手作りチョコ
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「……えっと、それは?」
「あぁ、何かチョコっていうやつをもらったんだよね」
「……っ」
俺はルナとの帰り道に、手にたくさん持っていた箱について聞かれていた。
「それにしても何でこんなに貰えたんだろうな?」
「……勘違いされたのでは?」
「勘違い?」
俺はそう言うルナに聞き返す。
勘違いとは一体何だろうか。
「えっと、ネストさんをどこかの貴族か何かだと思ってるんですよ多分」
「……あぁなるほど」
俺はそこでようやく納得することができた。
つまりルナが言いたいのは、俺が聖女であるルナや奴隷であるアウラたちを連れていたために、変な誤解を与えてしまったということだ。
聖女でもあるルナとあれだけ親しそうにしていれば、こんな風にチョコをたくさんもらうのも仕方ないのかもしれない。
ん、仕方、ないのか……?
まぁ、うん。
「……あの、それでですね」
「ん?」
俺が自分の手元にあるチョコ入りの箱について考えていると、何やらルナが声をかけてきた。
見てみると何やら手をモジモジさせている。
「えっと、何?」
「……これ、どうぞ」
「え?」
俺はルナが差し出してきている箱に目を落とす。
これは、あれだろう。
チョコだ。
「……あ、……え?」
思わず、変な声が出た。
「ホントは、一番最初に渡せれば良かったんですが……」
残念そうに俯きながら、恐らくチョコが入っているのだろう箱を差し出すルナに、俺は黙って受け取ることしかできなかった。
「……わ、私は少し先に帰りますね」
ルナはそれだけを言い残すと、あっという間に俺から離れていってしまった。
「…………」
俺はルナから受け取った小綺麗な箱から、視線を外せなかった。
「…………」
俺は一人、無言で歩いている。
左手にはクラスでたくさんもらったチョコをいれた紙袋、そして右手にはルナからもらったチョコが握られていた。
「……あれ、ネスト?」
「え?」
ふと自分の名前を呼ばれ、俺は顔をあげる。
「ネストぉー!」
振り返った瞬間、身体に衝撃が襲ってきたかと思ったら、そこにはリリィが飛びかかってきていた。
なんとか受身を取ることが成功し、チョコは落とさずに済んだが、とっさのことに思わず混乱する。
「え、なんでこんなところにいるんだ?」
「ネストを迎えにきたのよ」
「迎えにきたのぉー!」
「……迎えにきました、ご主人様」
俺の質問に対し、順に答えていくアウラたち。
「……ほら、帰るわよ」
「あ、うん……?」
アウラの一言で俺たちはお城までの道を歩き出すが、何か違和感を感じる。
何か、アウラがよそよそしい。
「……?」
見てみれば、何時もなら抱きついてくるようなリリィも今日は何か不自然にアウラの手を握っている。
「…………」
トルエだけは何時もとあまり変わらないように見えるが、そんなトルエもどこか変な気がする。
何が変なんだろう。
「……なぁ、アウラ?」
「な、なに?」
「何か、あった?」
自分でも考えてみたが、結局分からなかったので思わず聞いてみた。
「…………そ、その」
「……?」
アウラは少し長い沈黙のあとに、何やら緊張したように切り出してくる。
「……これ、あげる」
「え……」
それは、またもやの小綺麗な箱だった。
「あ、ずるいー! 私もー!」
「ぼ、僕も」
それに釣られるようにして、どこに隠していたのか分からない小綺麗な箱をそれぞれが俺に手渡してくる。
「え……っと?」
「これ、今日そういう日らしいから」
俺の戸惑う声に対して、アウラがそう教えてくれる。
「……あ、ありがと」
まさか貰えるとは思わなかったので俺はただそれだけを呟くと、再び無言のまま、帰り道を歩き出した。
「はぁ……」
俺は部屋のテーブルに今日もらったチョコの箱を並べる。
かなりの数だ。
箱の形や包装を見るに、きっとちゃんとしたお店で購入してきたのだろう。
今までこんなことされたことが無かったので、今とても困惑している。
「……どうしよう」
捨てたりするのは、申し訳ない。
かと言って、食べきれるわけでもない。
「……まぁ、明日考えよ」
今日は疲れたし、もう寝よ。
「……あ」
でも今思い出したのだが、そういえばアスハさんからは、何ももらわなかった。
逆に俺が貰える可能性があると思っていたのがアスハさんだけだっただけに、驚きだ。
「……まぁ、仕方ないか」
もしかしたら受付嬢の仕事が忙しかったのかもしれない。
あ、でも普通にもともと俺にチョコをくれる予定が無かったのかもしれない。
「……はぁ」
それでも、少し残念だ。
やっぱ、貰えたら嬉しい。
しかしそれを相手に押し付けることもできない。
「……はぁ」
でも少しくらいならため息ついても、いい、よな?
俺は、重たい足取りでベッドに向かう。
「……?」
ふと、枕元に何か小包のような物が置いてあることに気がついた。
「なんだ、これ?」
俺はおもむろにそれを手に取る。
「……」
それは、チョコだった。
多分、チョコだった。
今日もらったチョコは箱から開けていないので、チョコ自体を見た訳じゃないのだが、どうしてかすぐにそれがチョコであることが分かった。
「……だ、誰から……?」
その小包が誰からのものなのかと思い、確かめてみると、そこには『アスハ』という文字が記されていた。
「…………」
俺はもう一度、視線をチョコに落とす。
これは、もしかしなくても、手作りチョコなのだろう。
それでいて形も綺麗に整っているのは、単にアスハさんの料理の腕がうまいのだ。
「……はぁ」
それは疲れからくるため息ではなく、嬉しさからくるため息だった。