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空気が凍った。


 「…………」


 俺は昨日の“部活”のことを振り返る。


 最も優れた回復魔法使いである聖女。


 しかし、だからといって教えるのが上手いという訳ではなかったらしい。


 どうやらルナは回復魔法を感覚的に覚えていたようで、イマイチ分かりにくかった。





 「ふぅ……」


 運が良いのか、今日ルナは学校を休んでいる。


 だからルナと一緒に行く予定だった朝の学園への道も一人で歩いているわけだ。


 「…………」


 しかし先ほどから如何せん視線を向けられている気がする。


 もしかしなくても昨日一日中ルナと一緒に行動していたからだろう。


 「はぁ……」


 これではこれからの学園生活でルナ以外誰とも仲良くなれないかもしれないな。


 そう思うと自然にため息が出た。





 回復魔法を教えてくれる学園の校舎はでかい。


 たくさんの寄付金があるからか、それこそ王城に匹敵するくらいの大きさだろうか。


 それだけの広さということはつまりそれだけの数の生徒がいるというわけである。


 それなのに未だにちゃんとした会話をルナ以外誰ともしたことがない。


 これは、まずい。


 何がまずいとかそういうのを説明できる訳じゃないが、明らかに俺は今浮いている。


 「はぁ……」


 教室の隅の方の机で、俺は一人窓から外を眺めながらため息をついた。




 「えーっと、確かネスト、だったよな?」


 「え?」


 明らかに自分の名前を呼ぶ声に思わず振り返る。


 そこには活発そうな雰囲気の男子生徒が一人立っていた。


 「あれ、違った?」


 「い、いや合ってるけど……」


 まさか俺に話しかけてくるような人がいるなんて……。


 周りもこの男子生徒の行動に対してざわめきを隠せていない。


 「おぉ良かった。間違ったかと思ったじゃねーか」


 名前も知らない目の前の男子生徒は俺の肩をポンと叩きながらそう言ってくる。


 「えっと……」


 「あー、俺はダンって言うんだ。よろしく」


 「よ、よろしく」


 ダンから差し出された手に、俺は戸惑いながらも自分の手を重ねる。


 けど、これは思ってもいないところで良い事が起きたものだ。


 まさか自分から行動する前に、相手の方からこうして接触してきてくれたのだから。


 俺は表情に出ないようにしつつも内心では頬がつい笑ってしまいそうになるのをこらえるので精一杯だった。





 あぁ、まさか“友達”というモノがこんなにも素晴らしいものだったなんて……!!


 俺は今、ダンと共に購買に並びながらそんなことを考えていた。


 今日一日ダンと一緒に色々と話したりしたりして、今までにない経験もたくさんした気がする。


 授業中のおしゃべりや、早弁というもの、他にも色々やったがどれも楽しかった。


 「ん、ネストは何にするんだ?」


 「あー、アレでいいかな」


 ルナともこういったやり取りができない訳では無いが、やはり同性の方が気は楽だ。


 自分も変に緊張しなくてもいい。


 そして俺は購買のおばちゃんから商品を受け取ると、ダンと共に空いている席へと向かった。






 「ん、ネストもう帰るだろ?」


 「あぁ帰るよ」


 ようやく最後の授業も終わり、ようやく帰宅の時間になったと思ったらダンから声をかけられた。


 「一緒に帰ろうぜ」


 「…………」


 「ど、どうしたそんなに泣きそうな顔して……」


 「……い、いや何でもない」


 まさか友達と一緒に帰れることになるとは思ってもみなかった。


 そして向こうから提案してくれるとも思っていなかった。


 「じ、じゃあ帰ろうか」


 高ぶる気持ちを何とか抑えて、俺はダンにそう声かけた。




 因みにダンはまだ回復魔法は少ししか使えない。


 今の俺ほどではないが、ただ今絶賛修行中らしい。


 今日の昼休みに、これから一緒にがんばろうと話したばかりだ。




 校舎から出て、ダンと二人で校門へと向かう。


 友達と帰るという初めての経験に緊張も当然している。


 そして俺が王城に住んでいるということをどう言い訳したらいいだろうか、と今更ながらに思い出していた。


 うん、本当どうしよう。


 「……ん?」


 ふと前の方を見てみると、どうやら校門のところに何やら集まりが出来ている。


 何か珍しい物でもあるのだろうか、とダンと一緒に近づく。





 「あ、ネストだ!」





 その時、聞こえてはいけないはずの声が聞こえてきた。





 「ん、どこ……? あっ! 本当ね!」





 そしてまた聞こえてはいけない声。





 「あ、ご主人様こっちですよー……」





 これも聞こえてきてはいけない声だ。


 「って何でここにいるんだよ!?」


 俺は思わずそう叫んでいた。


 「んー!」


 しかしリリィはそんなこと我関せずといったふうに、いつもの如く俺に飛びついてくる。


 「うおっ、と」


 そして何だかんだ言っても、俺の方もいつものように受け止めてしまう。


 「ど、どうしてここにいるんだ?」


 周りの視線が集まってきているのを感じながらも、俺はアウラたちに近づいて聞く。


 「どうしてって、迎えに決まってるでしょ?」


 「ま、まぁ確かに……」


 当たり前の答えに思わずそう呟く。




 「……え、その娘たちってネストの知り合い?」


 「あ、あぁ」


 やばい、そういえばダンがいたんだった。


 ここでアウラたちが変なことを言ったりしたら、折角できた友達がいなくなってしまう。




 「ん、リリィはネストとー、同じベッドで寝たりするような関係だよぉー?」




 空気が凍った。


 どうしてそんな言葉を選んだのかは定かではないが、リリィ、それは言ったらダメなやつだよ?


 「ネ、ネストお前こんな小さい子に……ごめんちょっとさすがに無理だわ……」


 「……あぁ、うん。何かごめんな?」





 そして俺は、初めてできた友達をその日のうちに失ったのだった。


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