表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女の回復魔法がどう見ても俺の劣化版な件について。  作者: きなこ軍曹/半透めい
第三章 俺の回復魔法がどう見ても聖女の劣化版な件について。
133/181

まるで夢物語みたい

ブクマ評価感謝です。


 「お、良いところに。少し付き合ってはくれないか?」


 「ん?」


 俺は後ろからかけられた声に振り向く。


 そこには疲れた様子を隠せていない国王、エスイックがいた。


 もしかしなくても戦争についての会議などが忙しいのだろう。


 「あぁ、別に大丈夫だ」


 「おぉそうか、では早速行こうか」


 俺の言葉に若干嬉しそうな顔を浮かべたエスイックは、俺を先導するように先を歩き始めた。




 「……これは?」


 俺は目の前の光景に思わずエスイックに尋ねる。


 今、俺の目の前には恐らくお酒だろう飲み物と、少しの料理が並べられていた。


 「もちろん夜の宴の準備だが?まぁ宴にしては少し小さいのは仕方ないが」


 「いや、そういうことを聞いてるわけじゃないんだけど……」


 俺の質問に対し、何を気にするでもなくエスイックはそう答えるが、当然そんなのは見れば分かる。


 俺が聞きたいのは、一体どうしてこんなことをしているのか、ということなのだが……。


 「まぁ、今日はゆっくりできる最後の日になるかもしれませんから」


 「……え……!?」


 俺の疑問に答えてくれたのは、いつの間にか俺のすぐ後ろにまでやって来ていた魔王様だった。


 突然の魔王様の現れに俺は思わず驚いてしまう。


 「それにエスイック殿は他の方々の人一倍この件について努力してますし、他の皆さんも今日くらいは許してくれるでしょう」


 「…………」


 俺は魔王様の言葉に、エスイックの顔を改めて見てみる。


 確かにエスイックの目元には隈ができており、疲労感を漂わせていた。


 きっとそんなエスイックが俺を呼んだのも、ここに呼べるような人が俺ぐらいしかいなかったのだろう。


 「よし、じゃあ楽しもうか」


 俺の顔から諦めのような空気を察したのか、エスイックは椅子に座り酒瓶を持ちながら、俺と魔王様にそう言ってきたのだった。




 「はぁ……やっぱり戦争はいやだなぁ……」


 そう呟くエスイックの頬は、お酒がまわっているせいか若干赤く染まっていた。


 かくいう俺自身も自分の顔が火照っているのが分かる。


 「……そういえば昔もこんな風にアイツと酒を飲み交わしたなぁ」


 「そういえば、そんなこともありましたねぇ……」


 懐かしそうな顔をしながら話す二人のその会話に俺はついていけない。


 「アイツ、とは?」


 だが気になったので思い切って聞いてみた。


 「……獣王だ」


 エスイックは一層懐かしさを感じたように、その目を閉じる。


 「いつだったか遠い昔、実は一度だけ私たちは獣王を交えて酒を飲んだことがあるのだ」


 「ちょうどこんな感じで三人でね」


 エスイックの言葉に付け足すようにして魔王様が教えてくれる。


 「え、でも……?」


 獣人と人間は仲が悪いはずなのに、そんなことが有り得るのだろうか。


 「その時はまだ人間、魔族ですらそんなに仲が良くなかったんだよね」


 俺が首を傾げていると、魔王様はさらにそう付け足す。


 「つまり私たちは一人の国の王としてではなく、一人の友としてその場にいたわけだ」


 「……」


 エスイックも魔王様に釣られるようにして、どんどんと昔のことを語っていく。


 「『誰も傷つかない世界を創ろう』―――当時まだ私たちが大人ではなかった時に、描いていた夢だ」


 「まぁ年を重ねるにつれてどんどんとそれが夢物語なんだっていうことに気がついてきたけど」


 魔王様はまるで自重するように、手を肩あたりまであげて首を振っている。


 気がつけばエスイックも遠い過去を思い出したように笑みを浮かべていた。


 「え、ってことは今の獣王は別に人間が嫌いじゃない、ってことなのか……?」


 今の二人の話から察するに、恐らくはそういうことなのだろうが、それならばどうして戦争などが起きるのだろうか。


 「獣王一人が別に人間たちのことを嫌いでないとしても、それだけで他の年をとった獣人たちの気持ちが変わるわけではないからな」


 「うーん、ん……?」


 エスイックが俺に教えてくれるがやはり俺にはあまりよく分からなかった。


 ただ、結局戦争は避けられない、ということなのだろう。


 「やっぱり友達と戦うってのは気持ち的に大丈夫なのか?」


 エスイックたちはこれまでそういった事実は教えてくれなかった。


 しかしやはり自分の友達が治める国と戦うっていうのはいい気分はしないはずだ。




 「……戦争とは敗者(、、)を決めるものだ」




 すると突然、エスイックが真剣な顔になって語りだす。




 「故にもし負けてしまった方はこれからの未来にも苦難を強いられることとなるだろう」




 「私は自分の国の国民が、仲間が、そして何より家族がそんな苦しい生活を強いられる姿を見たくない。戦死者に対して悲しむ姿も見たくない」




 「そのためなら、例え友が敵だとしても私は戦うし―――――戦わなければならない」




 そう言い切ったエスイックの目は閉じられている。


 「……そうだね」


 魔王様もエスイックの言葉に同意している。


 「……ただもしこの戦争が、まるで夢物語みたいに誰ひとりとして傷つくことなく終わったりするんだったら、また何か未来が変わるのかもしれないね」


 そう呟く魔王様とエスイックの顔はどこか寂しそうに笑っていた。

 


新作『落下物にお気を付けください。』

http://ncode.syosetu.com/n6682da/

一読頂けたら幸いです><


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ