アスハさんだぞ?
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誰ひとりとして傷つくことがなく戦争が終われば、未来が変わる。
それが夢物語なんてことは、俺でも分かる。
戦争となればきっと千や万単位の戦死者や負傷者も出るとも聞いた。
そうなれば例え俺が回復魔法で一人一人を治療しても意味がない。
それに治療される人の中にはもう怪我したくないから戦場に行きたくない、という人が出てくる可能性だってある。
「やっぱり『夢物語』なのかなぁ……」
しかしそんな夢物語が起きてくれる可能性を俺は否定したくなかった。
「あ、ネストおかえりー!」
皆のいる部屋に戻ると、そこには既に獣人であるニアと普通に話しているアウラたちがいた。
一緒に過ごしているうちに獣人に対しての苦手意識なんかも解れてくれたのだろうか。
「ただいま、リリィ」
帰ってくるなり俺に抱きついてきたリリィの頭を撫でる。
リリィは気持ちよさそうに身を捩りながら、俺の抱きしめる腕の力を強めてきた。
「……うっ!!」
痛い、とんでもなく痛い。
身体からミシミシという音が聞こえそうだ。
今までこんなことなかったはずなのに、一体どうしたんだろう。
「ネスト、戦争行くの……?」
するとその時、リリィが心配そうな顔でこちらを見上げて聞いてきた。
なるほど。
そういう理由があったのか。
俺は痛む身体にヒールをかけながら、リリィの柔らかい頬っぺたを手でさする。
「俺は後方支援だから、そんなに危険じゃないみたいだよ?」
「……ホント?」
「あぁ」
俺の言葉に少し安心したように聞いてくるリリィに頷き返す。
「じゃあたくさんの人を治療してあげないといけないんだね!」
打って変わって、笑顔でそう笑いかけてくるリリィ。
「……あぁ、頑張らないとな」
そんなリリィに俺は気まずさを感じながら、そう笑い返したのだった。
「はぁ……疲れたなぁ」
俺は布団を被りながらそうため息を吐く。
今日も色々と大変だった。
ギルドに行ったり、エスイックたちと食事をしたり……。
ってあれ?
実はそんなに大変な一日の内容でもないのか……?
しかし自分の身体はきつい一日を過ごした時と同じように、疲れを訴えてきている。
「あぁ、多分戦争がもうすぐだから気を張ってたのかな」
それならば納得が行く。
自分自身あまりそういうことは気にしない質だと思っていたが案外そうでもないのかもしれない。
―――ガチャリ。
その時ふと、部屋の扉の方からそんな音が聞こえてきた。
今、俺は唯一の男ということでほかの皆とは別の部屋で眠っている。
だからトイレに向かった誰かが帰って来たなどということではないはずだ。
「…………」
となると一体だれが来たのだろうか。
俺は布団の中で息をひそめる。
何か前にもこんなことがあったなぁ、と思っていると、その来客はもそりと布団の中に入ってきた。
この部屋にやって来るまでに冷えたのか、肌に触れる相手の身体は若干の冷たさが残っている。
……これは一体誰だろうか。
布団の中に入ってきたということは、俺の知る誰かのはずだろうし。
そしてこの身体の大きさから察するに多分リリィとトルエ以外の誰かだ。
「…………」
「……っ」
俺は寝返りを打つふりをして、自分の手を相手の頭の上にのっけてみる。
さすがに起きているのがバレるかもしれないと思ったが、どうやら少し驚くぐらいで済んだようだ。
俺は最小限だけ手を動かして、軽く頭を撫でてみる。
「……っ……」
するとどうやらニアではないということも分かった。
なぜならそこには獣耳と思わしき物がなかったからだ。
……となると可能性としてはアウラ、アスハさんのどちらか。
しかし二人ともそんなことをするとは考えにくい。
「…………」
あ、もしかして……
必死に考えているうちに一つの出来事に思い当たった。
それは今日のギルドからの帰り道でのこと。
ギルドでアスハさん以外の受付に行ったことで少しアスハさんを怒らせてしまったのだ。
俺は知らないが、もしかしたら最初に行った受付以外は行かないという暗黙のルールでもあるのだろう。
「…………」
……え、じ、じゃあここに居るのって―――アスハさんなのか!!??
自分で考えておいて何だが、それはちょっとヤバくないか?
俺は自分の身体が強張るのが分かった。
しかしそれも仕方ない。
だって今同じベッドであのアスハさんが寝ているのかもしれないのだから。
いや、さすがにそれはないか。
だってアスハさんだぞ?
あのアスハさんは絶対そんなことはしない。
ギルドでだって今まで一度も浮いた噂すらたたないアスハさんだぞ?
第一まずそういう関係じゃないんだから、ありえない。
「…………」
俺は、恐る恐る、ゆっくりと、目を開けてみる。
「おはようございます」
鼻と目の先にアスハさんがいた。
落下物にお気を付けください。連載中です。
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一読頂けたら幸いです。