あいつのこと、嫌い
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『国王様、獣人の他の方々をお連れいたしました』
「うむ、入れ」
先ほどと同じように扉の奥から聞こえてくる声に、エスイックは応える。
「失礼します」
そう言って部屋に入ってくるのは、先ほどとはまた別のメイドさん。
そしてそれに続くようにして、何人もの獣人一行が、部屋に続々と入ってくる。
さらに、部屋にある別の扉からは、俺たち人間側のお偉方が入ってきた。
よく見ると、お互いに屈強そうな男たちがついて来ているのは、きっとそれぞれの王の護衛の意味もあるのだろう。
俺は相変わらずエスイックの少し後ろで控えていた。
「今回こうやって集まってもらったのは、それぞれの顔合わせのためだ」
「人間と獣人たちが同盟を結ぶには、まず俺らがそういう関係にならねぇと意味がねぇ!」
それぞれの王が、それぞれの部下たちに声を大きくして説明している。
それに対して大体は首を頷け、二人の意見に同意しているようだ。
「……父上!」
これなら順調に進みそうだ、と思っていた矢先、獣人の一行の方から、少しだけ高い声が聞こえてきた。
見てみるとどうやら、獣人の一行の中でも、頭一つ分だけ小さな獣人の子供が獣王の方を見つめているのが分かった。
「……?」
どうして子供がこんなところにいるのか、と俺は首を傾げるが、今獣王様のことを父上と呼んだので、つまりこの子供がそうなのだろう。
曰く、クソ生意気な、獣王様の息子なんだろう。
獣王様の息子は、獣王様からの返事を聞いて発言を続けるようだ。
「どうして僕たち獣人が弱っちい人間なんかと同盟を結ばなくちゃいけないんですか?」
俺はそれを聞いて確信した。
こいつ、クソ生意気だ、と。
その発言によって、今まで穏やかに進んでいた話し合いの雰囲気が、固まる。
獣人側は、あぁやってしまった、みたいな顔を浮かべているし、人間側の方は、何を言われたのか分からないのか、呆然としていた。
中には、ポカンと口を開けている人までいる。
まぁ確かにそれも仕方ないだろう。
俺の場合は、獣王様やエスイックから、クソ生意気であることは事前に聞いていたので少なからず耐性がついていたんだろうけど、そんなことを露も知らない他の人たちに、今の状況を理解しろという方が酷というものだ。
「グリム! そういう発言は慎めと言っているだろう!」
獣王様は、自分の息子を叱りつける。
グリム、と呼ばれた獣王様の息子は、そう言われることは分かっていたのか、特に気にした様子もない。
「僕がいま何か変なこと言いましたか!? 百歩譲って、魔族と同盟を結ぶというのなら分かります! でも、こんな弱小種族と同盟を結んだところで何か利益が生まれるとは思いません!」
「あぁ? なんだってぇ?」
グリムのその爆弾発言に、人間側に居た血の気の早そうな一人の男が勢いよく立ち上がる。
止めなくちゃいけないところなんだろうけど、止めようとは思わない。
正直、事前情報がなければ、俺もこうなっていたはずだからだ。
「落ち着きなさい」
エスイックが、静止の声を、小さくあげる。
「わ、わかり、ました」
その声だけで、今にも食ってかかろうとしていたその男は、渋々と自分の席に戻る。
「グリム、お前も落ち着け」
それに続くようにして、獣王様は自分の息子を悟す。
「お前が言う魔族との同盟だって、人間と同盟を結ばない限りはありえないことなのだぞ。こういう言い方では、人間側に失礼だが」
「う……そう、かも、しれない、です」
「であればそう言った発言は以後、慎め」
「…………」
獣王様の言葉に対して、グリムは黙り込む。
肯定をしたわけではないが、さすがにしばらくはそういった発言もしなくなってくれることだろう。
少しだけ問題はあったが、それからはある程度円滑に双方の話は進んだ。
「はぁ……」
溜息をつく。
時間にしてみれば、そんなに長くないものではあったが、やはり緊張などもあってかなり疲れた。
俺は、廊下の壁にもたれかかる。
少しだけひんやりとした壁が、少しだけ火照った身体を冷やしてくれる。
「……む」
するとそこに、どういう偶然か、獣王様の息子グリムが通りかかった。
俺はどういう対応をとったらいいのか分からず、少しだけ慌てる。
「…………あほ、だな」
「っ!」
すれ違う時に、グリムから、そう言われた。
きっと慌てている俺の姿に対しての言葉だったのだろう。
「……あぁ」
俺は息を吐く。
今のことで一つだけ思うことがあった。
別に獣人が嫌いとかそういう訳じゃないけど、俺、あいつのこと、嫌いだ。
だって、クソ生意気なんだもの。
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