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聖女の回復魔法がどう見ても俺の劣化版な件について。  作者: きなこ軍曹/半透めい
第三章 俺の回復魔法がどう見ても聖女の劣化版な件について。
137/181

何より腹立たしい。

ブクマ評価ありがとうございますm(__)m



 「うーん、何も忘れ物はない、よな……?」



 俺は今、忘れ物が無いかの最終チェックをしている。


 まだ時間はあるので、見落としがないように慎重に探していく。


 ルナは開いたままの扉に寄りかかって、下を向いていた。






 「ネストさんってどうして回復魔法を覚えようと思ったんですか?」





 それからしばらく部屋の中を見回っていると、ルナが唐突にそんなことを聞いてきた。


 「うーん。どうして、かぁ……」


 俺が回復魔法使いを目指すきっかけになったのはやっぱり子供のころの思い出だ。


 今ではあまり覚えてすらいないのだが……。


 でもついにこの前、昔俺に回復魔法を見せてくれた人らしき人にも会うことができた。

 

 まぁまだ推測の域をでてないからこれ以上はどうしようもないんだけど。


 「まぁいろいろだよ」


 俺はあまり覚えていないことを説明するのも悪いと思い、そうぼかす。


 ルナはそうですか……と呟くと再び下を向いた。


 「ルナはどうなんだ?」


 どうしてかあまり元気がないように見えるルナの気を紛らわそうと俺は聞いてみる。


 ルナは俺の質問に顔を上げてこちらを見つめてきた。


 「私は、昔に見た回復魔法に憧れて回復魔法の道を志しました」


 「へぇ……」


 ルナには言わなかったけど、俺が回復魔法使いを目指した理由とほとんど同じだ。


 「私が初めて回復魔法を目にした時、私にはそれがまるでこの世のものではないような気さえしました」


 「……」


 「他の魔法を見る機会もありましたが、それでもやっぱり一番感動したのは回復魔法だったんです」


 「……」


 ルナは床に目線を戻しながら話し続ける。


 「子供のころから、みんなの病気や怪我を全部治す、と意気込んでずっと回復魔法を練習してきました」


 「……」


 「でも、こうやって今回戦争に直面して思ったんです」





 ―――――――――回復魔法は人の役に立っていないんじゃないか、って。





 「え……?」


 俺はルナのその言葉に思わず驚きの声を上げる。


 「私はこれまでの努力が実って、聖女という称号までいただきました」


 「あ、あぁ……」


 確か聖女とは今代のもっともすぐれた回復魔法使いに贈られるということを聞いた覚えがある。


 まぁ俺は例外としてだけど。


 「でも実際は実の母の病気すら治せず、挙句の果てには自分まで病気にかかってしまいました」


 「あ、あぁ…」


 たぶん俺が治療しに城へ侵入した時のことを言っているのだろう。


 「それを治してくれたのは、黒いマントに身を包んだお方で、聖女である私よりも遥かに優れた回復魔法使いだったんです」


 あ、それ俺だわ。


 「私は自分の力の無さを痛感しました」


 「……」


 俺は自分のことだけに何もいうことができない。


 「……そして今回、この戦争です。私たち回復魔法使いは後方支援として前線の方々の後をついていきます。前線の方たちが怪我した時に治療するために」


 「そうだな」


 というかスラっと流したけどもしかしてルナも戦争についていくのだろうか………!?」


 「それってどう治療するんですか?」


 「え、どうって普通に後ろにもどってきた人に回復魔法をかけるんじゃないのか?」


 変なことを言ってくるルナに俺は思わず当たり前のことを返す。


 「では、怪我した方たちがどうやって(、、、、、)後ろまで帰ってくるんですか?」


 「……あ」


 俺はそこで初めてルナが言っていることが分かった。


 俺たち回復魔法使いは、治療員として戦争についていく。


 けれど、怪我した人たちが後ろにまで帰ってくる手段がない今、回復魔法はほとんど意味がないのでは、ということだろう。


 「それに仮に怪我してから後ろまで戻ってくることができても、私たち回復魔法使いには千切れた腕を元に戻すこともできません」


 「……」


 確かに、俺は別として、普通の回復魔法使いであれば千切れた腕を元に戻すなんてことはできないだろう。


 「それなら……回復魔法がこんなに使えない魔法だったのなら、いっそのこともっと沢山の人と一緒に戦える攻撃魔法とかを練習してきたほうがよかったんじゃないんですか?」


 「………」


 ルナはその瞳に涙を浮かべながら、俺にというより自分に問いかけている。


 だから俺にはルナの考えに対して、賛同することも否定することもできない。


 


「回復魔法って……っ…こんなもの(、、、、、)だったんですか?」




 だから―――そんなことを言うルナに対して、何もいうことができない自分が、何より腹立たしい。


 


 『それじゃあ、まだ足りませんよ』




 いつかの白マントに言われた言葉が俺の中で蘇る。


 俺はこれまでに必死で回復魔法を練習してきた。


 指を、腕を、足を、何度も何度も切り落としてきた。


 指を、腕を、足を、何度も何度も生やし治してきた。


 これ以上、いったい俺にどんな練習ができて、どんなことができるようになるというのだろうか。




 「……あ、これ」


 その時場違いはなはだしいが、俺は椅子の下に自分の荷物が置き忘れていることに気が付いた。


 ルナは未だに嗚咽を零しているが、俺には慰めることもできていない。


 その中で見つけた自分の荷物に、俺は引き寄せられるように手に取る。


 「……何入れてたんだったか」


 俺はゆっくりと荷物の中身を確かめる。


 「あっ、と」


 荷物の中にあった一つ目は、ルナからもらったペンダントだった。


 これはエスイックにルナにはバレないようにしていたほうが言われているので、ルナに見つからないように荷物に戻す。


 



 「………これ」


 荷物の中に入っていた二つ目のモノ。


 俺はそれを見たとき、今までこの存在を忘れていたことを悔やんだ。


 どうしてもっと早くに気が付かなかったんだ、と。


 これがあればもしかしたら、誰も傷つかない戦争にすることができるかもしれない。


 これがあればもしかしたら、ルナに対して、否、ルナ以外のすべての回復魔法使いに改めて回復魔法の存在意義というものを確かめさせられるかもしれない。


 これがあればもしかしたら、そんな全ての”夢物語”を現実にすることができるかもしれない。





 俺は自分が思い描く計画に、何が必要かを考える。


 できるだけ迅速に、かつ確実性に富むもの。


 そのためにまず必要なものそれは――――






 ―――――空を飛ぶことだ。 


 

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