変な音が聞こえたよ
ブクマ評価感謝です。あ、そういえば今日誕生日だ……
「では、次は回復魔法の実技を行いますので」
教壇に立つ教師のその台詞に皆が顔をあげる。
「よっしゃぁぁあああ!!」
中には声を上げてガッツポーズをとる人までいる。
「はぁ……やっとか……」
きつい座学の時間を何とか乗り越えた俺は今、机に突っ伏していた。
どうして回復魔法の学園なのにこんなことをしなくちゃいけないのだろうか。
まぁ確かに俺は結構最近まで田舎の村に住んでいて、一般常識みたいなのを知らないことがあるから、ちょうど良いのかもしれないが……。
「あ! ネスト君はちょっと来てくれるかな?」
「……え、あ、はい」
突っ伏していた時いきなり呼ばれたので、慌てて教師のもとへと向かう。
何か用事だろうか。
「ネスト君、確かまだ魔力量の検査してなかったよね?」
「はい、何か用意をする時間をくれって言われましたけど」
本当であれば学園に来て一番最初にやる予定だったのだが、何しろいきなりだったもので学園側も準備が遅れてしまったらしく、後日また、ということで落ち着いていた。
もしかすると準備ができたのだろうか。
「実は昨日用意が出来たらしくてね。案内するからついて来てくれる?」
とか思っていたら案の定その通りだった。
「はい」
俺は黙々と廊下を進んでいく教師の背中を見失わないようにして追いかけた。
「えっとここは……?」
俺が連れてこられたのは先ほどまでの明るい教室などではなく、どんよりとした暗闇の部屋につれて来られていた。
辛うじてある程度は見えるが、正直不気味である。
「あれ、先生……? 先生っ?」
今まですぐ近くにいたはずの先生がいつの間にかどこかへと行ってしまったらしく、全く反応がない。
「えっと……これはどうしたらいいんだ?」
きっとここで俺の魔力量をはかるのだろうが、何をしたら良いなど全く聞いていないのだ。
『良く来た』
「え……?」
それはまるで頭の中に直接聞こえてくるかのような感覚だった。
しかし暗闇の中を見回しても特に人影などは見当たらない。
「気のせい、か……?」
緊張しすぎたせいで変な幻聴が聞こえてきたのだろう。
『気のせいではない』
「っ!?」
どうやら気のせいではなかったらしい。
少しだけ不機嫌そうな声が再び頭の中に響いてきた。
「だ、誰だ……?」
もう一度部屋の中を見てみても、やはり部屋の中に誰かいるようには思えない。
『私はこの学園の理事長だ』
「え、り、理事長……?」
理事長ということはこの学園のトップ、ということだ。
確かにそんな凄い人なら、頭の中に直接言葉を送ってくることも無理ではないのかもしれない。
「……えっと、魔力量の検査をするためにここに連れてこられたんですけど」
俺は一刻も早くこの緊張する空間から抜け出すために、早速本題に移った。
『む、そういえばそうだった。魔力量はそこにある水晶に手をかざせば測れるから』
「あ、分かりました」
部屋の中を見回すと確かに水晶のようなものがポツンと置かれてある。
俺は足元に気をつけながらゆっくりと近づく。
「…………」
もしこれで魔力が無いとか言われたらどうしよう。
そしたら俺が再び回復魔法を使える可能性が、ほとんど皆無ということになるのではないだろうか。
「…………」
そう考えるとどうしても尻込みしてしまう。
しかしいくらここで突っ立っていたからといって、俺の無くなっているかもしれない魔力が戻るわけではない。
「…………!」
俺は覚悟を決めて、右手を水晶に近づけていく。
ただ結果が怖いので、もちろん目は瞑っている。
―――パリン。
「……?」
何か今、変な音が聞こえたような気がした。
それこそまるで何か水晶が割れるような音が。
『……なっ!?』
「……え」
頭の中で声が聞こえたと同時に、俺はゆっくりと目を開ける。
そこには真っ二つに割れた水晶が机の上に転がっていた。
「えっと、これはどういうことなんですか?」
この様子だと少なくとも魔力が無いという可能性は低いと思うのだが……。
『…………』
「…………あの?」
『あ、あぁ……。魔力量は測れたからもう戻って大丈夫だぞ』
「お、俺って魔力ちゃんとありました?」
『あぁ、ちゃんとあったから安心していい』
俺はその理事長の言葉にホッと胸をなで下ろす。
しかしどれだけの魔力量があったのかまでは教えてもらえないらしい。
俺はそのことを少し残念に思いながらも、足早に暗い部屋から飛び出した。