嫌、でしょうか……?
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「うわぁ……やっぱりこうなってるよな……」
俺は思わず目の前の光景にそう呟く。
今、俺はギルドにやって来ているのだが、どうにも皆『戦争』に対して浮き足立っているようだ。
恐らくだが、ここにいる皆の中で今まで戦争を経験した人など一人もいないのだろう。
ブロセルに聞いた話によると何でもかなり昔に戦争はあったらしいが、寿命が獣人に比べて短いらしい人間たちでは、今こうやって冒険者をしていることはありえないはずだ。
かくいう俺も戦争など経験したこともなければ見たこともないので偉そうなことは言えないのだが。
今日ギルドにはアウラたちは連れずに一人でやってきている。
特に理由は無いが、まぁ戦争の話を皆の前でしなくてもいいかなと思い一人でやってきたのだ。
ただアスハさんだけは仕事の多いギルドの手伝いとして既にこちらにやってきているはずである。
「……あ」
アスハさんを探してみると受付の一つを担当しているらしい。
その列にはアスハさんが美人だからかたくさんの冒険者が並んでいてどうにも忙しそうだ。
俺も受付に用事があったのだが、今回は別のところに行かせてもらうことにしよう。
「あの、すみません」
そう思った俺は早速別の空いている受付のお姉さんに声をかける。
この人もアスハさんに劣らず美人なのだが、やはり多くの男の冒険者は普段見ることがないアスハさんの方へと流れているのだろう。
「あ、はい。『緊急クエスト』のご受注でしょうか?」
はい、と答える俺に受付のお姉さんは手馴れた様子でどんどんと進めていく。
「まず『緊急クエスト』へのご参加ありがとうございます。しかし命の危険も出てきますが大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です」
緊急クエストとはもちろん『戦争』のことである。
『緊急クエスト』を受けることによって報酬が分配されることになっているのだ。
そのため緊急クエストを受けようとする冒険者たちで今はギルドが人で一杯である。
「次に希望の参加場所ですがどういたしましょうか。もちろん他の方々と希望が多数重なった場合は希望に沿えない結果となってしまうかもしれませんが……」
「回復魔法が使えるので後方支援でお願いします」
回復魔法を使える俺が後方支援に回ったほうが、よりたくさんの人を治療できるのではないかと思ったからだ。
それにエスイックや魔王様からも回復を頼むと言われてある。
二人からの頼みを断るわけにもいかないので、俺はお姉さんにそう答えた。
俺は後方支援で希望を出したがもしかすると他の人と希望が重なって前衛になる可能性もあるはずだ。
それに他の人には戦わせておいて自分だけは後方支援に回るなど言語道断だと言われるかもしれない。
「こ、後方支援ですか?」
案の定お姉さんが俺に尋ねてきたと思ったが、どうにも顔を見てみるとそんな蔑みの目などではなくどこかホッとしたような表情である。
「実は冒険者の皆さんは前衛に希望が多くてですね……」
俺が首をかしげていたのに気づいたお姉さんが、わざわざそう説明してくれる。
「へぇ……」
それは正直意外だった。
「ですので後方支援の方が正直ありがたいですね」
どうやらそういう理由でお姉さんはホッとしていたらしい。
まぁ、ということは俺の希望は通るようなので、俺としても正直助かった。
「じゃあそれでよろしくお願いします」
それから少し世間話のような話もして俺はお姉さんのいる受付から離れた。
「よし、なら帰るかな」
色々としなければいけないことも終わったので、俺はギルドの出口へと向かう。
「ネストさん」
後ろからの声に振り向くとそこにはアスハさんがギルドの制服姿で立っていた。
「あ、アスハさん」
俺は久しぶりに見たアスハさんの制服姿に思わず緊張する。
さっきはたくさんの冒険者たちが並んでいたために良く見えなかったのだ。
「ネストさんはもう帰られますよね?」
「あ、はい」
しかしアスハさんはこんなところ居て大丈夫なのだろうか。
今も周りの冒険者たちが嫉妬の目をこちらに向けてきている。
そんな目を向けられても別にそういう関係でもないのでどうしようもないのだが……。
「私ももう帰るので一緒に帰りましょう」
「え」
アスハさんの言葉に俺だけでなく周りの冒険者、主に今までアスハさんの受付に並んでいた冒険者たちから驚きの声があがる。
「し、仕事は大丈夫なんですか……?」
恐らく俺は他の冒険者たちの疑問に思っているだろうことを代表して聞く。
「はい、もう終わりました」
……では、この並んでいる人達は一体何なんだろうか。
まぁアスハさんも今日一日仕事をして疲れたのだろう。
こちらを睨んできている冒険者たちには悪いが、俺はどうすることもできない。
「……それとも私と帰るの、嫌、でしょうか……?」
「そ、そんなとんでもない!」
アスハさんの上目遣いに俺は思わずたじろぐが、何とかそう答える。
「じゃあ行きましょうか」
そして俺たちは二人でギルドの出口をくぐったのだった。
「そういえばネストさん」
「はい、何ですか?」
アスハさんは今、俺の斜め後ろを歩いていた。
既に日は傾いていて、辺りは橙色に染まりだしている。
「…………」
だが、いつまで経ってもアスハさんからの返事がない。
「……今日、私以外の受付に行ってましたよね……?」
気がつけばアスハさんは俺のすぐ後ろまでやってきていて、俺の肩を掴んでいる。
耳元で囁いてくるアスハさんに、俺は冷や汗を禁じ得なかった。
懲りずにまた別の新作です。
【落下物にお気を付けください】
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一読頂けたら幸いです。