うんごめん無理
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国王様は依然として俺に手を差し出したままだ。
何が何だかわからないが、このまま放置しておくわけにもいかず、恐る恐る、その差し出された手を握り返す。
「ッ!!」
握った瞬間、国王様の身体がビクッと振動しても、そのまま握りしめて数秒後、ゆっくりと手を離した。
国王様もようやく腰を伸ばしたが、その目はまるで子供のように喜びに満ち溢れ、自分の手を見つめていた。
「えっと、なんでこんなことを……?」
いつまで経ってもその状態から戻る気配がない国王様に疑問の声をぶつける。
すると、その言葉に反応した国王様はゆっくりとこちらを見返してきた。
「そ、そのイヤリング……」
……あ、そういえばこのイヤリング、お城の使用人の子を治療した時にもらった奴だけど、もしかして国王様はその子のことを知っていたんじゃないだろうか。
そうであれば、夜中に忍び込んだ『漆黒の救世主』がもつはずのイヤリングを俺が持っていた、ならば俺が『漆黒の救世主』だ、ということになったのだろう。
「……私の娘のです」
「え――?」
い、今なんて言った?こ、国王様の娘ってことはつまり、聖女様ってことか……?
「あ、あなたが『漆黒の救世主』様ですよね……?」
……これは、正直に答えるべきだろうか、それともとぼけるべきだろうか。
正直、使用人の子が持っていたイヤリングであれば、そこらへんの店で買ったなどと言えばよかったかもしれないが、それが聖女様が持っていたとなれば、そこらへんの店で買えるわけがない。
「いや、わかってますよっ!!正体をバラさずに人を助けることこそが男のロマンってことですよね!!今回はすみません!!ですが誰にも正体を言ったりすることはないので安心してくださいッ!!」
しかし、俺が言うべきか言わざるべきかで悩んでいるときに、何やら国王様が熱く語り始めてしまった。
「い、一旦落ち着いてくれっ!」
夜中だというのに、あまりにも大声で語るものだからさすがに止めさせた。
「ハッ!!すみません、私としたことが取り乱してしまったようで……」
まぁ様付けしてしまうほど憧れていた人が目の前に現れたりしたら、だれでもこんなふうになってしまうのかもしれないが……。
「あー、まぁなんだ。確かに俺は『漆黒の救世主』なんて呼ばれたりしちゃいるけど、実際はこんな全然たいしたことない奴だからさ。敬語も使わないでくれ」
「なッ!?私如きの虫けらが『漆黒の救世主』様に敬語を使わないわけには……ッ!!」
いや、あんた国王だよなッ!?
「えっと、ほらさっき国王様も言ってたみたいに、俺としてはあまり目立ちたくないんだよ。なのに一介の回復魔法使いなんかに国王様が敬語を使っちゃったりしたら嫌でも目立っちゃうだろ?だから俺のためだと思って、な?」
「で、ですが……」
しかし、やはり国王様の中でよほど『漆黒の救世主』が神格化されているのか、いつまで経っても了承してくれようとしない。
このままにしておくわけにもいかないしな……。
「そ、それじゃあ、敬語をやめてくれたら何か一つだけいうこと聞いてやるよ」
「ッ!!」
先ほど握手したとき以上の反応をしめす国王様。
「そ、それは本当ですかッ!?」
「あぁ本当だ。まぁ敬語をやめたらの話だけどな」
「や、やめます!!敬語使うのやめます!!」
「やめますぅ……?」
国王様もようやく了承してくれたが、俺は更に国王様をおいつめる。
「や、やめるっ!!私は敬語は使わないぞぉッ!!」
やっとのことで、完全に俺に対しての敬語をやめさせることに成功した。
「それで、俺に何をさせたいんだ?」
そして今、俺は約束通り国王様のいうことを一つ聞こうとしているのだが、国王様の顔が満面の笑みに包まれている。
……あ、これヤバイのがくるやつだわ。
「わ、私を『漆黒の救世主』様の弟子にしてくれッ!!」
「うんごめん無理」
途端、国王様の顔が絶望に染まった。
「ど、どうしてだッ!?」
いや、どうしても何も君、国王様でしょ?どこに国王様を弟子にとる奴なんかがいるんだよ……。
「そ、そんな、せめて少しくらいは考えてくれ!!せっかく敬語もやめたんだぞ!?」
「うーん、確かになぁ……」
「せ、せめて明日の朝までッ!!明日の朝までは考えてくれッ!!その時にもう一回きくから!!」
国王様の強い希望によって、明日までこの件を考えることになった。
けど、もし断って国王様が『漆黒の救世主』の正体をバラしたりしたら大変だしな。あぁ、今考えるの面倒だから寝る前にでも考えればいいか……。
話も一段落した俺たちは、俺の家へと向かっている。
今更ギルドへ帰るのも億劫になったので割と近い俺の家を選んだのだ。
「あ、そういえばなんだけどさ……」
「ん、なんだ?」
「このイヤリングってやっぱり外した方が良いか?」
今までは特に何も考えることなくただつけていたけど、それがきっかけで正体がバレてしまったんだし……。
「うーむ。イヤリングのことを知っているのは国の中でも数人ほどしかいない。
普通に生活していればまずバレる心配はないだろうが、私みたいな例外がいないとも限らない。
心配ならば念の為にとっておくのも、ひとつの手だと思うぞ」
「了解。じゃあ外しとくかな」
国王様からのすすめもあったので、俺は耳につけていたイヤリングを外し、ポケットの中にしまいこんだ。
「ただいま、トルエ」
家に帰ると、トルエが玄関まで出迎えにやって来てくれた。
「おかえりなさいご主人様……。と、そっちは……」
どうやら貴族だったころにもあったことがないらしく、初めて見る国王様が誰か分からないらしく、首をかしげている。
「あぁ、街の知り合いだよ」
どうせ後でバレてしまうかもしれないが、別にこんな夜でなくてもいいかな、と思い嘘をついた。
国王様から何もいわれないあたり、本人も別にそれで構わないということだろう。
「そうだ、ご主人様たちってお腹すいてますか……?」
トルエが俺たちに聞いてくるが、運がいいことに俺は飯は食べてきたので腹は空いていない。
後は、国王様だけだが……
「実は何も食べていなかったので、何かもらえるのであれば感謝する」
……やっぱり。だって宴会に出てなかったもんな。
けど、ご愁傷さま。トルエの料理を食べることになるなんて。
……料理教室に通っているトルエだが、確かにトルエは進化し続けていた。
料理の不味さが――。
「じ、じゃあ俺は先に部屋戻っとくから……」
「あ、ご主人様っ!!」
早々に自室に戻ろうとする俺をトルエが呼び止めてきた。
……な、何だろうか?
「実はさっき、お客様が来たんだけど、お客様がお疲れになっていたのと、今日は僕、ご主人様が帰らないと思っていたので、一番広いご主人様の部屋に通したけど大丈夫だった……?」
「あぁ大丈夫だよ。対応ありがとな」
ご褒美にと、頭を撫でてあげる。
このごろはリリィやトルエのご褒美にはこれをするようにしている。どうやらそれが嬉しいようで、気持ちよさそうに目を細めている。
……それにしても良かった。飯をたべろとか言われなくて、本当良かった。
おそらく後から聞こえてくるであろう叫び声を思いながら、俺はひとまずの汚れた服を着替えるために、新しい服がある自室の扉を開けた。
「―――え?」
「ぇ」
確かにトルエには客がいるとは聞いていたが、男か女かまでは聞くのを忘れていた。
中にいたのは、着替えの途中なのか、服を脱いだ女の子がいた。
しかも、その女の子は見覚えもあった。
「あ、あれ、お前……」
そこに居たのは、お城で逃げ回っている時に見つけた一室で治療した女の子。
つまり『聖女』様だった―――。