飛び降りればいい。
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『~黒マントについての報告書~
件の人物について、目撃情報有り
目撃された場所、街
呼称 漆黒の救世主
以上』
私は、たった今届けられた報告書を読んでいた。
そこには私が尊敬してやまない黒マント師匠についての情報が書かれていた。
「それにしてもさすがだ……。『漆黒の救世主』とは分かっておられる」
現在部屋には私一人だけ。この間は皆の前で取り乱してしまったが今回はそのようなことはしていない。
やはり国王というものは威厳ある態度が必要なのだ。
「『漆黒の救世主』殿は街で目撃されているのか。なら行かずにはいられまいなぁ!!」
しかし国王という立場上そう簡単に行けるわけでもない。だが『漆黒の救世主』をこの目で直接見なくて良いものだろうか、否ッ、いられるはずがないッ!!
街へ行く方法は限られているが、今回は『お忍びでの街への視察』とでもしておけばよい。
私はその日のうちに最小限の荷物と数人の護衛だけを連れて城を出発したのであった。
お忍びなので黒のマントを羽織りながら――
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「よし、やっと集まったな」
「そうっすねッ!!結構かかっちゃったっす」
俺たちは一日かけてようやくパーティーメンバーを見つけることが出来ていた。
聞くところによるとクエストは明日から二泊三日で行う予定らしい。それなら冒険者教室の訓練にも間に合うだろう。
「そういえば、ずっと一緒にいたのにまだ自己紹介がまだっすね」
確かに一緒にメンバー探しをしていたにも関わらず誰の名前も知らなかった。
「じゃあまずは俺からっす。俺の名前はヴァイスっていうっすよぉ」
「えっと俺はアネスト。大体の人にはネストって呼ばれてる」
残りは先ほど勧誘に成功した二人。一人は大きな盾、もう一人は杖を所持している。
「おう、俺はサイアンってもんだ、装備からわかるかもしれんが盾役を普段している。ちなみにこっちは弟だ」
そういって傍らの一人を前に出す。
「えっと、僕はゲイルです。『風魔法』を使えます」
「……すまんが『風魔法』ってのは?」
俺の言葉になんでそんなことも知らないの!?とこちらに目を向けてくる三人。仕方ないだろ、俺この前まで村にいたんだから。
「『風魔法』っていうのは簡単に言うと『風』を操ることができる魔法です。風を纏めてあげればカマイタチのように物を切ることも可能です」
「も、もしかして空も飛べるのか!?」
「……これまでにも確かに、『風魔法』で空を飛ぼうとした人は何人も居ましたが成功した、というのは聞いたことがないですね」
それは残念。一度でいいから空から街とかを見下ろしてみたかったんだけどなぁ……。
「あ、でも知性のある古龍が、恩人である冒険者を背に乗せて空を飛び回ったという話なら聞いたことがありますよ?」
「いやいやゲイルっち。そんな簡単に古龍に恩は売れないっすよ……」
一瞬だけ垣間見えた希望だったが、その可能性も限りなく低いらしい。
「まぁ、ちょっと気になっただけだからさ」
でも死ぬまでには絶対空は飛びたい。最悪回復魔法をかけながら高いところから飛び降りればいい。
…………怖いから今はまだやらないけどな?
それから四人で会話を楽しんだあと、俺たちは二泊三日の時に必要になりそうなモノの買い出しに向かった。
話している時に分かったのだが、どうやらサイアンとゲイルの兄弟はヴァイスと同じくここの街には最近来たようで俺が店の案内をすることになった。
「まず何が必要だと思う?」
「うーん、やっぱ武器とか防具とかじゃないっすか?見た感じだとネストさんナイフしか持ってないですよね?」
「あぁ、これが一番使い慣れてるからな」
剣とかを使ったのも数回しかない。木の棒もたまに遊びで使っているくらいだ。
「でもやっぱ念の為に一本くらいはちゃんとした剣も持ってた方がいいっすよ?」
「そうかなぁ……。じゃあ最初は武器屋でいいか」
武器屋に行った俺たちは、少し時間がかかったものの少し軽めの初心者用の剣を買った。
「やっぱ食糧も必要っすね」
「長持ちする食糧といったらやっぱ干し肉とかですよね?」
「おう、俺は干し肉好きだからたくさん買うか!!」
俺たちが次に向かったのは食糧品の店。
「あらあら、ネストちゃんじゃないのぉ!!久しぶりね」
普段からよく来ているだけでなく家事で火傷した時とかも治療したりするときに顔を合わせているので店の奥様とはすでに顔なじみだ。
「今日はアウラちゃんたちと一緒じゃないのねぇ」
「はい、今は冒険者の教室に行ってるので別行動です。今日はちょっとクエストで二泊三日なので保存のきく食糧品を買いに来たんですけど、オススメとかありますか?」
俺たちのやり取りを後ろの三人が珍しそうに見ている気がする。
「んーとねぇ、これでしょぉ?それにこれもぉ、あとこれかしら」
そう言ってどんどん店にある台の上に品物を並べていく奥様。
「あ、今回はパーティーで行くんで四人分でお願いします」
「あらそうなの?じゃあもっといるわねぇ」
結局、台が一杯になるくらいまで品物は置き続けられた。まぁ二泊三日で男四人分ならこれくらいが妥当なのかもしれない。
「えっと、じゃあこれ買います」
「いいよぉ、5000エンねぇ」
明らかに安い気がするけど、そこはサービスしてくれているんだろう。
「いつもありがとうございます。怪我した時とかは言ってくださいね?」
……買った食糧は荷物になるので後で取りに来るまで置いてくれることになった。
そのことにも三人は驚いてたけどな。