じゃあ行きますか
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「……いけるかもしれない」
俺の思い描く計画を成功させるためには、まず空を飛ばなければならない。
空を飛ぶことは無謀だと思っていたが、今俺の中では一つの空を飛ぶ案が頭の中に思い浮かんでいた。
「ち、ちょっとごめん!」
俺はそれができるのか、ということを聞くためにルナを押しのけて目的の場所へと向かった。
「無理だ」
「えぇー……」
俺は今、エスイックや魔王様のいる部屋までやってきていた。
俺が空を飛ぶ方法の一つとして目をつけたのは、魔王様である。
魔族の背中には翼が生えており、空を飛ぶことができるということは前にも聞いた。
それならば俺ひとりくらい持ちながら空を飛べるのではないか、と考えたわけである。
しかし魔王様に聞いてみると、どうやら人を運びながらというのはできないらしい。
なんでも翼にそこまで力がなく、自分の体重を運ぶのだけで精一杯ということだった。
「しかし空を飛ぼうなど一体どういうことなのだ?」
エスイックは突然やってきた俺に対し、少し期待するような顔で聞いてきた。
「あぁ。少し、夢物語っていうのを実際に見てみたくなってさ」
まだ、空を飛ぶ方法がないと決まったわけでは、ない。
「ほぅ」
俺は今から自分のやろうとしていたことを魔王様たちに話してみた。
「しかしそれは副作用があるぞ」
「え?」
突然の魔王様の言葉に俺は思わず聞き返す。
そんなこと今まで知らなかったのだ。
「ど、どんな副作用なんだ……?」
「願ったものに対して同等の対価となるものが自分に降りかかってくるのだ」
「……」
願ったものに対しての同等の対価。
それは一体どれほどのものになるのか。
「でも、副作用の対象は俺だけなんですよね?」
うむ、と頷く魔王様に少しだけホッとする。
「なら大丈夫です」
これで周りの人にまで影響が及んだりしたら俺がやろうとすることの元も子もなくなってしまう。
ただ副作用が自分だけというのなら俺としては全然構わない。
「……そうか」
俺の決意を汲んでくれたのか、エスイックと魔王様は静かに頷いた。
「じゃあ行ってきます!!」
俺は唯一の荷物だけを握りしめてエスイックたちの居る部屋から走り出た。
既に前線の皆は出発している。
獣人の大軍との交戦が始まるのも時間の問題だろう。
そう。
これは時間との勝負なのだ。
俺は走る。
「ヒール!!」
疲れは回復魔法を使って払拭し――
「ヒールッッ!!」
足の痛みは回復魔法を使って治療し――
「ヒールッッッ!!!!」
胸の中に残る不安は、回復魔法でどうにか頑張る。
「あぁーっ!!やっぱ怖いわーっ!!」
俺は遥か下に見える獣人と人間の両軍を見ながらそう呟いた。
今、俺は崖の上にやってきている。
ちょうど良い具合の位置に大きな崖があったから助かった。
「はぁ……緊張してきた…」
だがそれも仕方ないだろう。
これからやろうとしていることを知れば、誰だって緊張するはずだ。
「………やめたいわぁ」
ここで止めることができたらどれほど楽だろうか。
こんなこと俺だってやりたくてやっているわけではないのだ。
失敗したら皆の命も危ないし、もし成功したとしても副作用で俺の命の危険だってある。
どうしてこんなことを俺がしなくてはならないのだろうか。
やりたくない、止めたい、逃げ出したい。
心の中でいろんな負の感情が渦巻いている。
けど、ここで逃げるわけにはいかない。
そして絶対に計画を成功させなければならない。
成功してもし仮に、俺が死んでしまったとしても、それでほかの人が生き延びてくれるなら悔いが無いわけでは無いが、まぁ仕方ないと思える。
「あ、そういえば約束破っちゃうかもなぁ…………」
俺はその時ふと、昨晩のことを思い出した。
同じベッドの中に感じたアスハさんの温もり。
そして念押しまでされたあの約束。
帰ってくるように、と言われていたけれどそれは厳しいかもしれないなぁ。
他にもアウラ、リリィ、トルエ、そしてニア。
奴隷という立場から解放させることを忘れていたのも数人いたけれど、それはエスイックか誰かがもしっていう時には対応してくれると信じよう。
「はぁ……そろそろか……」
俺はそろそろ交戦を始めようとしている両軍を見下ろす。
あ、そういえば何時だったか、こんなことを考えていた気がする。
死ぬまでには絶対空は飛びたい。
最悪回復魔法をかけながら高いところから飛び降りればいい。
今考えたらとんでもないことを考えていたんだなぁと理解できる。
まぁ今はそんなことどうでもいいか。
そこでようやく俺はお馴染みの黒マントを羽織る。
最初は恥ずかしかったが今では緊張を和らげてくれる良いパートナーだ。
そして俺はずっと手に握っていたモノを口に含み一息で飲み込む。
それは何時の日か魔王様に貰った黒い玉。
すっかり忘れていて申し訳ないけど、今回は使わせてもらおう。
――――ドクン。
――――ドクン。
あぁ、少しずつ身体が熱くなって気がする。
「じゃあ行きますか」
そして俺は一つの魔法を唱えながら、崖から身を落としたのだった。