なにをしていらっしゃるんでしょうか
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今俺とアウラの間には何とも言えない空気が漂っている、気がする。
アウラはあんなことを言った手前、俺と顔を合わせづらそうだ。
俺も俺でこのあと怒られてしまうのではないか、と緊張していた。
「…………」
「ヒ、ヒール」
埒があかないのでひとまず自分の治療だけ済ませておく。
「……さ、さっきのって、聞いてたわよね……?」
さっきの、というと恐らく先ほどの「好き」についてだろう。
「さ、最初から全部、聞いてたってことよね……?」
「あ、あぁ。全部聞いてた」
……最初から最後まで全部聞いてしまいました。
「そ、そうよね……。聞いちゃったわよね……」
「……ご、ごめん?」
もとはと言えばヴァイスが裏切ったりするのが悪いのであって俺が悪いわけではないと思う。
だが確かに、いつまでも死んだふりをしていた俺にも非がない、ということも一概には言えない。
「「……」」
……しかし、いつまでもこのままでいるわけにもいかない。
冗談抜きの話、そろそろヴァイスを追いかけないと不味いだろう。
「じ、じゃあそろそろ俺行かないと……」
俺がそう行ったとき、アウラがおもむろにその場から動き始めた。
「え、えっと、アウラさんは、なにをしていらっしゃるんでしょうか……?」
「何も」
―――じゃあどうして落ちている剣を拾っているんですか?
そしてどうして剣を持ったままこっちに来てるんでしょうか?
「い、一旦落ち着こう、な……?」
「……落ち着いてるけど?」
―――それならどうして涙目で顔真っ赤なんですか?
そしてどうしてプルプル震えてるんでしょうか?
「……ネストは黙ってそこに立っておけばいいのよ」
「は、はい」
自分の奴隷であるアウラからの命令に、思わず従ってしまう。
……剣を持ったまま俺に近づいてきたアウラは、顔を真っ赤に染めながらも、俺がたった今治療をしたところを再び突き刺してきた。
「「…………」」
俺もアウラもただずっと無言のままでいる。
それから少し経った後、アウラはそっと剣の柄から手を離したかと思うと何も言わずその場から離れていった。
一人では危険かとも思ったけど、アウラが向かったのは街の近くなのでおそらく大丈夫だろう。
頭もいいアウラなら危険な場所とかも熟知しているはずだし……。
「ヒール」
アウラが離れて行ったあと、俺はアウラに刺された剣を身体から抜き治療をした。
奴隷が主を剣で刺すなんて一体どう言うことなんだと思うかもしれないが、俺からしてみれば、逆に良くこれくらいのことだけで済んだと思う。
アウラのことだからもっと非道いことをしてくるのでは、と思っていたので正直安心した。
……まぁいつまでもこんなところにいるわけにもいかない。
俺は数箇所の穴が空いたマントを羽織直し、ヴァイスが向かった街へと走った。
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私は今、ギルドに居る。
何でも危険なモンスターが出たらしく、国王である私は街で最も安全だと言われるギルドの一室にいるように頼まれたのだ。
ちなみに念のための護衛として、元冒険者の受付嬢を置いていってくれた。
……私としては本当は、街のためにと戦う冒険者たちの勇姿を少しでも見たかったのだが、国王という立場上仕方がない。
それにしても、『漆黒の救世主』様も戦っているのだろうか。
この街へやって来た本当の目的が今そこにあるということが分かれば無理にでも、その場へと向かう予定だ。
この際立場など気にしていられない。
そこに私の憧れの人がいるのならば、それを一体誰が止めることが出来るだろうか。いや、誰もできないだろう、というかそんなことさせない。
時間が少し、また少しと進んでいく。
それがどれ程繰り返されたのか分からなくなった頃、部屋の扉が叩かれた。
「はい、どちら様ですか?」
それに受付嬢が対応する。
「討伐の件で報告に来た者なのですが大丈夫ですか?」
……かなりの時間が経ったので、そろそろ討伐が終えたのだろうか。
「……」
しかし、あまり受付嬢の反応が芳しくない。苦虫をすり潰したかのような顔をしている。
そう思うと私の方へと向かい小声で耳打ちしてきた。
「……報告ならば、ここではなくギルド長にするのが普通です……。……国王様を狙った賊の可能性がありますので、気をつけてください……」
気をつけろと言われてもこの部屋では逃げ回ることくらいしかできないのだが……
受付嬢が静かに扉を開ける。
そこにいたのは、血で服を真っ赤に染めている男だった――
「ッッ!!」
それを確認した受付嬢がすぐに攻撃をしかけるが、男はそれを軽くいなすと懐に隠していたナイフで一突きし、そのまま後ろへと投げ飛ばしてしまった。
「クククッ……。全く、弱いのばっかッスね。上から聞いてた奴も特に苦労することなかったッスし」
「お、お主の目的はなんだ……」
「ハァ……。またそれッスか?『上からの命令』としか言えないッス」
男はそう言うと私にナイフを向けながら近づいてくる。
逃げなければいけないと分かっているも、身体が言うことをきいてくれない。
「じゃ、これで終わりッス」
男はそう言うと、掲げたナイフを振り下ろす――。
「ッ」
すぐにやってくるだろう痛みに備え、目を瞑る。
しかし、いつになっても痛みはやってこない。恐る恐る目を開けると
傷んだ黒マントに身を包む『ソレ』が居た――。