アスハのお陰
アウラに手を引かれながら街をぶらつく俺は今、クレープ屋の前に連れてこられていた。
「苺とバナナを一つずつお願い!」
元気のいい声で注文を済ませたアウラは、店主にサービスしてもらいながらクレープを二つ受け取る。
その内、苺の方を俺にくれると、気分良さげに鼻歌を歌いながら再び手を引いていく。
因みに、アスハさん達と鉢合わせたお店でも飲み物しか頼めなかったが、店を出てからも何も食べていないので昼食はまだだ。
個人的にはもう少しボリュームのあるものを食べたい気がしないでもないが、今はアウラの元気な姿にもう少し付き合ってみるのも悪くないかもしれない。
そこでふと一つ気になったことがあった。
ご機嫌な様子のアウラにこれを聞いても大丈夫か悩みどころではあるが、好奇心の方が勝った。
「さっきはアウラが二人に食ってかかった時はどうしようかと思ったぞ」
「あ、あの時はなんというか……。ちょっと熱くなっちゃったのよ」
そこそこ時間が経って頭が冷えたのか、アウラはバツが悪そうに言う。
「それにしたって、アスハさんとの論争はなかなかのものだったと思うが?」
「そ、それは……」
てっきり俺は、アウラたちの仲はそこまで悪くない、むしろ良好とさえ思っていた。
だからさっきのやり取りを見て、その認識は間違っていたのかもしれないと思い始めたところだ。
もしかして俺の知らぬ間に二人で喧嘩でもしていたのだろうか。
俺がそんなことを思っていると、アウラは何やら目を逸らしながら、小さな声でぼそぼそと言う。
「………………から」
「なんだって?」
「……ネストがまた回復魔法を使えるようになったから」
「俺が回復魔法を使えるようになったのが問題なのか?」
俺の言葉にアウラは「違うっ」と首を左右に振る。
「……ネストが回復魔法をまた使えるようになったのは、アスハのお陰だから」
気まずそうに話すアウラだったが、そこまで言われても俺にはまだアウラの意図を把握しきれていなかった。
「回復魔法をまた使えるようになったきっかけが、私じゃなかったから」
「っ!」
その言葉に、俺はようやくアウラの言わんとすることが理解できた。
どうやらアウラは、俺がアスハのために回復魔法を使えるようになったという点に対して思うところがあるらしい。
「あ、あくまで素直に喜べないっていうだけで、アスハが助からなかった方が良かったなんてことは微塵も思ってないから勘違いしないでねっ!?」
慌てて弁解するアウラだが、そんなことはアウラの優しい性格を知っていれば言われずとも分かる。
それはきっと、ちょっとした嫉妬心のようなものなのだろう。
もし逆の立場だったら、俺だってそう感じていたかもしれない。
気まずそうに、それでいて少し拗ねたように目を逸らすアウラに、俺は思わずその手を強く握りしめた。
その変化は当然アウラもすぐに分かったのか、「……ネスト?」と伏し目がちに見上げてくる。
「俺の回復魔法が戻ったのは、大事な人を守りたいって強く思ったからだ」
あの時はアスハさんが酷い怪我をしていて、回復魔法が使えなければ助からないという状況だった。
だから俺は心の底から願い、その結果、再び回復魔法が使えるようになった。
じゃあ、アウラだったら?
二人の内、どちらの方が大事か比べることなんて出来ない。
だからこそ、俺は断言できる。
「もしあの時怪我していたのがアウラだったとしても、俺は絶対に回復魔法を使えるようになってたよ」
「っ!」
俺の言葉にハッと顔を上げるアウラの頭を撫でる。
いつもはリリィにしてあげるようなことだが、今日は特別だ。
「…………このクレープ、ちょっと甘すぎないかしら」
そんなアウラの言葉通り、一口食べたクレープはさっきよりも少しだけ甘く感じた。
新作投稿しました!この作品と同じで回復術士ものなので、もしよろしければご一読ください!
以下、タイトルとあらすじです!(タイトルとあらすじ変更しました)
『聖者の行進~俺に治せないものはない。ただし、患者は美人に限る~』(画面下部の青字タイトルから作品ページに飛べます!)
ある日、全回復術士の99%を輩出する国で事件が起きた。歴史上最も優れた回復術士である『聖者』が行方を晦ましたのだ。誰かに連れ去られたのか、もしくは他国の陰謀か。様々な憶測が飛び交う中で、懸命な捜索もむなしく、その行方は分からなかった。それからしばらくして、とある国のとある女学園で働く一人の回復術士の噂が流れてきた。何でもその男は治療と称してのセクハラ治療を繰り返し、生徒たちの多大な反感を買っているらしい。しかし、回復魔法の腕だけは確からしく、本人曰く「俺に治せないものはない」とのこと。果たして何か関係があるのだろうか……?
※作品URL【https://ncode.syosetu.com/n0263gd/】