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聖女の回復魔法がどう見ても俺の劣化版な件について。  作者: きなこ軍曹/半透めい
第一章 聖女の回復魔法がどう見ても俺の劣化版な件について。
45/181

一撃で決めるッ

ブクマ評価感謝です。

中途半端に切れてしまって申し訳ありませんm(_ _)m



 「それにしてもアレでよく死ななかったッスねぇ」


 ナイフを構え、一歩も動かない状態のままのヴァイスが俺に対し言ってくる。


 「薬はちゃんと塗っておいたはずなんスけど……」


 どうやら未だに俺がここにいることが不思議でたまらないようだ。


 「あぁ薬の効果は出てたぞ。ちゃんと痛みはあったし」


 確かに、効果はあったものの、それはほんの少しだけ。


 別にそんなことまで教えてやるつもりもないのだが……。


 「……」


 再び俺たちの間を沈黙が支配し始める。


 しかし、会話をしている時も、今こうして黙っている時も、ナイフは互いに構えられ続けていた。


 ただ、今もお互いに相手の出方を窺っているのだ。


 「……あの、一つだけいいッスか?」


 そんな中でヴァイスが自分の構えを解き、そんなことを言ってきた。


 「……なんだよ」


 俺はというと、ヴァイスの狙いが分からずにいたので油断することなくナイフを構え続けている。


 「せっかく本気で戦えそうなんスから、やっぱりこんな狭苦しい部屋じゃなくて、もっと広いところでやりたくないッスか?」


 「……ハ?」


 いや、もちろんヴァイスの言わんとすることはわかるのだが、この緊迫した空気の中ではあまりにも似つかわしくない軽い調子で言ってきたので、少し驚いてしまった。


 「ま、まぁそれくらいなら別に構わないけど……」


 俺としても広いところで戦えるなら、動きやすいだろうし、そっちの方が正直ありがたい。


 「ここあたりでいい場所ってあるッスか?別にさっきの街の外でも良いんスけど、邪魔が入っても嫌ッスし……」


 ……ここあたりで広くて戦いやすいような場所。それでいて邪魔も入りにくいような場所といったら……


 あの場所だな―――。


 


 

 そして俺たちは、本気で戦える場所へとやってきた。


 そこは、俺や他の冒険者たちが幾度となく殴られ、そして殴られ続けた、冒険者教室を行う場所だった。


 ここであれば、オーガの討伐隊の冒険者は来ないだろうし、冒険者以外の人など特別な用事でもない限りまず来るはずもない。


 「へぇ、街にこんな場所があったんスね……」


 やはりというべきか、最近街に来たばかりのヴァイスはここのことは知らなかったようだ。


 「じゃ、今度こそ始めるッスか」


 その言葉で再び俺はナイフをヴァイスへと向ける。


 「あ、始めるって言っても、さっきみたいに両方ともなにもしないのは面倒くさいッスし、木の棒でも投げて、それが落ちたら両方とも突っ込む、とかどうッスか?それならあまり時間も掛からないだろうッスし」


 「……そっちがそれでいいなら、こっちは別に構わないけど」


 ヴァイスの言ったやり方の方が確かに無駄に時間をかけなくてすむだろう。


 それに、早く終わればその分、『アネスト』として皆に治療をすることもできる。


 「じゃあ、それでよろしく頼むッス」


 「……あぁ」


 裏切り者であるヴァイスの言うことを信じて大丈夫か、と聞かれれば、絶対大丈夫だとは言い切れない。


 しかし、実際ここへ来る時に会った国王様などには目もくれず、ただ俺の後ろについて来たことを考えると、どうしてか大丈夫な気がするから不思議なモノだ。


 



 ヴァイスがそこら辺に落ちている木の棒の一つを手に取る。


 「簡単に負けたりしないでくださいッスね」


 「あぁ任せろ。逆にぶった斬ってやるから――」


 そう行った後、ヴァイスが木の棒を自分の真上へと思いっきり投げた。


 それと同時に俺から更に離れたところへと移動し、木の棒が落ちてくるその時を待ち続ける。


 木の棒の行方を確認しながらも、俺たちはお互いに相手から目を離さない。


 


 木の棒が回転しながら地面へと近づく。


 それを確認した俺は、素早くヴァイスの下まで行けるように、身体を沈める。


 ……とうとう木の棒が地面に落ちた。


 カタンと響きの良い音が聞こえた時には既に、俺とヴァイスは互いに向かって駆け出していた。


 手には使い慣れたナイフを握り締め、ただ目の前の敵にだけ集中する。


 一撃で決めるッ―――――!!


 互いの距離が、既に手の届くところまでになっている。


 先にヴァイスが仕掛けてきた。


 俺と同じように右手にナイフを持ち、一撃を与えようとしてくる。


 確かにその攻撃は速い……。けど、デュード先生ほどじゃないッッ!!


 その攻撃を危なげにだが、確かに避け切った俺は、他には特にすることはない。


 ……あとは腕が勝手に終わらせてくれるからだ。


 何時も通り、俺の腕がヴァイスへと伸びていく。


 そして、握っているナイフが相手を斬りつける―――


 「なッ!?」


 ―――ことはなかった。


 俺のナイフはヴァイスのもう片方の手に隠されていたナイフによって、防がれていた―――。

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