モジャモジャーーッッ!!
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「トルエー。おーい、トルエー」
「……」
俺の精一杯の慰めが失敗だったのか、トルエが部屋に引きこもってしまった。
呼びかけても反応がない。
ルナが自分のせいでこうなってしまったのか、と心配していたので、ルナには心配しなくて大丈夫だと言っておいたが、これはもしかしたらしばらく部屋から出てきてくれない可能性もある。
ここは仕方ないが一旦諦めて、リリィたちが帰ってきたときに慰めてもうらうか、それとも時間が解決してくれることに期待しておこう。
今、国王様用の朝食をルナに準備してもらっているので、ひとまずはトルエより国王様を起こさなければいけない。
ということで普段は使っていないが、現在は国王様に使ってもらっている部屋の前までやってきた。
「国王様、起きてる?」
「……あぁ、起きてるぞ」
少しの間のあと、どうやら起きているらしい国王様の小さな声が聞こえてきた。
「もうすぐ朝食の準備が出来るんで、そろそろ準備してくれると助かる」
「分かった」
扉の前で待ってしばらく経ち、ようやく部屋の中から服なんかを着替え終わった国王様がでてきた。
ちなみに服は俺のだ。
しかし、まだ国王様は完璧に準備が終わったというわけでもないらしく、その頭にはいくつかの寝癖が目立っている。
「じゃあ行きますか」
国王様を連れて、先ほどまで俺がいた場所へ向かう。
近づくにつれて料理の良い匂いが漂い始め、国王様もその匂いに気づいている。
「……ル、ルナじゃないか」
国王様はルナの存在に気づくと、どういうわけか驚く。
……あ、よく考えたら昨日は会う前に気絶してたから、ルナがいることをしらなかったのか。
「おはようございます、お父様」
「ル、ルナは今何を……?」
そしてやはりというべきか、ルナの料理姿を見て、その存在に気付いた時以上の驚きを見せてくれた。
「ルナ、おまえは今まで料理したことなんかあったのか……?」
「いえ?今日ネストさんに教えてもらって初めてさせてもらいました」
その言葉を聞いた途端、顔を青くする国王様。
恐らくだが、昨日の料理のことを思い出したのだろう。
……それからは、食べるのを嫌がる国王様に、ルナと二人がかりで食べさせ、自分の娘がつくった料理の出来に感動した国王様がいきなり踊りだしたりしたのだが、まぁとにかく大変としかいいようがなかった。
「まさか娘の手料理を食べられる日が来るとは……っ!!」
今、食事のあとにお茶を飲んでいるのだが、国王様の興奮は未だに収まっておらず、自分の父のそんな姿を見て、ルナもさすがに苦笑いを浮かべていた。
「たっだいまぁー!!」
そんな時、玄関から唐突にリリィの元気な声が聞こえてきた。
響きのよい足音が、だんだんとこちらに近づいてくるのが良くわかる。
次の瞬間には勢いよく扉が開かれた。
「おかえり、リリィ」
その勢いのまま俺の下まで駆け寄ってきたリリィの頭を撫でてやる。
「んぅ、お客さん?」
気持ちよさそうに頭を撫でられながら、俺に聞いてくる。
ルナと国王様のことを言っているのだろう。
「あぁ、お客さんだよ」
撫でられ終わったリリィが、ルナより少し近くにいる国王様を不思議そうに見上げている。
「……モジャモジャーーッッ!!」
リリィが国王様の寝癖に飛びかかった。
あまりにも突然のことすぎて誰も反応できずに、国王様もリリィにされるがままになっている。
俺はとっさに国王様からリリィを引き離す。
「リ、リリィ、いきなりあんなことやったらダメだろ……?」
幸い、あまり国王様は気にしている様子もないので、とりあえずは謝罪の意も込めてリリィに自己紹介をさせる。
「えっと、リリィっていいます。あと、髪ひっぱってごめんなさい」
「う、うむ。私もそんなに気にしていないので、お主もそんなに気にしなくて良いぞ?」
謝るリリィに国王様が優しく声をかける。
すると、何を勘違いしたのか再びリリィが国王様に飛びかかろうとしたのでさすがに俺が止めさせた。
「そういえば、アウラは?」
リリィと一緒にいるはずだったのだが、家に帰ってきたときリリィは一人だった。
「えーっとねぇ、アウラおねえちゃんは、何かアスハさんとおはなしがあるって言ってたよぉ?」
リリィがいつもみたく俺のひざの上に座りながらアウラの居場所を教えてくれる。
「ん、了解」
まぁ確かにあんなことがあったあとだし、色々とアスハさんに相談しているのかもしれない。
そういえば結局アスハさんのアレの件もよくわからないままだ……
トントン―――
「ん?」
俺がいろいろと悩んでいると、先ほどのリリィとは違って、玄関の方から扉を叩く音が聞こえてきた。
「あぁ、俺がちょっと見てくる」
他の人にいかせるのは、この面子を考えたらちょっと厳しい。
トントン――
玄関のほうへと行くと、再び扉を叩かれた。
「今出まーす」
ゆっくり扉を開いた先にいたのは、汚れてはいるものの何度か見たことのある騎士の鎧をきた人達が立っていた。
「……いきなりで申し訳ありませんが、ここあたりでちょっと身分が高そうな人を見かけませんでしたか?」
身分の高そうな人というのは、まず間違いなく聖女であるルナのことか、国王様か、それとも両方のいずれかだろう。
「あぁ多分それなら今ウチにいますけど」
「ほ、本当ですかっ!?」
俺の言葉に反応し、大きい声を張り上げる一番偉いと思われる人。
「は、はい。えっと、もしかしなくても聖女様と国王様、ですよね?」
「はいっ!そうです!!」
その勢いに若干驚きながらも、呼んでくれるように頼まれた俺は中で待っている二人を呼びに戻る。
「なぁ国王様たちの護衛っぽい人たちが来てるけど……」
「あっ!」
護衛が来ていることを伝えると、何か思い出したかのようにルナが声をあげる。
「……そういえば、お父様を連れ戻すようにお母様から言われてここまで来たんでした」
「…………そういうことはもっと早く言おうな……?」
急いで各々荷物などを整理し終えたあと、護衛の人たちが待っている玄関まで向かう。
「……世話になったな、感謝する」
皆を代表してか、国王様がお礼を言う。
「いえいえ、こちらこそ国王様の助けとなることができて光栄です」
今は護衛の人もいるために、俺が使える少々の敬語を駆使して対応している。
「……では、また」
そう言い残し、国王様たちはおそらく都へと帰っていった。
姿が見えなくなるまで見送っていようと思っていたら、遠くまでいったところで王様が一人だけこちらへと戻ってきた。
「……っ……はぁ、そういえばこれを渡すのを忘れていた。名前を既に書いてしまっているが、ぜひ使ってやってくれ」
息をきらしながら、何やら黒いモノを渡してくる。
よく見ると、俺が『漆黒の救世主』のときにつかっているやつより上質そうな黒マントだった。
「ありがとう、助かるよ」
ちょうど、色々と傷が出来ていたところだし、ありがたく受け取る。
黒マントを渡した国王様は、今度こそ皆で帰っていった。
……そういえば黒マントに名前が書いてあるって言ってたな。
なんだかんだで結局国王様の名前を聞いてなかったし、見てみるか……。
黒マントの内側に書いてあるだろう、国王様の名前を探す。
そして俺はようやく見つけることができた。
「…………」
そこには、こう書いてあった―――
『漆黒の救世主 様』
………………はぁ、捨てるか。