バレたらバレた時
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魔力量の測定が終わって、あの不気味な部屋から早々に抜け出した俺は屋外にある訓練場へとやって来ていた。
すると既に回復魔法の練習を始めていたらしいルナが素早く駆け寄ってくる。
「んっ、ネストさんはもう測定は終わったんですか?」
「あぁ、ちょうど今終わったところ」
俺は適当に手を振りながらそう返す。
ルナは俺の目の前までやってくると、軽く息を整え、俺を見上げてくる。
「お疲れ様ですっ」
「あぁ、うん」
既に聖女であるルナが俺に対してこういった対応をとるのは周知のことになってきているので、他に練習している生徒たちは、こちらに軽く視線を向けるだけで直ぐに自分の練習に戻る。
「じ、じゃあ俺も練習してくるから」
俺はこちらを見上げてくるルナにそう言い残して、足早にその場を離れた。
「よし、じゃあやるか」
俺はルナたちのいる訓練場の中央から少し離れて、隅っこのほうを一人で陣取っている。
といっても単に結構広いために、こちらに人がこないだけの話なのだが。
ここで皆が行っている訓練は、少しだけ特別なものだ。
何やら球体のようなものに向かって回復魔法を唱えて、効果を確かめているらしい。
しかし、案の定というべきか以前にそれをやってみても、何の効果もないという結果が出ただけだった。
だから俺は一人、別行動をとる。
「……これでいいかな?」
俺は地面に落ちていた木の棒を手にとり、適当に振りかぶる。
「うん、これでいいや」
幸いにして、ちょうど良いくらいの重さだ。
まぁ重さなどは正直関係ないのだが、気分的なやつである。
俺は木の棒を逆手に持ち、少しずつ手に近づけていく。
「…………っ」
指先に痛みが走ったかと思うと、そこからは赤い血がつらつらと流れでている。
「……ヒール」
俺はゆっくりと回復魔法を唱える。
「…………」
しかしやはり一向に傷がふさがる気配はない。
「…………ヒー、ル」
もう一度、もう一度、繰り返す。
「ヒール、ヒー…………ヒール、ヒール」
…………。
「やっぱ、無理、だよなぁ……」
何時も一人でやっている時と同じ結果に、思わずため息を吐く。
だが、これくらいで諦めるわけにはいかない。
もう一回だ。
「……はぁ……はぁ」
何時の間にか俺の手は幾つもの切り傷ができており、地面には小さな血の水溜りが出来ている。
「……ふぅ」
乱れた息を整える。
そしてようやく息も整ってきて、俺はもう一度傷だらけの手を見つめた。
「……っ」
それを認識した途端に再び忘れかけていた痛みが襲いかかってくる。
「……ヒール」
…………。
やはり、治らない。
腕は痛いままだ。
「……くそ」
正直これからどうしたらいいのかが全くわからない。
また回復魔法を使えるようになる未来が想像できない。
「……はぁ」
思わずため息を吐かずには居られなかった。
「ネストさん?」
「え」
気がつけばそこにはルナが立っていた。
腕の痛みに気を取られていたせいで、気づかなかったがかなり近くまでやってきている。
「こんな隅で何をして、いるん…です、か……?」
「っ」
ルナの視線に気がついて、慌てて怪我している方の腕を隠す。
しかし、どうやら無意味だったようですぐに怪我した方の腕を覗き込むようにして俺に詰め寄ってくる。
「……っ」
ルナは俺の幾つもの切り傷がある腕を見て、口を手で抑える。
「何をやっているんですかっ!?」
「……れ、練習だけど」
「こんなやり方聞いたことありませんっ!」
まぁそりゃあ俺が自分で考えてやり始めた方法だから、それも仕方ないのかもしれない。
だからわざわざ城で練習するときも、夜遅くに密かに行っているのだから。
因みにその時の傷はトルエに治してもらっていた。
「ほら、ちゃんと伸ばしてください」
「……あぁ」
ルナは俺の手を包み込むように握る。
「……ヒール」
ルナの詠唱と同時に、腕を温かな光が包み込む。
「…………」
そして次の瞬間には、今まで治すことが出来なかった傷は綺麗さっぱり消え失せ、綺麗な元通りの腕がそこにあった。
俺がもう一度手に入れたい力が、確かにそこにあった。
「もうこんなことやったらダメですよ?」
「あ、あぁ」
俺は一応の返事をして、ルナを少しだけ離れさせる。
「……絶対ですよ?」
上目遣いでそう言ってくるルナに、思わずたじろぐが何とか誤魔化して、ルナをみんなのいる場所に帰すことができた。
「…………」
俺は木の棒を拾う。
もちろん回復魔法の練習のためだ。
そういえばルナは俺が木の棒で色んな物を切れることはしらないはずだし、今頃何であそこまでの傷をつけたのか不思議に思っているかもしれない。
まぁバレたらバレた時に考えればいいだろう。
今は、練習だ。
「……あぁ」
また、怒られるのを覚悟してルナに治療を頼まないといけないかもな。