脱いでもらった。
ブクマ評価感謝です。
今日はゴブリンキング討伐のクエストの出発日。
ギルドに一度集合ということだったが、少し早く来すぎてしまった。
「ネストさん、少しよろしいですか?」
いつもの治療している時みたくギルドの机に座っていると、アスハさんがやってきた。
「はい、なんですか?」
「実は……、今ギルドに普段都で仕事をしていらっしゃる国王様がお忍びで視察に来ておりましてですね……」
それって、一般人の俺に言っていい情報なのだろうか。
「お、王様ですか……。この前呼ばれたときに治療を断っちゃったんで今顔を合わせるのはまずいですよね……」
治療をすれば治ったかもしれないのに、それを俺はしなかった。回復魔法に目をつけられるのは嫌だったからだ。
それでも顔バレ予防をしてから城に忍びこんだんだけど、結局城の使用人しか治療できなかった。
恐らくだけど聖女様はもう……
「そんなことがあったんですか……。ちょうど今日から少しの間クエストでしたから良かったですね」
「それは本当に良かったです。次あった時に不敬罪とか言われても困るので……」
「ですね、まぁ今の国王様は聡明で寛大であると民衆からも高い支持を得ているので、恐らくは大丈夫でしょうけど」
それなら少しは安心、していいのか……?
「その件でお願いなんですけど、国王様に街を案内する役をアウラさんにやってもらえないかと」
確かにアウラは元王族だし、一応礼儀も弁えている、はずだ……
「えっと、それなら大丈夫です。あ、でも一応本人の確認も取ってからにしてやってください」
「はい、それはもちろんです」
それから少しした後、パーティーのメンバーが揃い、俺たちはアスハさんに見送られながら出発した。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「「「よろしくお願いします」」」
私は今日も、いつもと同じく冒険者教室に来ていた。これまでに色々なモンスターの特性や弱点などを教わり、今ではほとんど覚えている。
「……すみませんがアウラさんはこちらにいらっしゃいますか?」
名前を呼ばれたのでそちらに顔を向ける。
そこにはギルドの受付のアスハがいる。
「ここにいるわよ」
わざわざギルドから来たのだから何か用があるのだろう。
「少しお時間をいただけますか?ここではちょっと話しにくいので……」
「分かった。じゃあ行きましょう」
アスハには以前都に行く前に敬語は使わないでくださいと言われたので素で話している。
皆がいるところから離れて、人気が少ないところに向かう。
「それで、なにかあったの?わざわざ貴方がここまで来るなんて」
「実は今ギルドに国王様がお忍びで街の視察にいらっしゃってまして、その案内役を頼みたかったのですがどうですか?」
「……でも私一応奴隷だけど、大丈夫なの?確かに昔は王族だったけど」
「その件で国王様に確認を取ったところ別に構わない、とのことでしたので。ネストさんについては朝のうちに了承をいただきました。但し「本人の確認も取ってから」とおっしゃってましたけどね」
……ネストは今日の朝からクエストに出発すると言っていたから、朝のうちに確認したのだろう。
「……まぁそれなら別に構わないけど、今すぐ行ったほうがいいの?」
「その予定ですが、アウラさんには一度正装に着替えてもらいます。お忍びなのであまり派手なものではないですけど」
そして私はミストさんに一言伝えてから、部屋を出て行ったアスハを追いかけた。
アスハと共に正装に着替えた私は、国王様が待つ部屋の前までやって来た。
ドアをノックし中の反応を伺う。
「……うむ、中に入ってくれ」
恐らく国王様のであろう声が聞こえて少しの間を置きアスハに先導され部屋に入った。
「お待たせして申し訳ありません。この度の国王様の案内役の者を連れて参りました」
アスハがちらりと目を向けてきたのは、ここで自己紹介をしろということだろう。
「お初にお目に掛かります。今回の案内役を務めさせていただきますアウラです。奴隷という卑しい身分ではございますが、不便を感じさせないよう努めますのでどうぞお願い致します」
最近はあまり使っていない敬語を総動員して自己紹介を済ます。
「うむ、少しの間ではあるがよろしく頼む」
本来それは私のような奴隷に言う言葉じゃないはずなんだろうけど、この国王様は私の知っている国王とは違うようだ。
正装に着替える時にアスハに少し教えてもらったけど、確かにこれなら民衆に人気があるのも頷ける。
ギルドから出て行く時に、国王様は黒のマントを着ていたのだが、最近はネストのせいで『黒の救世主』とやらに街が敏感になっているから、と言って脱いでもらった。
心なし国王様の顔が暗くなった気がしたけど、気のせいよね……?