窓が割れた
お待たせしましたああああ!!
展開が進み始めます!
「……ふぅ、今のところ怪しいやつはどこにもいなさそうだな」
俺は城の中を歩き回って、とりあえずの確認をして回っている。
その結果、少なくとも今は誰かが侵入している様子も痕跡もなかった。
というのも、国王様たちは今、三人だけで会談をしているのだ。
他の誰にも知られないよう極秘で行われているようで、その三人は今この城の中にはいない。
どこか別のところで会談を進めているらしい。
誰か護衛をつけなくて大丈夫かと思うかもしれないが、それは国王様から大丈夫だと言われている。
何でも獣王様や魔王様たちは皆かなり腕も立つらしいので、変についてこられても迷惑という感じだった。
そういうわけで会談自体は恐らく大丈夫だろうとは思うが、その三人がいないということはつまり今度は城の中の守りが薄くなるということでもある。
しかもこういう時に限って、獣人や魔族たちの腕の立つ人たちが都に観光に行ってしまった。
もちろん止めようとはしたが、会談が極秘である以上強く引き止めることは出来ず、結局今城の中にいるのは使用人たちを除いて、ルナやリリィ、グリムといった面子だけが残っている。
一応そこあたりの面々に関しては、ちゃんと一部屋に集まってもらっておいたので、何かあったらすぐに駆けつければ大丈夫だろう。
「あ、アスハさん! わざわざ来てもらってありがとうございます!」
「いえいえ、全然構いませんよ」
廊下を歩いていると、見知った顔を見つける。
それは国王様たち不在の件を知っている数少ない内の一人でもあるアスハさんだった。
以前、国王様はアスハさんに助けられたこともあり、会談のことを教えても構わないということだったので、護衛の一人としてやってきてもらったのだ。
「アスハさんは確か、こっちのギルドを手伝っているんでしたよね?」
「そうですね。街に比べて依頼の数も多いですし、大変ですよ」
「お疲れ様です」
アスハさんは普段は、例え仕事が大変でも涼しい顔をして片付けていくイメージがあったので、こんなことを言うのは少しだけ意外だった。
もちろんマイナス的な意味ではなく、アスハさんの新しい一面を見れて嬉しいという意味だ。
そんなアスハさんに労いの言葉をかけるが、アスハさんは少しだけ不満そう。
「ど、どうかしたんですか?」
「…………」
そして無言の圧力でこちらを見つめてくる。
これは一体どうするのが正解なのだろうか。
「……それだけですか?」
そんなことを考えていると、アスハさんは小さく呟く。
しかも少しだけ首を傾けていて、かつ上目遣い。
思わず唸ってしまうのを耐えながら、俺はどうするか考える。
「……え、えっと」
そこで偶然、目の前にあるアスハさんの頭が、いつも同じようにそこにあるリリィの頭と重なる。
それが偶然かどうかは分からないけれど、少しでもそう思ったのなら何かの縁かもしれない。
もしかしたら怒られるかもしれないが、普段リリィにやっていることをすることにした。
俺はゆっくり手を伸ばし、アスハさんの柔らかい髪の上に触れる。
滑らかで、繊細で、いつまででも触れていたいその髪をゆっくりと流れに沿うように撫でる。
髪を乱さぬように注意を払いながら撫でると、アスハさんは少しだけ身をよじる。
「っ」
俺はそんな反応に慌てて手を離す。
確かにアスハさんに対して頭を撫でるというのは無かったかもしれない。
「…………」
アスハさんも無言のままで顔を俯けているし、次からはしないようにしよう。
「あ、そろそろ皆のいるところに戻りましょうか」
そう決意すると同時に、この変な空気を紛らわせようと俺は話題を変えた。
実際これ以上ルナたちだけにしておくのはあまりよろしくない。
グリムは多少なら腕も立つようだが、もしヴァイスがやってきたりしたらとてもじゃないが太刀打ち出来ないだろう。
「えっと、こっちです」
俺は未だに若干緊張しながら、俯くアスハさんを案内した。
「……あ、あれ?」
皆がいるはずの部屋に着くと、何故か部屋の中には誰もいなかった。
何かあったのかと一瞬慌てるが、部屋の中は特に荒れた様子もなく何時もどおりだ。
つまり皆でどこかに行っているのかもしれない。
確かにそちらの方がバラバラに行動するよりは良いだろう。
だがせめて俺が帰ってくるまでは待って欲しかったと言わざるを得ない。
今だって何時誰が城に侵入してくるか分からないのだ。
探しに行って変にすれ違うよりかは俺も大人しくここで待っていたほうが良いだろうが、それでも心配せずにはいられない。
まぁちゃんと見回ったし、そんなタイミングよく誰かが侵入してくるとも思えないが……。
そんなことよりも今はこの状況である。
この気まずい空気をどうにかしようとここまで急いだのに、誰もいないのでは意味がない。
アスハさんは相変わらずだし、これは本当どうしたものか……。
そんなことを考えている時だった。
「――――――――ッ」
どこか遠くで、窓が割れた音が聞こえたのは。