ただ俺は、空を飛んでいた
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夢物語を実現させるためには、何が必要か。
俺が願わなければいけない力とは一体何か。
俺は考えた。
誰も死なず、誰も傷つくことなく戦争を終える為に必要な力。
それを考えてみた時、俺の頭に最後まで残っていたのは回復魔法だった。
誰にも死なせない為には、まず傷つかなければいい。
誰にも傷を負わせないためには、その都度治療すればいい。
自分でいうのもアレだが、俺は周りとは違う特別な回復魔法を持っている。
しかし、それでも足りないのだ。
戦争を経験したりしたことなどないけれど、聞いた話によると多大な怪我人が出るらしい。
そんなたくさんの数を俺ひとりで治療することなどまず不可能だ。
確かに一人一人の大怪我であれば完全に治せる自信はある。
しかしそれでは他の人の治療が間に合わない。
そこでもう一度、その時に何が、どんな力があればいいのかを考えてみた。
そして閃いた。
回復が間に合わないなら、どうにか間に合わせればいいだけじゃないか、と。
一人一人で間に合わないのなら、どうにか間に合わせればいいだけじゃないか、と。
夢物語が実現できないのであれば、どうにか実現してみせればいいだけじゃないか、と。
だから俺は願った。
全てを実現させるために必要な力を。
だから俺はまず自分に対して唱えた。
否、呟いた。
“ 回復し続けろ ”
そして今、俺は空を飛んでいる。
何者にも縛られず、空を飛んでいる。
向かい風なんて気にならない。
ただ俺は、空を飛んでいたのだ。
あと残っているのは最後の仕上げだけだ。
俺は空を飛びながら息を大きく吸い込む。
そして大分近づいてきた人間、魔族、獣人たち皆にむかって俺は、
“ ――――――――――――ッッッッ!!!!!! ”
叫んだ。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
今日、俺は初めて戦争というものを経験する。
恐らくここにいる皆も今回が初めての戦争のはずだ。
今回の戦争の敵は獣人の大軍らしいが、正直俺はあまり獣人に対して敵対心などはなかった。
しかしだからといって戦争をやらないというわけにはいかない。
俺には家族もいる。
もし人間側が負けたら、家族が、そして他の皆もどうなるかは分からない。
だから戦うしかないのだ。
俺が配置されているのは前線の真ん中あたり。
もちろん自分で前線に行きたいと志願した。
格好いい国王様の演説も終わり、ついに出発だ。
獣人の大群はもうかなり都に近づいてきているらしく、一刻の猶予も残されていないと聞いた。
そしてついに門が開けられた。
皆それぞれ真剣な面持ちをしている。
俺も緊張で手汗が出始めていることを感じながら、周りに合わせてゆっくりと歩き始めたのだった。
「おぉ……」
ようやく獣人たちの大軍が目に入り始めた。
数だけで言ってしまえばここからでは分からないが、かなり多いように思える。
「……ふぅ……」
今からこの大軍同士で戦いを始めると思ったら、思わず深呼吸をしてしまった。
しかし実際、これからの戦争でどれだけの数の人や魔族、そして獣人が死んでいくのかは分からない。
そしてそんな心配をする余裕も俺にはない。
ただ自分が生きて帰ることだけを考えなければいけないのだ。
俺は再び背筋を伸ばし、獣人の大軍へと脚を向けたのだった。
「お、おい……アレなんだ……?」
「ん?」
その時、後ろの方からそんな声が聞こえてきた。
何かと思って後ろを振り返ってみると、どうやら後ろの人達は何やら上の方を見ているらしい。
「……なにかあるのか?」
不思議に思った俺は日で眩しい中、手をかざしながら遥か上方へと目を向ける。
「なっ!?」
そこには黒いマントのようなものを着ているが、確かに人の形をしているモノが落ちてきていた。
目で見てみる限り、ちょうど落ちてくるのは人間と獣人の軍の真ん中辺り。
一体どういうことかと辺りが騒然となる。
「――――――――――――――――ッッッッ!!!」
するとその時、何やら上から叫び声のようなものが聞こえてきたかと思うと自分の身体が何か温かいモノに包み込まれたような気がした。
そして次の瞬間、黒マントを着た人は物凄い音と土煙を立てながら地面に落ちた。
目で見えた限りでもかなりの距離から落ちてきていたはずだ。
さすがにあれでは助かるまい。
「……ぇ」
きっと誰もが俺と同じようにそう思っていただろう。
しかし土煙が晴れたあとに残っていたのは、平然と棒立ちしている黒マントだった。
そしてまるで、それが皮切りになったかのように両軍はぶつかるようにして戦いを始めている。
「うわっ!」
気がつけば目の前に敵が斬りかかってきており、俺は思わず腕で顔を隠す。
しかし何時まで経っても痛みはやってこない。
薄らと目を開けるとそこには驚いたように剣を振り下ろした敵がつっ立っている。
どうやら外してくれたらしい。
「うおぉおぉぉぉおおお!!!」
俺はそのチャンスを逃すことなく自らの剣を振り下ろす。
しかし、俺は見た。
切ったはずの敵の首が、繋がっているのを。