僕のどこが紳士的じゃないんだ!?
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「おう、帰ったぞ!」
獣王様は、獣人たち一行がいるはずの扉を、勢いよく開け放つ。
「獣王様! ご無事でしたか!」
「無事も何も、この国の王と会っていただけだ」
部屋の中に入ると、ぞろぞろと足音が響いてきて、焦ったような声が聞こえてくる。
身体の大きい獣王様がいるために、こちらからはまだ部屋の中を窺うことは出来ない。
ただ、それと同じように向こう側からもこちらを窺うことは出来ないだろう。
「あれほど護衛をつけてください、と言っておいたでしょうに……」
「まぁそう言うな。何かある訳でもあるまいし」
「むぅ、それは、まぁ、そうですが……」
恐らく獣王様の部下だろう人との会話を、俺とニアは部屋に少しだけ入ったところで黙って聞いている。
「お、そうだそうだ。皆に紹介しなければいけない者がいたんだった」
「ん、誰かいるのですか?」
「あぁ、この者たちだ」
獣王様はそう言うと、その大きな身体を少しだけ横にずらす。
「なっ!?」
俺たち、否、正確には俺を見た獣人たちは驚きの顔を浮かべている。
それも仕方ない。
獣王様直々に、人間を自分たちの空間に連れてきたのだ。
驚かない訳がない。
「……あ」
部屋の少し奥の方では、他の獣人たちとは違って明らかに嫌そうな顔を浮かべているグリムもいた。
しかし俺のすぐ隣にいるニアを見て、だらしのない顔を浮かべている。
「……あ、えっと、ネストって言います。今日からお世話になります」
獣王様からの目配せを受けた俺は、慌てて自己紹介を済ませる。
本当は護衛としてここにやってきたのだが、それは事前の話し合いで伏せることになっていたので、俺は適当にごまかす。
俺が護衛だということが周囲に知られれば、もっと別の優秀な人材を護衛につけろと色々言われる可能性もあったためだ。
「わ、私は、ニアって言います。よろしくお願いします」
俺の服の裾を掴みながら、ニアも簡単な自己紹介を済ませる。
「うむ、では皆もよろしく頼む!」
「御意に!」
俺たちに対して不審な目を向けていた獣人たちだったが、獣王様の一喝で、皆引き締まった表情を浮かべながら、大きな声でそう返事をしていた。
少なくともこれで俺が獣人に襲われたりなどという可能性はほとんど無くなってくれたことだろう。
「…………」
ただ一人、グリムだけはニアを見つめながら、未だにだらしのない顔を浮かべたままだった。
「何でお前がいるんだ!」
「そう言われてもなぁ……」
俺は今、グリムに呼び出されて中庭までやって来ていた。
因みに中庭には俺たち以外に人はおらず、グリムの声が嫌に響いている。
「……獣王様に連れてこられたんだから仕方ないだろ?」
本当はニアの主人ということが一番の理由なのだが、それは言うことは出来ない。
でなければニアが未だに奴隷という身分ということで、獣人たちに不快な思いをさせてしまうだろうからだ。
これも獣王様、エスイックと共に事前に話し合った結果だ。
「そんなの断ればいいだけだろう!?」
「断れるわけないだろう!?」
あまりの乱暴な意見に、俺は思わず大きな声をあげてしまう。
「なぁ、お前ってさ」
「なんだ?」
俺は、いい加減面倒くさくなって来たので、そろそろ話の核心をつきに行く事にした。
「ニアのことが好きなのか?」
「なっ!?」
「…………」
案の定と言うべきか、グリムはその顔一杯を赤く染める。
「……まぁそのことについて俺がとやかく言えるわけじゃないけどさ、好きになってもらいたいならせめてもっと紳士的なところを見せたほうがいいと思うぞ?」
ニアからしてみれば、グリムはただの乱暴者にしか見えないだろう。
それでは実るかもしれない片思いも、実るはずがない。
「ふん! 僕のどこが紳士的じゃないんだ?」
「…………はぁ」
あぁ、ダメだこれ。
俺はあまりのグリムの重症さに思わずため息を吐く。
本人にその自覚がないというなら、それを俺が何か出来るわけじゃない。
「む! なんだそのため息は!」
「…………はぁ」
あぁ、本当、これはどうしたらいいんだろう。
俺はグリムにバレないようにもう一度、小さくため息を吐いた。