!!」」」」
ギルドが今日一番の歓声に包まれる。
俺は一人、家に向かって泣きながら走り続けた――。