オーガの真似をしてみた
ヴァイスくんの「ッス」がそろそろきつい……
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「ククク、痛覚が無いっていうのは本当だったんスね」
「……おい、ヴァイス冗談はやめろ」
別に痛くはないが、自分の胸から剣が生えているというのは気持ちいいモノではない。
ましてや、さっきのオーガの顔真似など何を考えているんだ。
「そうッスね。確かにそろそろ冗談は止めるッス」
そう言いながら、後ろの方に隠していたのか徐ろに前に押し出す。
「ッッ!!??」
両手両足を拘束され、話せないように口を布で詰められた『アウラ』がいた。
「ンゥゥゥッッ!」
必死にヴァイスから離れようと暴れている。しかし、二人には明らかに力の差がある。
方や、冒険者として活動している者。方や、毎日モンスターについての知識を蓄えている者だ。
しかもアウラは両手足も拘束されているのでろくに身体を動かすことさえ出来ない様子。
「その剣を抜けばこの女を殺しますから気をつけてくださいッス」
「なッ!?」
「あ、それとその剣は痛覚を増幅させる拷問用の薬が塗られてあるんで、すぐに効いてくると思うッスから」
……これは、一体なにがどうなってるんだ?
「アハハ、何がどうなっているんだみたいな顔してるッスね。まだ分からないんスか?俺が裏切り者だった、ということッスよ。オーガを呼んだのも自分ッス」
「……それで何が目的なんだ……?」
まずどうやってオーガを操っていたのかも分からない。それほど強大な力を持っているとも考えられるが、一向に目的が不明瞭な気がする。
「うーん、目的ッスかぁ。強いて言えばそれが『上からの命令』だからッスよ」
「それは、こんな風にオーガで街を襲わせること、なのか……?」
「そうッス。そして最終的には街を最後まで破壊しないといけないんッスよ?というか、今回のオーガの前にゴブリンの大群を送り込んだんスけど、『誰かさん』にやられてしまったんスよねぇ」
……………。
どう考えても俺のことだ。
「お、そろそろ痛みがでてくるころッスか?それを使えばどれだけ痛みに強い奴でも泣き叫ぶほどらしいんで頑張ってくださいッス」
……確かに、少しだけ痛くなってきた気がする。
今までは少しかゆいくらいだったソレが、今は回復魔法を覚える前に、転んで怪我した時くらいの痛みがあった。
しかし、薬はこれだけでは終わらないという。
見ればアウラは既に顔面蒼白でこちらを見てきている。
……こんなことになるなら、もっとアウラと話せば良かった。このままいけばアウラを奴隷から解放できないままで終わってしまう。
それだけは絶対に阻止したいのだが、それをさせてくれるとも思えない。
…………やっぱりこのまま死ぬしかしかないのか―――
―――あれ、これ以上痛くならないんだが……?
もしかしてこれってすごい効果が遅いのか?
「そろそろ痛くなりすぎて話すこともできなくなってきたッスか?まぁそれもしょうがないッスけどね」
……どうしよう。これ絶対俺がおかしいんだわ……。
俺が黙っているのを勝手に勘違いしてくれたみたいだけど、さっきから相変わらず痛みはあのままだ。
「その回復魔法は厄介ッスからねぇ。痛みで治療に集中できなくなるはずッス」
……なるほど、どうやら狙いはそういうことだったらしい。その間に街を襲う予定なのだろう。
それから、少し経ってもやはり、痛みはそれ以上にならない。
もしかしたら効果が遅いだけなのかもしれない、と思って身構えていたのだが、それ以上の痛みになる気配はなさそうだ。
……けど、このまま突っ立っていても何かが起きるわけではない。
オーガを倒した討伐隊がこちらに向かってくることに賭けてもいいが、正直あまり期待できない。
それに時間がかかればかかるほど、俺に薬の効果が出てないことがバレる可能性が出てくる。
……じゃあ、どうしよう。
まだ、胸に剣が刺さったままで血もでてきている。
こちらとしても早く治療したい。
何か、何かこの状況を打破できる方法はないものか……?
―――あった。
……けど、正直あまりやりたくない。
しかし、今この時を逃して取り返しのつかない事態になったりしてもダメだ……
覚悟を決めろッ―――
「ギャァァァアアアアアアアアアアアッッッ!!!痛いぃぃぃいいいッ!!グァアアアアアアッッ!!」
……恥ずかしすぎる。
俺は今うずくまりながら思いっきり泣き叫んでいる……
叫び方はさっきのオーガの真似をしてみたらなんかそれっぽくなった気がする。
なんで俺がこんなことをしているのかというと、ヴァイスの一言によって思いついたのだ。
『それを使えばどれだけ痛みに強い奴でも泣き叫ぶほどらしいんで頑張ってくださいッス』
……痛みに強い奴でも泣き叫ぶ。
「アハハッ、やっぱ痛覚がない人でもこれぐらいなるんスねぇ」
うずくまっているから顔は見えないけど、おそらく物凄い顔をしてそうだ。
アウラは多分真っ青になっているかもしれないけど、今は我慢してもらうしかない。
「ピギャァァァアアアアアアッッッ!!!」
最後に盛大な叫び声をあげて、そのまま地面に倒れこむ。
少しやりすぎたかもしれないが、これくらいやった方が強烈だろう。
「……あれ、もしかして死んじゃいました?まぁこれだけの時間、剣を刺したままだったスから仕方ないと言えば仕方ないッスね」
……よしッ!!
ひとまずの死んだフリ計画は成功した!!
「じゃあ、もうこの人も特に必要ないッスか。殺すッス」
……な、なんだって!?
やばい、それは考えて無かった。
必死にさらなる打開策を考えるが中々良い案が浮かんでこない。
「あ、でも血まみれで街に行くのもダメだから、このまま放置しとけば良いッスね。ネストっちが死んでなんか反応も無くなったッスし」
偶然にも、運良くアウラは見逃されることになった。
……ヴァイスの足音が離れていく。どうやら街の方へと向かって言ったらしい。
すぐに起き上がるわけにもいかないので、しばらく倒れたままの状態を維持する。
すると、何かが擦り寄ってくるような感触があった。
「……っ……!…………ぅう、っネストぉぉ……。……っおきてよぉぉっ……!!」
―――アウラだ。
腕と足を縛られながらも、ここまで来たらしい。
…………さ、さて、どうしよう?