あえて聞かないよ
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「ふぅ」
俺は今、エスイックと共に大きな部屋で皆の到着を待っていた。
皆、とは言わずもがな、獣王様含む、獣人一行のことだ。
どうやらもう城には到着しているらしく、今はメイドさんがこの部屋まで案内している途中とのことだ。
そして俺がこんなところに居ていいのか、という話にはなるが、何故かエスイックに呼ばれたのだから仕方がない。
『国王様、お連れしました』
そんなことを考えていると扉の向こう側から、メイドさんのだろう声が聞こえてきた。
「案内して差し上げなさい」
エスイックは先ほどまで俺と雑談していた時とは打って変わって、威厳のある声を響かせる。
すると、ガチャリという鈍い音を立ててまずメイドさんが扉を持って固定する。
そして続いて部屋に入ってきたのは、見るからに巨躯の一人の獣人だけ。
「……?」
その姿を見た瞬間に、きっとこの人が獣王様なんだろうということは分かった。
しかしどうして、一人だけなのだろうか。
「では失礼します」
「…………?」
てっきり少しだけ遅れているのかもと思ったが、結局獣王様一人だけが部屋に入ってくるだけで、メイドさんはそのまま扉を閉めて、自分の仕事場に戻って行ってしまった。
「…………」
俺たちの間を沈黙が支配する。
これは一体どうしたらいいのだろうか。
「……ふっ」
「…………ははっ」
「……?」
俺が一人困惑していると、突然エスイックが笑い出す。
そしてそれに釣られるようにして、獣王様も笑い出す。
「ふっ……久しぶりだな」
「おぉエスイック!お前こそ久しぶりだなぁ!」
固まる俺を他所に、二人は楽しそうに話を進めている。
「……あ」
そういえば以前エスイックに教えてもらったことがある気がする。
エスイック、魔王様、そして獣王様で、昔に話したことがあるということを。
つまりこの二人は旧知の仲というわけだ。
「…………」
俺はエスイックより少しだけ退いた位置で、二人の会話を黙って聞いている。
二人共、それぞれの国の様子や自分の奥さんの話など、他にも色々と楽しそうに話している。
ここに魔王様が加われば、それこそ、人間と魔族と獣人が共存した未来そのものになるのかもしれない。
俺はそんな他愛ないことを考えて二人の会話を聞いていると、少しだけ胸の中が軽くなった気がした。
「……む、それでそこの者は?」
「おぉ、そうだ。紹介するのを忘れていた」
それからしばらく二人が話していると、突然俺の話題になった。
「こっちはネスト、と言ってな。戦争を止めた張本人だ」
「えっ!?」
俺はエスイックの言葉に、思わずその顔を見る。
まさかそのことを言うとは思わなかったからだ。
「ほぉー、この者が、か……」
「そうだ。『漆黒の救世主』様だ」
「おいっ!?」
そういえば戦争が終わったあたりから都とかでも噂になってたけど!
あえて聞かないようにしていたんだけど!
「ほぉ、それは凄いなぁ」
獣王様は、俺を値踏みするように顎に手をおきながら見つめてくる。
「まぁその戦争を止めるために、自分の力を犠牲にしてしまったのだが」
「…………」
エスイックの言うとおりだ。
今の俺には何の力もない。
強いて言えばただ色んな物を切れるということくらいだ。
「でも、ネストが居なければ、こうやって二人で会うことも出来なかったということは本当だ」
「そうだなぁ。何でも物凄いことがあったという報告書も、俺のところまで来ていたぞ。確か切れたり切ったりしたはずの腕や首が何事もなかったかのように、変わりない、らしいな」
「それは是非とも間近で見たかったのだがなぁ。さすがに戦場に赴くわけにも行かなかったのでな」
エスイックは物凄く残念そうに、大きなため息を吐く。
「エスイック、俺の紹介も頼む」
獣王様は自分を指差しながら、エスイックに催促する。
「おぉそうだったな。こっちはガルムといって、分かっていると思うが獣王だ。凄く腕っ節が強いから怒らせないようにな」
「がははっ、まぁ一対一の試合なら大好きだからな。その力とやらが戻ったた是非ともお相手願いたいものだなぁ」
「は、ははは」
俺は曖昧に笑いを返しておく。
さすがに獣王様というのは強いらしい。
確か、魔王様もかなり強いという覚えがあるが、どちらが強いのだろうか。
まぁここに魔王様がいる訳じゃないのでどうしようもないが。
「えっと、今頑張って力を戻そうとしてる、ネストです。よ、よろしくお願いします」
「おう、よろしく頼む!」
俺は、獣王様の差し出してきた手を握り返した。
「そういえば今、他の獣人の人達はどこに?」
「あぁ、まずはエスイックと積もる話もあったからな。別の部屋で待ってもらってる」
「あぁ、息子さんもですか?」
俺はエスイックから言われていたことを思い出しながら、ガルムさんに訊く。
「あぁ、そうだ」
エスイックにはクソ生意気というのを聞いていたが、実際のところはどうなのだろう。
さすがに親本人に聞くわけにもいかないだろう。
「あ、でも気をつけたほうがいいぞ。アイツ、人間に対しては本当クソ生意気だから」
「あ、はい」
どうやら、本当にクソ生意気らしい。
新作『僕らの恋は、画面の中で』はカクヨムに移行させていただきました。因みに毎日19時更新!
活動報告から作品ページに飛べるようにしてあるので、一読頂けたら幸いです。