もらってくれる?(意味深)
ブクマ、評価ありがとうございます。
宿屋のおばちゃんにこってり絞られた俺であったが、今は期待で胸が一杯だった。
なぜかって?そんなの決まってる。「聖女様」に会えるからだ。どうやら、治療様子は一般に公開されているらしく見るのは簡単、ということだった。
大事なのは「聖女様」がどれだけ回復魔法を使えるかということだ。
そしてもっと大事なのは「聖女様」がどれだけ美人なのかということだ。聖女がどれだけ美人かということだ!!
街は活気に満ちたいた。道には屋台が開かれ人通りは多い。すでに軽いお祭り状態である。
「おい、聞いたか?聖女様が今街についたらしいぞ!」
「お、早いな!治療はどれくらいに始まるんだ?」
「聖女様が少し休憩なされたらすぐに始まるそうだ。」
俺は耳を澄ませて情報を集める。べ、別にこの街に来たばっかで友達がいないだけだからな!
できるだけ前の方で見れるように早目に移動する。幸いにもまだ数人しか来ていなかったので余裕で前に陣取ることができた。
どうやらまだ開始には少々時間があるようだ。失敗したなぁ、なんか適当に食い物でも買ってこれば良かった。朝飯も食ってないから腹が減った……。
「えっと、ネスト君?お、おはよう。」
「ぇあッ!?ど、とどちらひゃまで?」
だって目の前にボンキュッボンの女の人がいたんだよ!?噛まずにいられるはずがないじゃん!
「私だよ私、アスハ。」
な、なんと、アスハさんだったとは……。
「あ、おはようございます。制服じゃなかったので分かりませんでした。」
だって俺今まで私服姿のアスハさん見たことないし……。というかやっぱ美人!
「えっと、それでアスハさんは何しに?やっぱ聖女様を見に来たんですか?」
「う、うん。確かにそれもあるんだけど、もしかしたらネスト君に会えるかもと思って…………。」
「え、なんですか?」
後半の方が声が小さくて聞こえなかった。
「そういえばネスト君って朝ごはん食べた?もし食べてなかったらでいいんだけど、実はお弁当作りすぎちゃって……。どうかな?」
ど、どうかなってもしかしなくても一緒に食べていいってことデスカ??
アスハさんにお礼を言い、弁当に手をつける。
「う、うまい!!」
なにこれ、むっちゃ美味しい!アスハさん料理うまかったんだ……。しかも美人!まじ美人!!こんな人が俺の奥さんだったら……。
「ご、ごっくん」
だがしかし、そんな夢を見ても仕方ない。どう俺が背伸びしてもアスハさんと釣り合いが取れるわけもない。イケメンに生まれなかったことは悲しいがこの弁当だけでこれからも生きていける!
「これホントおいしいですよ、もう売りに出せるレベルで。アスハさんの旦那さんになる人が羨ましいです!」
俺がイケメンだったらこんな料理を朝昼晩食えてたんだろうか、残念だ……。
「えッ!?」
突然顔を真っ赤に染めるアスハさん。なにやら慌てふためいている。
「じゃ、じゃあネスト君がもらってくれる?(私を)」
「え、もちろんもらいますよ!(弁当を)」
「ええええええええ!?」
本当どうしたんだアスハさん。俺がなんかまずいことでもしちゃったのだろうか。
「あれ、やっぱ弁当もらったらダメでした?」
「え、弁当?」
突然動きを止め俺に問いかけてくるアスハさん。それはもう鬼気としている。
「べ、弁当の話じゃないんですか……?もらうもらわないって……。」
俺がそう言うと、擬音で「ボンッ!」的な音がなるくらい顔を真っ赤にしてアスハさんは走り去っていってしまった。ど、どうしたらいいんだこの弁当……。食べていいんだよな……?
俺が弁当を完食したあたりからだんだんと人が集まりだした。そこにはやはりというべきか怪我した人が大勢いる。
周りの会話を聞くに、もうすぐ始まりそうだ。
周りの歓声が大きくなる。どうやら俺が待ちに待った聖女様が現れるようだ。美人来い!!
聖女様が俺たちの前に現れる。フードを深く被って。
そのことは周りも不思議に思ったのかどよめきが次第に広がっていく。
「みなさん、おはようございます。」
澄んだ声色、ただ一言。大して大きな声を出したわけでもないのに周りに響き渡る。それだけで、どよめきまでもがおさまる。
「では治療を開始します。」
さすが聖女というべきか、みるみるうちに傷を治していく。しかし、治療をしているのはカスリ傷程度の物ばっかりで、俺が期待しているような聖女様のすごい魔法はお目にかかれない。
ここは腹を括るしかないか、俺は治療客として聖女に近づく。さすがに後々目立つのが嫌なので顔はフードで覆っている。
「こんにちは、貴方はどこを治療しに?」
近くで聞くとさらに綺麗に聞こえる声。そしてフードの中をちらりと覗ける聖女様の素顔。少しだけ見えただけでもそれが美人だろうと分かる。
「えっと、腕を治療してもらおうと思ったんですけど……。」
「?あなたの腕は怪我しているようには見えませんけど……。」
「あ、今からするのでお願いします。」
そして俺は片腕を切り落とす。
「ッ!?貴方何してるんですか!?今治療しますからじっとしていてください。」
せ、聖女様に怒られた……。たしかにやりすぎたかもしれんなぁ。俺の腕の付け根からは今も大量の血が溢れている。
「ハイヒールッ!!」
おお、これが聖女様の魔法、か、あ……?
「えっと、終わり、ですか?」
血は、止まっている。けれど、それだけで腕は治ってない。
「貴方!どうしてこんな馬鹿なことをしたんですか!!腕を切るなんて!!もう、一生使えないんですよ!?」
「ハ?え、聖女様は腕を治すことができるんじゃないんですか……?」
周りのやつらは俺たちの様子を固唾を飲んで見物している。
「馬鹿なんですか!?戻るわけがないでしょう!?自慢するわけではないですが、私は回復魔法に関しては自分でも他より知っているつもりです。それでも、切った腕を治すなんて魔法は聞いたことありません。」
俺はその場に立ち尽くす。え、じゃあ俺のヒールはどうなるんだよ。俺は誰に回復魔法を教えてもらえばいいんだ……。
「なんか、すみませんでした。」
俺は茫然自失なまま周りの皆に一言入れて、自分の腕だったものを拾い宿屋に戻った。
それじゃあ俺の回復魔法ってなんなんだ……?聖女様でもできないようなことをいとも簡単にやってのけてしまう。
「ハッ……、こんなの化物以外のなにもんでもないじゃんか…。」
自分の腕を治しながら自嘲気味に呟く。ヒールというだけで生えてくる腕、それがどれだけおかしいことか今更ながらにようやくしっかりと理解した俺。
これからは、度が過ぎた回復魔法は出来るだけ使わないようにしよう。
俺はそう心に刻んだ。