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聖女の回復魔法がどう見ても俺の劣化版な件について。  作者: きなこ軍曹/半透めい
第一章 聖女の回復魔法がどう見ても俺の劣化版な件について。
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黒マントだぞ!?正体不明だぞ!?

ブクマ評価感謝です。

 「そこの人ぉ、俺とパーティー組まないっすか?」


 「……え、俺?」


 独りでのゴブリン退治を始めた翌日、俺はちょっと軽そうな男にパーティーに誘われていた。


 「実は俺、ゴブリンキングの討伐クエストを受けたんすけど、一緒に行くはずだった奴がいきなりいなくなっちゃってっすねぇ……。そこに大量にゴブリンの耳を持ってきたアンタがやってきた、というわけ


っす。しかも俺この街に来たばっかで道とかもよくわからないんすよ」


 「あぁ、俺で良かったらいいよ」


 どうせ冒険者教室のやつらは俺とは組まないだろうし……。


 「おっ、ホントっすか!?いやぁ助かりましたぁ。ゴブリンキングって新人だけじゃつらいって聞いてたんで助かるっす!」


 「俺も昨日登録したばかりの新人なんだけど……」

 

 「…………え、でも昨日ゴブリンをたくさん倒してきてたっすよね?」


 「あぁ、昨日登録してすぐに倒しに行ったから」


 「えぇ……」


 その声は明らかに落胆しているようだった。


 「……なんか、ごめんな?」


 それならこのパーティの話も無くなるか。せっかく初めてパーティーでクエストに行けると思ったのに……。


 「じゃあ後二、三人必要っすね」


 「……もしかしなくてもパーティーの話って続いてるのか?」


 俺がまたゴブリンのクエストを受けようかなと思っていると、男がさも当然というふうに言ってきた。


 「えっと、大丈夫だったら手伝ってもらいたいっすね」


 そういえば、この街にも来たばかりだって言っていたし、同じ新人同士仲良くやっていきたい。


 「こっちは大丈夫だ、じゃああと少し人を探しに行くか」


 「っすね!!」


 俺たちは残りのパーティーメンバー探しを開始した。







――――――――――――――――――――――――――――――――



 



 「はぁ、どこかに娘たちを治せる者をいないものか…………」


 優秀な回復魔法使いという者たちを呼んでから数日、私は国王としての仕事を続けていた。


 結局その者たちに娘たちを治療することは叶わず、今現在も部下のものに別の回復魔法使いを探しに行ってもらっている。


 しかし、娘に治療できなかった病気を他の者が治療できるとも思えない。


 重たくなった手にペンを握り今日も仕事をする。


 


 


 コンコン





 

 ふと、部屋の扉が叩かれる。


 「……誰だ」

 

 夜遅くなったこの時間に来るものに対し不審に思ったが扉の向こうに声をかける。


 もしかしたら優秀な回復魔法使いが見つかったのかもしれない。


 不安と期待をたたえる私は相手の反応を待つ。








 「――――――あなた」







 「――――――――――――――――は?」


 今のは、誰の声、だった?


 長年に渡って私のとなりで話しかけてきた。そう、今の声は――







 「――――――お父様」





 

 待て、これは幻聴ではないのか?


 まさか、これも聞き覚えのある。この声も――――――――――――――――





 

 椅子から立ち上がり震える手で扉を開ける。


 「あぁぁああああああッッッ!!!」


 ずっと悩んでいた。もしかしたらこのまま二人共死んでしまうのではないかと。


 


 

 今、私の前に居たのは最愛の、妻と娘だった――。


 




 「ど、どうしたんだ!?病気は大丈夫なのか!?」


 どうみても二人の顔色はよく健康そのものだが、それでも聞かずにはいられない。


 「ええ、大丈夫よあなた」


 「はい、このとおり病気も治りました」


 「それは良かったッッ!!本ッ当に良かったッッ!!」


 視界がぼやける。


 こんな姿、部下に見せることは出来ないが今日くらい、否、今くらいは許して欲しい。


 私は二人を抱き寄せ大声で泣き叫び続けた――


 私の声に警備の者たちが何事かとやって来た。


 そこで私たちの姿を見ると、娘たちの回復を察したのか皆もまた一緒に泣き叫んだ。








 しばらくしてようやく落ち着くことが出来た。


 今は警備の者たちを持ち場に帰して部屋には私と妻と娘の三人だけが残った。


 「そ、それで、どうして病気が治ったのだ?自然に治ったのか?」


 先ほど醜態をさらしてしまった手前、どうにも恥ずかしい。


 「いえ、自然に治ったわけではありません」


 「それでは、どのように治ったのだ?」


 「『回復魔法』です」


 「……それは、自分のか?」


 私の知る一番の回復魔法使いの娘が治したのであれば納得できる。


 「いえ、私ではありません」


 「では一体誰が治したのだ?私が呼んだ回復魔法使いは、皆全て帰ってしまったぞ?」


 一人だけ少し残っていた気がするが、その者も最後には帰ってしまったはずだ。


 「この前、城に賊が侵入したようですね」


 「あ、あぁ確かに侵入されたな。なんでも腕を切る幻術を見せてきて捕まえることまではできなかったのだが」


 「恐らく、その人に治療していただきました」


 「…………いや、待て。それだと数日前には治っていたことになるのだが」


 賊に侵入されたという報告書が来たのは数日前だったはずだ。


 「はい、そうなりますね。しかし再発の可能性が皆無とは言い切れなかったので数日の間部屋で過ごしておりました。その結果、完治したということが分かりましたのでこちらに参ったのです」


 「うむ、そういうことなら仕方ない。では、その治療したものは?」


 「私たちを治療したあとすぐに城を出て行ってしまわれたようです」


 「しかもこの子ったらイヤリングの一つをその人にあげちゃったみたいなのよね」


 娘の話に被せて妻がそう言ってくる。


 娘が持っているイヤリングといえば、結婚をする際に渡すものだろう。


 「な、なんだと!?いや、まぁ治療してくれたものにはそういう褒美もどうかと思っていたのだが……。いや、本人の意思を確認してだぞ!?」


 勝手に結婚の話をしていた私に二人がジト目を向けてきていたので慌てて弁解する。


 「それがね、この子ちゃんとイヤリングの意味を分かってなかったみたいで、治療してくれた人に『再会のために』って渡したらしいのよ」


 「……」


 恥ずかしそうに下を向いている娘に対してそれ以上の言葉は言えなかった。おそらくこれまでに妻にもたくさん笑われたりしたのだろう。


 「……まぁそれは良い。最悪の場合は別の物を用意するしかないか」


 代々王家に伝わってきたものだが、それでも娘の相手は慎重に選びたい。


 「そういえば、治療した者は誰だったのだ?」


 二人のことで一つも礼をしない訳にはいかない。


 「……分かりません」


 しかし、娘は予想外のことを言ってきた。おそらく口止めされたのだろう。


 「別に隠さなくてもよいぞ?城に侵入したことはお前たちのことを考えれば逆に褒めたいくらいだ。自らの身を危険に晒してまで治療してくれたのだから」


 「いえ、そうではないんです。名前も言わずにすぐに帰ってしまったのです」


 これは驚きだ。これでは礼をすることも出来ない。


 「容姿はどのようであった?それで皆に探させてみよう」


 ギルドにでも調査依頼をすればいいだろう。すぐにとはいかないだろうが、いずれは見つかるはずだ。


 「それが、黒のマントでフードも被っていたので顔も分かりませんでした。声は男性のものでしたけど……」


 「な、な、なんだと…………」


 「お、お父様?」


 く、黒のマントで正体を隠して、王女を救った、だと…………?


 そ、そんなの――――――――――――――――


 


 


 「格好良いぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいッッッッ!!!」


 「キャッ!」


 なんか前で妻たちが驚いているがそんなこと知らん!!


 「黒マントぉぉぉぉぉおおおおおおおおッッッ完ッ璧だぁぁぁあああああああッッ!!」


 そいつは天才だッ!!男のロマンってもんを完璧に理解してる!!!


 「あぁああッッ!!一度見てみたいぃぃいい!!会って弟子入りしたいぃぃッ!!」


 「お、落ち着いてくださいお父様」


 「これが落ち着いていられるか!!黒マントだぞ!?正体不明だぞ!?こうしちゃおれん!!すぐに部下にその黒マントの情報を集めさせなければッッ!!」


 私の声で都合よく警備の者たちが再びやって来た。


 「国王様!!どうなされましたか!?」


 「皆の者!!今すぐ『黒マントの男』を調べよ!!しかし決して正体までは探ろうとはするな!!どこにいるかなどの情報だけでよい!!」


 「は、はい!!分かりました!!」


 そう言い残してすぐに仕事に取り掛からせる。


 ……くそぉ!!もっと早くこのことを知っておれば…………


 報告書にはなにも書いてなかったから気付けなかった!!誰だこの報告書を書いたやつ!!今すぐ降格だぁああああッッ!!!


 

 

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