木の棒がそんなに切れ味いいなんて
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「ハァ……ハァ……。木の棒がそんなに切れ味いいなんて聞いてないッスよ……」
俺に両腕をきられ、地面に倒れているヴァイスが息も絶え絶えの様子で言う。
「……ハハッ。だからぶった斬ってやるっていっただろ?」
……まぁ、正直俺としても、イチかバチかの賭けだったんだが、運良く成功してくれて助かった。
「……ッホント、期待以上だったッスわ」
既にヴァイスは戦う気はないようで、立ち上がろうともしない。
「それでなんだが、そろそろ何が目的でこんなことしたのか教えてくれても良いんじゃないか?」
オーガを集めてまでこんなことをしたんだからそれなりの理由があるはずだ。
「……ハァ、だから、上の命令だって何回も言ったじゃないッスか……」
しかし、返って来た答えは既に聞いたことのあるもの。
「それでもさすがに少し位は知ってるだろ?少しでいいから教えてくれよ。そしたら治療もしてやるからさ」
ヴァイスの怪我はこのまま放っておいたら、高確率で死に至るほどのモノだ。
きっとそれが、今俺がもっている唯一の交渉をすすめられる鍵。
「……」
ヴァイスも自分の怪我の深刻さがわかっているようで、案の定というべきかあからさまに俺から目を逸らす。
「ほら、お前も分かってんだろ?別に知ってること全部じゃなくていいから、今話せるやつだけでも教えてくれよ」
ヴァイスにも色々と事情があるのだろう。本当に教えられないこともきっとあるはずだ。
話せることだけ話せば治療するというのもいささか問題があるかもしれないが俺が知っている中ではヴァイスは誰も殺すところまではしていない。
それなら俺も殺すまではしてやりたくない。
まぁ、オーガと戦っている冒険者たちの安否は判らないが、デュード先生たちもいるはずなので、恐らくは安心しても良いだろう。
しかし、どういうわけかヴァイスはいつまでも渋って話そうとしない。
「なぁ、少しくらい教えてくれよ。一応、俺が勝ったんだしさ」
まぁ、ほとんど運で勝ったようなものなんだけどな……。
「…………いや、どうやらまだそうと決まった訳じゃないみたいッスよ?」
「ハ?」
久しぶりに話したかと思ったらいきなりそんなことを言ってきたヴァイスの意図がよく分からず思わず聞き返してしまった。
「―――まさか、ヴァイス君が負けるとは思いませんでしたよ」
「ッッ!!??」
『ソイツ』は俺の後ろに、いつのまにか立っていた。
どこか懐かしさを感じさせてくれる、俺とは真逆の白に染められたマントを羽織り、顔も隠している。
とっさにその場から離れ、木の棒を構えるが、『ソイツ』は俺を無視してヴァイスの下へと向かう。
「ヒール」
『ソイツ』はヴァイスに回復魔法をかけた。
止血だけでもしておこう、という考えなのだろうか……?
「―――ハ?」
次の瞬間、木の棒に斬られたハズのヴァイスの腕が、新しく生えていた。
「はぁ、マジで痛かったッス。来るの遅すぎじゃないッスか?」
「いやいや、これでも結構急ぎましたよ。ヴァイス君が負けると思ってなかったので確かに少しはゆっくりしていたかもしれませんが……」
「そ、それを言われたら何も言えないじゃないッスかぁ」
……何やら仲良さげに話しているが、そんなことはどうでもいい。
今はそんなことより、今の回復魔法は何だ?
見覚えがあるなんてモノじゃない。それは、俺の回復魔法、そのものだった。
「ア、アンタ、もしかして、俺と昔会ったことがないか……?」
昔のことなんて正直ほとんど忘れてしまったけれど、最初に見た回復魔法に憧れて、それを参考にして今まで回復魔法の練習をしてきたことは覚えている。
……それなら俺と同じ回復魔法を使えるやつが、少なくともあと一人いるのは必然じゃないか。
確かに、昔見た一般的な回復魔法が、子供だった俺の中で知らぬ間に変わっていった、という可能性だってあるのは分かっている。
けど、もし本当に俺が始めて見た回復魔法だったとしたら、いくつかの辻褄が合う気がする。
どこか変な懐かしさを感じるその白マントも納得できるし、そして何より俺の回復魔法の異常さも然り、だ。
「……」
『ソイツ』は黙ってこちらを見ている。ヴァイスとの会話もやめ、確かに俺を見ていた。
……どれくらいの間そうしていたのだろう。
ふと『ソイツ』が俺から目を離した。
「ヴァイス君、どうやら冒険者によってオーガが倒されたようです。私たちもそろそろお暇させてもらうとしましょう」
「了解ッス」
そう言うと、『ソイツ』はマントの下から何やら球体のような物を取り出し、それを地面へと投げつける。
すると、そこから出てきた煙が俺たちを包み込み始めた。
「――――――――――――――――」
「ッ!!」
『ソイツ』は、最後にそう言い残すと、完全に煙の中へと姿を消した。
煙が風に煽られ、次第に視界がよくなってきたとき、そこに二人の姿はなく、ただ俺だけがその場に立っていた。
結局、ヴァイスたちの狙いは何も分からなかったが、一つだけ分かった。
なぜなら、『ソイツ』は俺に対して確かにこう言い残して言ったからだ。
『それじゃあ、まだ足りませんよ。アネスト君』
俺は、『ソイツ』と昔、会ったことがある―――。