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聖女の回復魔法がどう見ても俺の劣化版な件について。  作者: きなこ軍曹/半透めい
第一章 聖女の回復魔法がどう見ても俺の劣化版な件について。
36/181

楽だったわ。

ブクマ評価感謝です。


 「はぁ……、もう大丈夫、か……?」


 「そ、そうみたいっスね……」


 ……ドラゴンから逃げるのは本当に大変だった。


 疲れたら俺の『ヒール』で治して、また疲れたら治す。それの繰り返しで死ぬかと思った……


 




 「お、やっと帰ってきたか。いつまで経っても帰って来ないから何かあったのかと思ったぞ」


 「あ、あぁ」


 やはりサイアンたちには心配をかけていたようだったが、俺たちは少し遅めの食事にありつけた。


 サイアンたちは御者を任せているので夜番も俺とヴァイスの仕事だ。


 「じゃあ、俺たちは寝させてもらうわ」


 「よろしくお願いします」


 二人はそう言って荷馬車の中へ入っていった。俺とヴァイスは夜の間だけだが火の番をしなければならない。


 「……」


 いつもは皆と話しまくっているヴァイスだが、帰ってきてからほとんど話していない。


 「……ネストっちの回復魔法って結局何だったんスか?切られた腕を一瞬で治してたっすよね。秘密にしてるのかと思ってサイっちたちがいる時は言わなかったっスけど」


 そうだ、ヴァイスには俺の本当の回復魔法を見られてしまっていた。先程はそれどころではない状態だったので誤魔化せたと思ってたのだが、どうやら今まで黙っていたのはそういうことだったらしい。


 「そ、それはだな……」


 俺の回復魔法のことは基本的に秘密にしている。使うときがあったとしてもその時は顔バレをしないようにしたり、と気を使っている。


 しかし、一緒にクエストを受けているヴァイスと気まずい雰囲気になるのもダメだ。


 ヴァイスの前で回復魔法を使ってしまった俺が悪いだろうし、ここは諦めて話すしかないか……。


 ほかの人には言わないようにお願いもしないといけないけど。


 「……実は、俺の回復魔法ってちょっと普通と違って効果がありすぎるみたいなんだ」


 「まぁ、確かに凄かったっスね」


 「でも、俺としてはあまり目立ちたくないっていうか、回復魔法を使うとしても顔バレしないように気をつけてるんだ」


 その結果『漆黒の救世主』とかいう恥ずかしい名前を貰ったんだけど。


 「え、それでも腕とか切られたら痛すぎて治療に集中できないと思うんスけど……」


 「それに関しては俺の回復魔法の特訓が原因なんだ」


 「回復魔法の特訓っスか?」


 「あぁ、俺って回復魔法の特訓をするときは、自分の手とかを切りまくってたからそのせいで痛覚がおかしくなって、今では腕を切られてもほとんど痛くないくらいなんだ」


 「そ、それは凄いっスね……」


 「俺の回復魔法についてはそんなとこかな。この事は他の人には言わないでくれると助かる」


 もしここから俺の事が広がったりして国王様の耳に入ったら、王女様の件で捕まったりするかもしれないし……


 普通に死刑とかされるかもしれない。


 「了解っス。もともとそんなつもりも無いっスし」


 「あぁ、よろしく頼む」


 





 夜も明けてきて、サイアンたちが起きてきた。


 少しの間だけ俺とヴァイスが仮眠をとり、その後にゴブリンキングを討伐しに行く。


 まぁ、ゴブリンキングは一対一で戦っても勝てたので、今回の四対一ははっきり言って余裕だった。


 怪我をしたら俺が治し、また攻撃を再開する。


 十分もしないうちにゴブリンキングを倒し終えることができた。


 「こんなに簡単だと思いませんでしたね。やっぱ回復がいると助かります」


 「いや、ゲイルの風魔法も凄かったし、前衛がいるのも楽だったわ」


 俺たちはゴブリンキングの討伐部位を切り取り、街への帰路についた。



 




――――――――――――――――――――――――――――――――





 俺はギルドに登録している冒険者だ。


 今日はパーティーで街から少し離れたところで薬草を採取していた。


 「いやぁ今日はモンスターも少なくて大量だったなぁ!!」


 「確かにまだ一回しか見てないものね」


 普段であれば十回ほどは遭遇するゴブリンなどのモンスターも今日はなりを潜めている。


 



 モンスターも出てこないので見張りもせずに皆で薬草を集める。


 しばらくした後、持てるだけの薬草を採取した俺たちは一度休憩を取ることにした。


 「これだけあればしばらくは楽して暮らせそうだなぁ!!」


 薬草の需要は意外にも高く、数があれば高値で引き取ってもらえる。




 ―――ドスン


 


 ふと、地鳴りがした。まるで何かの足音のような……



 


 ―――ドスンドスン




 それも複数。



 

 ―――ドスンドスンッ!!


 


 音はだんだんと大きくなっていき、やがてその音は止まる。


 「「「……」」」


 俺のパーティーの皆が俺の後ろの方をみて呆然としていた。


 なにか俺の後ろにいるのだろうか……。後ろを振り返った先には――


 




 ―――――――――――――――鬼が、いた。


 まるで獲物を見つけたかのように笑みを浮かべている。


 それはどこからどうみても『オーガ』だった。


 「ッッ!!」


 その数、『三』


 オーガとは群れることはないモンスターとして有名なはずだ。


 仮に一体であったとしてもそれなりの大きさの村を滅ぼせるほどの力を持ったオーガ、それが三体もいる。


 ここは街からそれほど離れていないところだ。このままいけば、街へと襲いかかる可能性がある。


 「おい、お前らッッ!!俺が囮になるからギルドに報告しにいけッッ!!何が何でもこのことを伝えるんだッッ!!!」

 

 それなら今自分たちがしなければいけないことは、一刻も早くこのことを街に伝えることだ。


 「そ、そんなッ!?」


 「いいから行けぇぇえええッッ!!!!」


 オーガが振り下ろしてくる拳を避けながら叫ぶ。


 「し、死んだりしたら許さないから!!!」


 「すぐ戻ってくる!!」


 そう言って街の方へと走り出して行った。


 けど、皆も気づいているはずだ。俺とはもう会えないということに。


 「はぁ、くそったれが……」

 

 自分の運の無さにとことん嫌になる。


 ……俺が死んだ後、街は大丈夫だろうか。皆は生き残ってくれるだろうか……。


 確か街には有名な冒険者もいたはずだ。


 それに、最近噂になっている『漆黒の救世主』もいるだろう。


 今はそいつらに賭けるしかない、か……。


 俺は、再び振り下ろされてくる拳を見つめながら、そんなことを思った――。


 


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