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バレンタインデー

バレンタインなので、本編とは関係ありませんが投稿してみました。


 バレンタインに告白したら、恋が実る。


 どうやらそんな噂が街中で広がっているらしい。


 そもそも俺からしたらバレンタインとは? みたいなレベルなのだが女の子たちが盛り上がっているのに水を差すわけにはいかない。


 こういうイベントごとに男の子は関係ない。


 女の子が主役なのだ。


 というわけで今日は家に一人だ。


 アウラもいなければリリィもトルエもいない。


 うーん、どうしたものか。


 とりあえず何か暇つぶしをと思ったけれど、この家にそんな趣味のいいものはない。


「……料理でもするか」


 ちょうど今は三時のおやつ頃だ。


 冷蔵庫を覗けば幸い色々と材料もある。


 上手くできたら帰ってきた皆にも食わせてあげればなどと企みながら、俺は早速準備に取り掛かった。




「皆やけに遅いな」


 三時のおやつはとっくに作り終えた。


 しかし結構な量を作ってしまったために、出来れば皆が帰って来てから食べたい。


 かなりな出来栄えになったと思うので、恐らくアウラたちも喜んでくれることだろう。


 その時のことを考えると頬が緩む。


 俺は目の前に広がる自作のデザートを前に、皆を待ち続ける。


「ただいまー!」


 ちょうどそのタイミングで、玄関からリリィの声が聞こえてくる。


 どうやら帰ってきたらしい。


 俺は鼻歌を歌いながらリビングに向かってくる足音を聞いていた。


「おかえり」


 リビングの扉が開かれ、そこからリリィ、アウラ、トルエの順にリビングへ入って来る。


 それぞれの手には何やら小包のようなものが握られている。


「えっと、ネストごめんね。ちょっと色々あって遅くなっちゃっ……た?」


 アウラが一歩前に出て事情を説明しようとしていると、突然その言葉が聞こえなくなる。


 一体どうしたのだろうとアウラの顔を見てみると、アウラはリビングに置かれてあるテーブルへとその視線を向けたまま固まってしまっていた。


 正確にはテーブルに置かれているデザートに目を奪われていると言った方がいいかもしれない。


 因みに俺作だ。


「そ、それって何?」


「あ? 何って……デザートだけど?」


「チ、チョコよね?」


「まあそうなるのかな?」


 アウラの言う通り、俺は今回のデザートはチョコをベースにしてケーキを作っていた。


 我ながらかなりの完成度だと思う。


「…………」


 すると何を思ったのか突然アウラは無言のままリビングを出て行ってしまう。


 そしてその直後、アウラの部屋の方から勢いよく扉が閉まる音が聞こえてくる。


「え、え……?」


 あまりに突然のことに俺は思わず固まってしまう。


 一体どうしてアウラがあんなことになっているのか分からない。


「すごーい! これどうしたのー!?」


 リリィがそんな俺を知ってか知らずか、大きな声で聞いてくる。


 そうだ、俺はこういう反応を待っていたのだ。


 それなのにアウラはあんな反応で、俺が何かしたというのだろうか。


「これは俺が作ったんだよ、食べる?」


「うん!」


 とびきりの笑顔でリリィが頷く。


「ん、これおいしい!!」


 そして一口食べると、それ以上の笑顔を咲かせる。


 思わず俺まで釣られて笑顔を浮かべてしまいそうになるが、今はアウラの方が心配だ。


 だがこうなった理由が分からない以上、俺に何か出来るとも思えない。


「あ、そういえばネストー」


「ん、どうした?」


 その時、突然リリィが思い出したように口を開く。


「これ今日つくったのー」


 そう言ってリリィは帰ってきた時から持っていた小包のようなものを手渡してみる。


「えっとこれは……チョコ?」


 その小包を開けてみると、そこには不格好ながらチョコと言えなくもない代物が入っていた。


「リリィがつくったの! ネストにたべてもらいたくて!」


「お、おぉ! ありがとう!」


 まさかリリィが俺なんかにチョコを作って来る日が来ようとは思わなかった。


 しかし嬉しくないわけがない。


 これは後でおいしくいただこう。


「ご、ご主人様、僕のも貰ってくれませんか……?」


 これまで黙っていたトルエも照れながら小包を渡してくる。


「もちろん、ありがたくいただくよ」


 トルエの殺人料理は俺も良く知っているが、恐らく俺のために頑張って作ってくれたのだと考えると嬉しくないわけがない。


 俺は若干緊張しながらも、トルエからチョコの入っていた小包を受け取る。


「えっと……」


 ただどうしてもやっぱりアウラが気になって仕方がない。


 俺は先ほどまでのアウラの様子をもう一度思い出す。


「そういえば……」


 確かアウラもリリィたちと同じように小包を持っていた。


 もしあの中にアウラが作ったチョコが入っていたとしたら。


 俺が変にこだわって作ったチョコケーキを見てどう思っただろうか。


 リリィやトルエはまだ子供だから分からないかもしれないが、劣等感を覚えてしまっても仕方がないような気がする。


 逆の立場だったら、恐らく俺だって同じことになっていたはずだ。


 俺は自分の愚かな行動に一度大きくため息を吐くと、椅子から立ち上がる。


 これから俺はアウラの部屋に行かなければならない。


 そしてちゃんとあのチョコケーキのことをを説明して、アウラのチョコを貰おう。


 それで今日のバレンタインは終わりだ。

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