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気まずい


「え、えっと……、もしかしなくてもあたしって邪魔だよね……?」


 そう言うのはアスハさんの同僚のフィアさん。


 どうやら今日はアスハさんと一緒に色々と街を周っていたらしい。


 それでちょうど疲れたタイミングで近くにこの店があったとか。


 一体どういう確率を乗り越えれば、こんな偶然が起こるんだと思わず頭を抱えたくなる。


「大丈夫よ。別に私たちだってそう長くいるわけじゃないから」


 そしてそんなフィアさんに心配するなというのは、俺の隣に座っているアウラだ。


 因みに俺たちが今座っているのは四人用のテーブルで、俺の真向かいにはアスハさんが普段の落ち着いた表情で座っている。


 アウラの言葉にフィアさんは苦笑いを浮かべる。


 きっとフィアさんが言いたかったのはそういうことではないのだろう。


 この場の気まずい雰囲気をひしひしと感じているが故だろう。


 俺だってそれは感じているし、出来ることならこの場を立ち去りたい。


 しかし既に同じテーブルに座ってしまった以上、もはや立ち上がることは難しい。


 昼食を食べようと思ってこの喫茶店に入ったのだが、食欲ももうほとんどなく、結局飲み物しか頼まなかった。


 アスハさんとフィアさんは既に頼んでいたらしいが、アウラは俺に気を遣ってか同じように飲み物を注文するに留まった。


「…………」


 テーブルが無言で包まれる。


 それなりにお洒落な喫茶店なのもあって、店内自体もそれほど騒がしくない。


 しかし今日ほど騒がしい定食屋が恋しく思ったのは初めてだ。


「そういえばネストさんはあれからどうですか? まさか以前みたいなことはしていませんよね?」


「え、えっと……」


 ふと思い出したようにアスハさんが聞いてくるが、俺は思わず言葉に詰まる。


 恐らくアスハさんが聞いてきているのは俺の回復魔法のことについてだろう。


 そして俺はアスハさんと以前、とある約束をした。


 それは自分を傷つけない、というもの。


 これだけでは一体何を当たり前のことを言っているんだと思われるかもしれないが、こと俺に関して言えばその限りではない。


 というのも俺は回復魔法の練習をする時に、基本的に自分のことを傷つける習慣がある。


 もちろんそれが一般的な回復魔法の練習とは異なることも分かっている。


 だが治療してもらいにくる怪我人たちの数には限りがあるし、満足に回復魔法の練習をするには足りないのだ。


 とはいえ痛覚が戻ってきた以上、以前のように腕を切り落としたりなんてことはさすがにしていない。


 ちょっと指先をナイフで切って、それを治療するという感じで毎日練習している。


 だがあくまでそれは言い訳に過ぎない。


 案の定、俺が相変わらずの練習をしていると察したアスハさんは冷たい視線を向けてくる。


「ん、何の話?」


 そこで事情を知らないフィアさんが不思議そうな顔をしながら聞いてくる。


「いや、実は俺、回復魔法を使えるんですけど、その練習のために自分でちょっと傷をつけてそれを治療する、みたいなことをやってるんですよ。でもこの前、それをアスハさんに怒られちゃって」


 もちろん詳しい話は出来ないが、これくらいなら言っても大丈夫だろう。


 回復魔法を使える人は多くはないが、いないというわけでもないのだし。


「え、回復魔法の練習ってそんなことするの!?」


 しかし予想外だったのか、フィアさんが驚く。


 そんなフィアさんに俺は首を横に振りながら答える。


「いや、普通はこんなことはしないよ。ちゃんと怪我人を治療して、それが回復魔法の練習にも繋がる……みたいな感じじゃないかな?」


 俺も独学で回復魔法を覚えたので、詳しいことは分からないが恐らくはそんな感じだろう。


 自分でも今思うと、どうしてそんな簡単に腕や足を切っていたのか謎だ。


「そ、そっか。それなら良かったけど。もし回復魔法使う人がみんなそんな風に練習してたら、ちょっと見る目変わったかも……」


 それは暗に俺に対しては見る目が変わったと言われているような気もするが、まああまり気にしないでおこう。


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