すんごい
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「おいお前、今暇かっ?」
「ん、特に用事とかはないけどどうしたんだ?」
俺は少しだけ久しぶりに獣人の護衛としてグリムのところへやって来ていた。
俺たちは今中庭でくつろいでいたのだが、突然グリムが声をかけてくる。
しかも何やら興奮気味だ。
「ちょっとすんごいの思いついたからそれを試そうと思ったんだ! 付き合ってくれ!」
「はぁ?」
そう言いながら木剣を渡してくるグリム。
一体何を考えているのだろう。
しかし本当に特にすることもなく、ちょうど暇していたところだったので、案外タイミングは良かったかもしれない。
俺は暇つぶしに付き合ってやることにする。
「それで凄いのってなんだ?」
「凄いんじゃない! すんごいんだ!!」
「あ、はい」
本当に意味の分からないことを言っているが、まぁそこは触れないで置いてあげよう。
大人な対応ってやつかな?
「じゃあ構えておいてくれ」
「了解」
俺はグリムの指示通り、いつ何をされても対応できるように構えておく。
「…………」
グリムはいつもの雰囲気とは違って真剣そのもの。
そして腰を低く卸している。
これは本当にすんごいのが来てしまいそうだ。
「……はぁっ!!」
すると次の瞬間グリムが大きく跳躍する。
ほとんど天井すれすれまで跳んでいるんじゃないだろうか。
「ジャイアントスマァァァァァァァッッッッシュううううううううッッ!!!!」
「!!??」
グリムは大きく何かを叫びながら剣を振り下ろしてくる。
思わず反応してしまいそうになるが俺が何かを切ろうとしたらこんな木剣じゃなくても木の棒で十分にグリムを切ってしまいそうだ。
かといってそのまま受けてしまえばこちらの木剣が折れてしまうだろうし……。
結局俺は普通に避けることにした。
というのも正直それが一番楽で簡単だった。
グリムの今の攻撃は威力こそ凄そうではあったものの、大振り過ぎてもはや当たる方が難しいのではないだろうか。
「なぁぁぁぁぁぁ!!??」
避けられることを想定していなかったのかグリムはその勢いのまま地面に激突する。
中庭には大きな土埃が起こり、視界が悪くなる。
もしかしたらこのまま連続攻撃が来るかもしれないと念のために用心しながら土埃が収まるのを待つ。
しかし結局その後グリムは襲い掛かってこない。
そしてそのまま土埃が収まったかと思うと、グリムは地面に座っている。
確かにすんごいと思っていた技があんな簡単に避けられたら、あぁなってしまうのも無理はない。
今はそってしておいたほうが良いだろう。
俺はグリムを一人にするために中庭から出ようとする。
「お、おい。ちょっと待ってくれ」
「……?」
しかしグリムはそんな俺の気遣いを知ってか知らずか声をかけてくる。
振り返ってみるとグリムは以前地面に座り込んだままだ。
「どうしたんだよ」
俺は一向にこちらを向こうとしないグリムを不審に思い近寄ってみる。
「うわっ!?」
するとグリムは突然俺の腰辺りをがしっと掴んでくる。
もしかして罠だったのか!?
俺は咄嗟にグリムを突き飛ばそうとする。
「あ、あ、足挫いた」
「……は?」
「さっきので高く跳び過ぎた……」
「グリムお前、すんごいな」
俺はルナのところまでグリムを担いで行った。
「まったく! ネストさんは毎回毎回!」
「いやいや今回は俺のせいじゃないだろ!?」
理不尽に怒るルナに思わず反論する。
しかし今回そもそも俺は怪我していないし、グリムが怪我したのだって自分から阿呆なことをやらかしたからだ。
それを俺のせいと言われるのは納得いかない。
「ネストさんの方が年上なんですからちゃんと面倒見てあげるのが普通です!」
「ぐっ」
確かにそう言われればそうだ。
グリムが何をしようとしているのか最初に聞いておくべきだったかもしれない。
ルナの正論に俺はぐうの音もでない。
「この前だって怪我して帰って来たしっ、回復魔法使えないんですから危ないことはしないでくださいって言いましたよね!」
「そ、そうだったかな?」
あまりのルナの怒り具合に俺は目を逸らす。
確かにここ数日俺は回復魔法が使えないのによく怪我をしている。
前までは自分の回復魔法で治療できていたから特に気にしていなかったのだが、今でもその癖が出てしまっているのかもしれない。
「次怪我なんてしたら許しませんからね!」
ふんっと言いながらもグリムの治療を進めていくルナ。
魔族に対してはあまり効果のない回復魔法だが、どうやら獣人に対しては普通に効果を発揮するようだ。
しかしさすが聖女というべきか手際が良い。
もちろん回復魔法が使えていたころの俺に比べてしまえばそれまでだが、ルナの回復魔法もなかなかのものだ。
それに初めてルナの回復魔法を見たときに比べてもかなり成長しているような気もする。
「……」
ルナの回復魔法を目の当たりにしてグリムもぽかんと口を開けている。
「よし、終わりましたよ」
治療をしてくれたルナにお礼を言うと、また怒られ始めそうだったので早々にグリムを連れて中庭へと向かう。
グリムはよほどさっきの回復魔法に見とれてしまったのか、未だに口を開かない。
しかしようやく目が覚めたのか口を開く。
「さっきのお姉さん、胸すんごいおっきかったな」
「…………」
思わず拳骨したくなった俺を誰が責められるだろうか。