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好きな女の子のことを諦めない

ブクマ評価感謝です。


 「いや! 私のご主人様はご主人様だけなの!」


 「なっ! 人間に支配されているお前を助けてやろうと言ってるのに!」


 「…………はぁ」


 俺は先程から目の前で繰り広げられている口論に、ため息を吐いた。


 どうしてこんなことになってしまったのか、それは少しだけ時間を遡る。





 「なぁ、ニア。中庭にでも行ってみないか?」


 「え、いいの!?」


 「あぁ」


 俺は今まで、ずっと部屋にいるように言われていたニアを部屋の外へと連れ出そうとしていた。


 本当は城の外へも連れて行ってやりたいというのが本音なのだが、今はこれくらいで我慢してもらおう。


 どうしてニアが部屋の外に出ていいようになったのか。


 それは獣王様を含む、獣人の一行たちが、この城に滞在しているからだ。


 それならばもし俺の近くに獣人であるニアがいたとしても、少し仲がいいなぁくらいは思われるかもしれないが、それ以上変に踏み込まれたりすることもないだろう。


 「よし、じゃあ行くか」


 「うん!」


 俺はニアの手を引きながら、いつもの部屋をとびだした。






 「……うわ」


 俺は思わず、唸る。


 なぜなら今からニアと一緒に何かしようと思っていた中庭には、既に先客がいたからだ。


 それだけだったら俺だって別に気にしない。


 しかし、先客が先客だった。


 その先客とは、グリム。


 獣王様の、あのクソ生意気な息子である。


 「…………」


 これは、どうするべきだろうか。


 チラリと後ろを窺ってみても、ニアは目をキラキラと輝かせながら、久しぶりにちゃんと部屋を出れたことを喜んでいる。


 「…………」


 これは、言えない。


 やっぱり部屋に戻ろう、なんて、絶対に言えない。


 もしこの状態でそんな血も涙もないようなことを言えるものなら、是非とも俺の目の前に連れてきて欲しい。


 「……ご主人様? どうかしたの?」


 色々と考えていた俺を不審に思ったのか、ニアが声をかけてくる。


 「い、いやなんでもない」


 ここで、止まったままでいるのはまずい。


 ニアが何かマズイ事でもあったのかと察してしまうかもしれない。


 「…………」


 きっと、大丈夫だ。


 クソ生意気なグリムのことだし、わざわざ俺に声をかけてくるようなこともないだろう。


 「……じ、じゃあ、行こうか」


 「うん!」


 俺は、ニアの手を引きながら、中庭の中心部へと、向かった。




 「……ん、お前、そこの獣人はなんだ?」




 「…………はぁ」


 しかしやはりそう物事が上手くいく訳もなく、俺たちはすぐにグリムに捕まってしまった。


 恐らく、俺ひとりだけであれば絡まれることもなかったのだろうが、明らかに獣人であるニアが俺なんかと一緒にいたために、こうやって近寄ってきたのだろう。


 「こ、この子は、その、ニアっていって、一応俺の奴隷、だな」


 誤魔化さなくてはならないと思ってはいても、突然のことで焦ってしまい、ついつい言わなくていいことまでも言ってしまう。


 「なに? 奴隷、だと……っ!?」


 俺の言葉に、ニアの顔を覗き込むグリムだったが、突然何かに驚いたかのように、身体をビクッと跳ねさせる。


 「? どうかしたか?」


 俺はそんなグリムに声をかける。


 「……その獣人、僕が国に連れて帰る」


 「…………は?」


 すると、グリムは突然何の前触れもなくそんなことを口走った。


 当然初めて聞かされる爆弾発言に、俺、そして当事者であるニアでさえも、驚きを隠せない。


 「いやいやいや、さすがにそれは」


 俺は首を横に振りながら、グリムの言葉を否定する。


 「お前の意思など知らん。ほら、そこの女、行くぞ」





 「いや!」





 中庭に、ニアの大きな声が響き渡った。


 俺を無視して、ニアの腕を掴み、そのまま自分のもとへ手繰り寄せようとしたグリムに、ニアが叫んだのだ。


 「な……」


 既にニアはグリムの手を振り払い、俺の背中の後ろに隠れている。


 「おいお前! 奴隷の身分から解放されるのだぞ!?」


 「いや! 私のご主人様はご主人様だけなの!」


 「なっ! 人間に支配されているお前を助けてやろうと言ってるのに!」


 俺の背中に隠れているニアの言葉を聞いて、グリムは怒り出す。


 「ま、まぁまぁ落ち着けよ」


 俺はそんなグリムを落ち着かせようと努力するが、やはりグリムの怒りは収まることを知らず、今にも無理やりニアを連れて帰るべく、ニアに飛びかかろうとしていた。




 「グリムー?」




 「……む」


 そんな時、中庭に誰の声か分からない初めての声が聞こえてきた。


 そちらの方を見てみると、獣人の一行の中の一人が、どうやらグリムを迎えにきたらしい。


 「……お前は、僕が連れて帰る」


 「……あぁ、なるほど」


 去り際に、そう言い残していくグリムの頬が、赤く染まっていた。


 もしかしなくても、グリムはニアに一目惚れでもしたのかもしれない。


 だからあそこまで頑なに、ニアを連れて行こうとしていたのだろう。


 「……はぁ」


 嫌なやつではあるものの、好きな女の子のことを諦めないグリムに、俺は思わず微笑んだ。


カクヨム様にて、

僕らの恋は、画面の中で

という作品を投稿させてもらっております。

ぜひ一読くださいm(_ _)m

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