回復魔法を覚えるコツ
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「ネストさん」
「ん?」
城の廊下を歩いていると、ふと呼び止められた。
振り返った先には笑顔を浮かべたルナが立っている。
「今日ってお暇ですよね? 学園も今日はお休みですし」
確かにルナの言うとおり、今日は学園も休みで他にも特に用事はない。
「…………」
だけど、どうしてだろうか。
物凄く嫌な予感がする。
「今日、商店街に行きませんか?」
ほら言わんこっちゃない。
また面倒なことを……。
「…………」
しかし断るにも既にルナは行く気満々のようで、楽しみにしているのが手に取るように分かる。
断るのは至難の業だ。
「あー、えっとその……俺今日、回復魔法の練習しようと思ってたんだけど……」
それでも俺はあきらめない。
聖女でもあり、王女でもあるルナとお出かけするということは、それほどまでに面倒であるということだ。
「約束しましたよね?」
「あ、はい」
笑顔が、怖かった。
「はぁ……」
俺はルナに聞こえないように一人ため息を吐く。
結局、俺たちは今商店街にやって来ていた。
ルナは顔バレを防ぐためにか、変なお面をつけている。
こんなお面をつけている方が、逆に一人だけ浮いてしまうような気もするが案外そうでもないらしい。
お、あ。商店街は無事に戦争を終えることができたということで、皆お祭り気分一色になっている。
その結果、案外ルナのようにお面をつけている人たちも少なくはないのだ。
「っていうか学園では何もしてないけど大丈夫なのか?」
「あ、それは大丈夫です。学園は警備に対して多額の費用をかけているようなので」
「なるほど」
確かにあの大きな建物を見れば、警備も半端ではなさそうだ。
「あ、ほらネストさん見てください!あれ凄いですよ!!」
「あ、あぁ……」
普段からでは考えられないルナのはしゃぎように思わずたじろぐ。
そんなルナは今、俺の手を引きながらとある屋台に向かっている。
きっとこれまでの護衛付きでの買い物などであれば、こんなことは全て護衛の人か誰かがやっていたのだろう。
することやること全てが初体験なのかもしれない。
「……はぁ」
そう思うと、今日少し我慢してついて来たのは正解だったのかな、と一人空を見上げた。
「そういえばネストさんは回復魔法の調子は……良くないみたいですね」
「あぁ……」
空も赤くなり始め、そろそろ帰らなければならないという時間が迫ってきた。
「夜とかも結構練習とかしてるんだけどな……」
夜な夜な一人で城の中庭に出向き、回復魔法を唱える。
ただそれだけのことが、回復魔法を使えない今、とてつもなく辛い。
暗闇の中、ただ「ヒール、ヒールッ」と呟く。
「はぁ……」
昨日の夜にもやったそのことを思い出し、俺は大きなため息を零す。
しかしあれだけやっても何の成長の欠片も見られないのでは、最早やっている意味すらないのではないかと気分が落ち込んでしまうのも仕方ない。
「回復魔法を早く使えるようになれるコツとかないのかなぁ……」
俺は聖女であるルナに聞いてみる。
といってもそんな物があったら既に教えてくれているはずだろうと、直ぐに諦める。
「一つだけ、あるかもしれません」
「え」
しかしルナから呟かれた言葉はまさかの肯定。
「でもこれは私が勝手にそう思っているだけなので本当かどうかはわかりません……」
「…………」
「それでも良いならお教えします」
「……教えてくれると嬉しい」
藁にもすがる気持ちで俺はそう呟いていた。
もう一度、回復魔法を覚えなおしたいという一心で。
「回復魔法を早く覚えるコツ、それは……」
“ 大切なものを見つけることです ”
「大切な、もの……?」
俺は反芻するようにルナの言葉を繰り返す。
「何か自分の命に変えても、その大切な何かを守りたいと思えるものを見つけることが、回復魔法を覚えるコツではないかと思います」
自分の命に変えても、その大切な何かを守りたいと思えるもの。
ルナにはそう思えるものが何かあるのだろうか。
真っ赤な陽に照らされるルナのお面の下で一体どんな表情を浮かべているのか、少し気になった。
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短編【君に恋したのは昨日の僕】投稿しました!
一読いただければ幸いです!!